もう悪役令嬢じゃないんで、婚約破棄してください!

翠月 瑠々奈

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自由に……ね。

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 引き留めたはいいけど、場の空気が凍ってる。

「…………」
「…………」
「…………」

 これは、アタシが溶かさないとマズイよね。そう思って彼の元に寄り、膝をついて、なんとか言葉を選ぶ。

「えっと……そうね。状況を見誤ったのは貴方の落ち度だわ」
「申し訳ありません!」
「ただね、誠意を持って貴方は謝ってくれたわ。だからアタシも、その謝罪を受け入れたいの。でも、今のままじゃダメ。ちゃんとお互いの顔を合わせなくちゃ。ね、エド、分かるでしょう?」

 とか、なんとか……。

 今はただ貴方の顔が見たいの!それだけなの!早く、早く、エドー!!

 緩みかける頬を、無理矢理引き締める。

 言葉が届いたのか、彼がゆっくりと顔を上げ始めた。

「!」

 いやん!間近で見たら、思ってた以上にカッコいい。

 しかも、その鳶色の瞳が射抜かれそうなくらい精悍。直視出来ずに、思わず顔を逸らす。

 そしたら、エドが膝を立てて手を伸ばした。疑問を浮かべる間もなく、アタシの頬に触れて、そのまま掬うように顎を持ち上げる。

「御嬢様が逸らしてしまったら、顔を合わせることが出来ません」
「っ…!」

 瞬間、ボフンと音でもしそうなくらい赤面する。

 キャー!キャー!キャー!

 ムリムリ!耐えられない!特大のバズーカー砲じゃないですか!

 ドッキュン来ましたよ!?高鳴る鼓動が止まらない!

 真っ赤な顔のまま、何も言えなくなること数秒。アタシたちは見つめ合っていた。

 そして、先に動き出したのはエドの方。

「あ……」
「え?」

 疑問符を出したら、再び彼の顔色が悪くなっていく。恐る恐る手を離して、身を引くと、また地面に頭をつけた。

「許可なく触れてしまい、申し訳ありません!」
「え、いや……全然良いのよ?」
「そういうわけにはいきません!」
「だけど、それでは、振り出しに戻ってしまうわ?」
「ですが……遵守事項に」

 と、胸ポケットから取り出したのは、折り畳まれた紙。それを広げてくと……。

 長い長い長い!!

 チラッと見えたけど、アタシには指一本触れないとか、手の届く範囲に入らないとか、しまいには、同じ空気を吸わないとまで書いてあった。

 それ、もう生きられないから!

 てか、それもういらないから!

 エドに微笑んで、手を出す。当然、彼は首を傾げた。

「御嬢様?」
「それ、貸しなさい」
「え?」
「いいから。ね?」
「かしこ、まりまし」

 差し出しかけたその紙を、バッと奪い取って……。

「ハアッ!!」
「あ!」

 暖炉に放り込んでやった。フゥ~、スッキリ。

 パンッパンッと手を叩いたら、半ば呆然としていたエドが、ハッと意識を取り戻し、慌て始める。

「お、御嬢様! 何を」
「アタシが指示したことなのよね。なら、全て破棄しますわ。これからは自由にしていいのよ?」
「自由に、ですか……」
「ええ」

 自由に、アタシを好きにしていいのよ!と言いたかったけど、さすがにそこまでは言えない。

 言ったとしても、少し前まで冷酷無情の御嬢様にそんなこと出来ないだろうし。

 そう考えたことを裏付けるかのように、エドとミーシャが顔を合わせ、戸惑った表情を浮かべた。

 そして彼は、わずかに視線を下げる。

「私は先程……覚悟を決めて、ここに来たつもりでした」
「覚悟?」
「ええ。貴女に罵られ、殴られ、最悪追い出されることもあるだろうと」
「さすがにそこまで」

 と、言いかけて、ふとエドの腕が目に入る。袖を肘まで捲っていたけど、その肌にいくつもの赤い線が出来ていた。

 これはもしや、とミーシャへ視線を移す。

 彼女も同じように、手首へ痣をつくっている。パッと見で分からないところが、なんとも陰湿だ。

 確かにシャーロットは、冷酷無情の悪役令嬢とされ、犯罪スレスレの悪事を起こしてきた。と、登場時に説明されてた。こんなの甘い方に入るのかもしれないけど……その一端を目の当たりにすると、胸が苦しくなる。

 アタシは、そんな事情も知らないで、浮かれていたのだから。

「……」

 そっと、掌を握りしめる。

 自分がやったことじゃないとは言え、今はアタシがシャーロットだもの。彼らにしてあげることは、一つしかない。

 もう傷つけるようなことはしない、と伝えること。

 普通に言ったのでは、相手も警戒するし、信じてくれないだろう。だから、何かがあって反省したという体を取る。

 何がいいかしら、と考えて、一つ閃いた。

 再びエドの前にしゃがみこみ、さりげなく手を握る。

「…………」

 これぐらい許されるわよね?いや、許してください!

 内側で騒ぎ立てる心を、一度、深呼吸し整えて、真っ直ぐ彼を見つめた。

「聞いて、エド。あ、ミーシャも。アタシね、さっき、この部屋に飛び込んできたエドの行動に胸を打たれたのよ」
「私の、ですか?」
「ええ。自分を顧みないその行動! 見習わなきゃと思ったわ」
「御嬢様が、ですか?」
「そうよ。もう自分勝手な振る舞いは卒業したいの」
「卒業?」

 う、この言葉は、この世界にないのかしら?

 ええい、誤魔化しちゃえ!と、大きく咳ばらいをして、立ち上がる。

「とにかく! アタシは貴方たちを見習うわ! だからエド、今から貴方の下にアタシをつけなさい!」
「えっ?!」

 いや、無理ですよ!!と、焦るエドをなんとか言いくるめて、無事に一緒にいる時間を確保した。

 言葉で伝えるられないことは、行動あるのみ!

 もう害はない、と分かってくれたら本望だわ!と。
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