迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈

文字の大きさ
58 / 134

お約束がありました③

 席に座ると続けてメディが正面に座る。少ししてバタンっと扉が閉まり馬車が出発した。ちなみにセルトンは外で御者の隣にいる。

 周りをキョロキョロ見ていたメディが「すごいわね」と口を開いた。

「中も綺麗。座り心地も良いのね」
「お気に召したのなら嬉しい限りよ」

 ウフフと笑っていたら、メディが唐突にジッと見つめてくる。しばらく笑みを張り付けていたけど次第に気まずくなる。誤魔化すようにまた扇を開いて口元を隠した。

 けど彼女の視線は変わらない。堪えきれずに問いかけた。

「なにかしら?」
「この間と雰囲気が違うわ」
「そう?」
「ええ」

 なおもずっと見つめられる。これじゃあ落ち着かない。観念した私は息を吐いて、扇を膝に置いた。

「そうね。ちょっと慣れないことしてたかも」
「うん、こっちの方がいい」

 ニコッと笑われて、なんとなくホッとする。同じように軽く笑みを返した。気が楽になると周りを楽しむ余裕も出来る。

 外に響く単調な蹄の音に耳を傾け、窓の外に視線を向ける。ゆっくりと街路に並ぶ木々が流れていき、合間に様々な建物が見えた。

 視界の端にチラッと川が見えて、さらに良く見ようと顔を動かしかけた時、メディが「あ!」と声をあげた。びっくりして「え?」と返す。

「正式に婚約したのね!」
「あ、うん。そう…」

 首もとのチョーカーに触れて思い出す。あのとき……一度失敗した加護の儀のあと、フェルは丁寧に謝ってくれた。怪我をさせたことに対して、とそれから私が原因ではなかったことということも付け加えて。私ももちろん、気にしないで、と伝えた。

 だけどやっぱり考えてしまう。あの瞬間、彼は確かにを見ていたのだから。

 そのせいもあって、後日また執り行われた儀式でもぎこちなさが残っていたのは否めない。今朝だってつい避けてしまった気がする。

 でもそんな思考を遮るメディの声。

「ちょっと待って!? これ本物じゃない?!」
「わっ、なに?!!」

 突然隣にくるメディが抱きつく勢いで私の首もとを食いつくように見始めた。疑問符を浮かべる私を置いて、じっくり見ていた彼女は一人納得する。

「この間の落札物はこうなったのね」
「落札って?」
「知らないの? …あ、そうね。ルーはまだこの国に来たばかりなんだっけ。記事板は見てないわよね」

 そう言って説明してくれる。少し前、この世界の新聞のようなものに見出しが出た。王国主催の競売で目玉商品が高額付けられて落札されたと。

「ヤルックの革なんて用途はひとつしかないでしょ? しかも落札した金額が相場の十倍はしたのよ。絶対本物を渡したいって想いが伝わってきてロマンチックよねって、お茶会でも話題だったんだから」

 でも、と彼女はニヤッと何かを含んだ笑いをする。

「まさかこんなに身近に、その愛されてる人がいるなんてね」
「あ、愛?! いやいや、あり得ないよ」

 慌てて首と手を横に振る。話だけ聞くとそんな風に見えなくもないけど、私はあくまで仮の婚約者。たぶん家門のために必要だったとか、きっとそういうの。

 それを伝えるとメディは信じられない、と言った風に眉根を寄せた。

「本気で言ってるの? それこそあり得ないわ。貴族御用達の店で購入すればどこの店でも、ヤルックほどじゃなくてもそれなりの高級品なのよ。わざわざ滅多に開かれない王家の競売で買ったりしないわ」
「タイミングが良かったんじゃないかな」

 苦笑しながら言ったら、あんぐり口を開けられる。すぐに彼女は盛大に溜め息を吐いて頭を抱えた。

「フェルクス様の苦労が目に浮かぶわ」
「それよりさっ、メディ今日すごく可愛らしいね」

 だんだん恥ずかしくなって咄嗟に話題をそらす。メディは一瞬動きを止めたものの、すぐパッと表情を明るくさせた。

「そうでしょ?! ふふっ、今日は勝負の日だもの。気合い入れたわ」

 自身のスカートを軽く広げる。桃色の生地に散りばめられた銀糸の刺繍がよく見える。「どう?」と頭を傾けると金色の髪に映える赤い花の髪飾りが揺れた。

「今日は勝負の日なの?」

 メディの言葉を繰り返したら彼女は大きく目を見開いて、すぐにズイッと顔を寄せてくる。どこか凄みながら顔に似合わないことを言う。

「あのね、ルー。アタシ、貴女に感謝してるのよ?」
「メディ、顔とセリフが合ってないよ」

 私の言葉は耳に入らず。彼女は「実はね」とうつむきがちになりながら、続けた。

「アタシの家、男爵だって聞いたでしょ?」
「さっきね」

 正確には彼女の従者が言っているのを聞いただけ。家柄の話は手紙でもやり取りしていなかったから知らなかった。

 しかも、と彼女は続ける。

「嫡男はいないの。姉妹ふたりで姉は医師を目指してる」
「まあ。それは良いことじゃない?」

 お医者様だなんて、どこの国でも大切な存在。それを目指すなんて凄いと思うんだけど……メディの表情は不満そうに見える。

「医師は国から特別な報酬を貰えるから父も何も言わない。けど爵位は上がらないのよ。だから優秀な姉の代わりに、お前が位の高い者と結婚しろと言われてるの」
「無茶なこというね」
「そうよ。実際難しい話だわ。侯爵家以上になれば、ほとんど政略結婚よ。お互いの利害を中心に幼いうちから許婚を決めているの。そんな中に入れるわけないのよ……」

 だけど、と彼女は続ける。

「少し前に騎士様たちの位が上がったじゃない? ああ、いえ……上がったというのは適切じゃないわね」
「与えられたって聞いたけど」

 私が言うと「そっか」と呟く。

「ルーは外から来たんだものね。でもそう、その通りよ」

 そうして続ける。

 この国で騎士爵が王家に属していること。

 だから王都で動いてる貴族とは切り離された存在だった、ということ。

 そして互いの習わし、つまり騎士にまつわる集まりについて貴族は知らないし、反対に騎士が社交界に出る必要はなかったと教えてくれた。以前フェルに教えてもらった内容と概ね同じ。

「それぞれ繋がる必要はなかったのよね」
「ええ。だけど少し前、爵位を与えられた騎士様がこちら・・・側に来た。だからねアタシみたいに位が低い者たちにはチャンスだったのよ」
「それでアプローチが激しかったのね」
「フェルクス様は別の理由もあるけどね」
「別の理由って…」
「とにかく!」

 メディはさらにグイッと体を寄せてくる。

「あのとき残ってたのはフェルクス様と他二人。アンバル様とノア様だけだったの」
「そう」
「けどね、アンバル様とノア様はちょっといろいろアレだし。それでアタシもフェルクス様がいいかなって。でもあんな噂を真に受けるだなんてどうかしてたわ。だから、その……」

 不意に手を握られて、視線を向けたら真っ直ぐ見つめられた。

「貴女には不快にさせたと思うから……ごめんなさい」
「……」

 婚約者がいるにもかかわらずアタックしてごめんなさい、かな。

 私は契約してるだけだから、謝られる権利はないのだけれど。とりあえず「気にしないで」と言っておいた。

「けどそのおかげでアンバル様に会えるだなんて……貴女のおかげよ、ルー」
「メディは、そのアンバル様が好きなの?」

 なんとなく思ったから訊いただけなんだけど、一瞬目を瞬かせて、でもすぐに赤くなる。

 あら、可愛い。

 ずっと見ていたら、誤魔化しきれないと思ったのかポツリポツリと話始めた。

「……昔ね、一度だけお話したことがあったの。アタシ、幼い時から両親と折り合い悪くて、あの人たちと暮らしてるのが辛かった。あるとき我慢してたのが爆発しちゃって、家を出てしまったのよ」

 所謂、家出というものね。わかる気がする。どこかに行きたくなるときはあるよね。

 メディは、さらに続けた。

「家に帰りたくなくて、でも、行くところもなくて……そんなときに声をかけてくれたのが」
「アンバル様だったのね」

 メディが小さく頷く。

「事情を話したら家に戻されるのは分かってた。でも、王都を警護してる騎士様だもの。言わないわけにはいかなくて……泣きながら説明したの。そしたらアンバル様、黙って自分の馬に乗せてくれて……」

 メディが、ふっと外に視線を向けた。その時のことを思い出しているのだろうか。

 少しして続ける。

「街中を思いきり駆け始めたわ。乗馬なんて、まだやったことがなかったから、すごく驚いたし怖かった。でもね、ルー。その時、不思議と自分の悩みが小さく感じられたのよ」
「……そうなのね」
「たぶん、あの時からアンバル様のことを考えてた。でも彼は騎士様だからって諦めて……今回爵位の件があったけど、でも彼は人嫌いだって聞いて諦めたのよ。けどね」

 にこっと可愛らしく笑う。

「ルーに会えてフェルクス様にチャンスをもらえて……三度目だもの。今度は諦めないって決めたの」
「メディ…」
「だから、見守っててね」
「ええ」

 私に手伝えることは何もないけど「そばにいるから頑張って」と伝える。彼女は一層可愛らしく微笑んだ。

 メディがこんなに想う方。どんな人なのかな。期待を胸に、私たちの乗る馬車は鍛練場を目指して走り続けた。

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※表紙はAIにより作成したものです。 ※小説内容にはAI不使用です。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」様にも掲載しております。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。