迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈

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さて、ここはどこでしょう?③

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先ほどまで外を覗いていた庭園の出入り口、アーチの手前から少し入り込んだ場所で水音が聞こえた。傍まで寄ると、立水柱と思しき物に手をつき腰を折り曲げている男性がいた。

 さっき見たばかりのマント。なんとか隊の誰かみたい。具合が悪いのに行事に出るとは、なかなかにブラックな感じが漂う。なんとなく日々の仕事に追われる自分を重ね合わせてしまい親近感がわいた。

 そっと近づき、相手が吐き終えて顔を洗うタイミングでハンカチを差し出した。

「どうぞ」
「っ!」

 いきなり話しかけたからか、顔を向けたその人は驚いた表情をしている。

 あ、さっきのなんとか騎士団長さんだ。肌を流れる滴と、藍色の瞳がイケメン具合に拍車をかけてる。モデルにしてもなかなかいない逸材だ。

 彼は訝し気に差し出した水色のハンカチと私の顔を見比べる。受け取るのを躊躇ってる感じ。そんなに警戒されると決まりが悪くなる。かといって自分から出した手前、すぐ引っ込めるわけにもいかなくて尚更気持ちが落ち着かない。

 しばらくしてから自身のズボンのポケットに手を伸ばす。一拍置いてその行動に気づいて、持っているのなら、と仕舞いかける。けど持っていなかったようで私より早く、パッとハンカチを掴まれた。拍子に指先が触れる。

「!」

 ビックリして慌てて手を引っこめる。自分でも驚くぐらい大袈裟な反応。思わず恥ずかしくなる。これは相手にも失礼だったかもしれない。少し距離を取って一旦心を落ち着ける。

 そして口元を引き上げ笑みを作って話しかける。営業スマイルなら得意だからね。

「私、藤澤留美と言います。ちょっと迷ってしまって……体調が悪い中、申し訳ないのですが、ここがどこなのか教えていただけますか?」
「……フジサワ、ルミ……」

 失礼、と短く告げた彼はハンカチでざっと顔を拭いて、素早く畳んだあと私の方に向き直した。

 姿勢を正すと私より頭一個分は優に超えている。彼は丁寧に胸元へ手を添えて続けた。

「私はフェルクス。フェルクス・ロギアスタ。アリステギア王国に仕える騎士をしている。先程は見苦しいところを見せてしまってすまなかったね。借りたものは後日改めて返すよ」
「気にしないでください。たいした物じゃありませんから」

 と、手を出したもののハンカチは戻って来ず、彼のポケットへ収納されてしまった。仕方なしに苦笑する。

「では、お言葉に甘えさせていただきます。ところで、アリステギア王国と仰いましたが周辺国も教えていただけますか? もしかしたら知ってる地域があるかも……?」

 と言いつつ記憶の中をひっくり返しても、アリステギア王国なんて聞いたことない。心なしか、なんかちょっと言いづらいし。

 もしかしたら世界地図の間にちっさく載ってる国なのかも?と、思ったけど。冷静に考えれば……うん。可能性はほぼ無いよね。

 そうなると内心、勝手に考えていた瞬間移動説が完全に消えた。代わりにタイムスリップ?なんて浮かぶけど、過去にもそんな国ないじゃんって一人で突っ込みする。

 結局のところ、ここはいったいどこなのか。

 いつの間にか営業スマイルが崩れて苦悶する。うーん、と悩んでいたら唐突にフェルクスさんが柔らかく表情を崩した。男の人にこう言っちゃなんたけど、可愛らしい。

「なら、私の部屋に案内するよ。地図を見た方が早いだろうからね」
「あ、えっと……」

 いきなり知らない人の部屋は抵抗があったけど、相手は体調不良だった。早く休みたいだろうし、私も地図を借りたら外に出ればいい。なにより、いま得られる情報は逃せない。

 そう結論付けて、言葉を返す。

「じゃあ、宜しくお願いします」

 軽く頭を下げて彼に付いて、私はその場を後にした。
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