2 / 10
自由に……ね。
しおりを挟む
引き留めたはいいけど、場の空気が凍ってる。
「…………」
「…………」
「…………」
これは、アタシが溶かさないとマズイよね。そう思って彼の元に寄り、膝をついて、なんとか言葉を選ぶ。
「えっと……そうね。状況を見誤ったのは貴方の落ち度だわ」
「申し訳ありません!」
「ただね、誠意を持って貴方は謝ってくれたわ。だからアタシも、その謝罪を受け入れたいの。でも、今のままじゃダメ。ちゃんとお互いの顔を合わせなくちゃ。ね、エド、分かるでしょう?」
とか、なんとか……。
今はただ貴方の顔が見たいの!それだけなの!早く、早く、エドー!!
緩みかける頬を、無理矢理引き締める。
言葉が届いたのか、彼がゆっくりと顔を上げ始めた。
「!」
いやん!間近で見たら、思ってた以上にカッコいい。
しかも、その鳶色の瞳が射抜かれそうなくらい精悍。直視出来ずに、思わず顔を逸らす。
そしたら、エドが膝を立てて手を伸ばした。疑問を浮かべる間もなく、アタシの頬に触れて、そのまま掬うように顎を持ち上げる。
「御嬢様が逸らしてしまったら、顔を合わせることが出来ません」
「っ…!」
瞬間、ボフンと音でもしそうなくらい赤面する。
キャー!キャー!キャー!
ムリムリ!耐えられない!特大のバズーカー砲じゃないですか!
ドッキュン来ましたよ!?高鳴る鼓動が止まらない!
真っ赤な顔のまま、何も言えなくなること数秒。アタシたちは見つめ合っていた。
そして、先に動き出したのはエドの方。
「あ……」
「え?」
疑問符を出したら、再び彼の顔色が悪くなっていく。恐る恐る手を離して、身を引くと、また地面に頭をつけた。
「許可なく触れてしまい、申し訳ありません!」
「え、いや……全然良いのよ?」
「そういうわけにはいきません!」
「だけど、それでは、振り出しに戻ってしまうわ?」
「ですが……遵守事項に」
と、胸ポケットから取り出したのは、折り畳まれた紙。それを広げてくと……。
長い長い長い!!
チラッと見えたけど、アタシには指一本触れないとか、手の届く範囲に入らないとか、しまいには、同じ空気を吸わないとまで書いてあった。
それ、もう生きられないから!
てか、それもういらないから!
エドに微笑んで、手を出す。当然、彼は首を傾げた。
「御嬢様?」
「それ、貸しなさい」
「え?」
「いいから。ね?」
「かしこ、まりまし」
差し出しかけたその紙を、バッと奪い取って……。
「ハアッ!!」
「あ!」
暖炉に放り込んでやった。フゥ~、スッキリ。
パンッパンッと手を叩いたら、半ば呆然としていたエドが、ハッと意識を取り戻し、慌て始める。
「お、御嬢様! 何を」
「アタシが指示したことなのよね。なら、全て破棄しますわ。これからは自由にしていいのよ?」
「自由に、ですか……」
「ええ」
自由に、アタシを好きにしていいのよ!と言いたかったけど、さすがにそこまでは言えない。
言ったとしても、少し前まで冷酷無情の御嬢様にそんなこと出来ないだろうし。
そう考えたことを裏付けるかのように、エドとミーシャが顔を合わせ、戸惑った表情を浮かべた。
そして彼は、わずかに視線を下げる。
「私は先程……覚悟を決めて、ここに来たつもりでした」
「覚悟?」
「ええ。貴女に罵られ、殴られ、最悪追い出されることもあるだろうと」
「さすがにそこまで」
と、言いかけて、ふとエドの腕が目に入る。袖を肘まで捲っていたけど、その肌にいくつもの赤い線が出来ていた。
これはもしや、とミーシャへ視線を移す。
彼女も同じように、手首へ痣をつくっている。パッと見で分からないところが、なんとも陰湿だ。
確かにシャーロットは、冷酷無情の悪役令嬢とされ、犯罪スレスレの悪事を起こしてきた。と、登場時に説明されてた。こんなの甘い方に入るのかもしれないけど……その一端を目の当たりにすると、胸が苦しくなる。
アタシは、そんな事情も知らないで、浮かれていたのだから。
「……」
そっと、掌を握りしめる。
自分がやったことじゃないとは言え、今はアタシがシャーロットだもの。彼らにしてあげることは、一つしかない。
もう傷つけるようなことはしない、と伝えること。
普通に言ったのでは、相手も警戒するし、信じてくれないだろう。だから、何かがあって反省したという体を取る。
何がいいかしら、と考えて、一つ閃いた。
再びエドの前にしゃがみこみ、さりげなく手を握る。
「…………」
これぐらい許されるわよね?いや、許してください!
内側で騒ぎ立てる心を、一度、深呼吸し整えて、真っ直ぐ彼を見つめた。
「聞いて、エド。あ、ミーシャも。アタシね、さっき、この部屋に飛び込んできたエドの行動に胸を打たれたのよ」
「私の、ですか?」
「ええ。自分を顧みないその行動! 見習わなきゃと思ったわ」
「御嬢様が、ですか?」
「そうよ。もう自分勝手な振る舞いは卒業したいの」
「卒業?」
う、この言葉は、この世界にないのかしら?
ええい、誤魔化しちゃえ!と、大きく咳ばらいをして、立ち上がる。
「とにかく! アタシは貴方たちを見習うわ! だからエド、今から貴方の下にアタシをつけなさい!」
「えっ?!」
いや、無理ですよ!!と、焦るエドをなんとか言いくるめて、無事に一緒にいる時間を確保した。
言葉で伝えるられないことは、行動あるのみ!
もう害はない、と分かってくれたら本望だわ!と。
「…………」
「…………」
「…………」
これは、アタシが溶かさないとマズイよね。そう思って彼の元に寄り、膝をついて、なんとか言葉を選ぶ。
「えっと……そうね。状況を見誤ったのは貴方の落ち度だわ」
「申し訳ありません!」
「ただね、誠意を持って貴方は謝ってくれたわ。だからアタシも、その謝罪を受け入れたいの。でも、今のままじゃダメ。ちゃんとお互いの顔を合わせなくちゃ。ね、エド、分かるでしょう?」
とか、なんとか……。
今はただ貴方の顔が見たいの!それだけなの!早く、早く、エドー!!
緩みかける頬を、無理矢理引き締める。
言葉が届いたのか、彼がゆっくりと顔を上げ始めた。
「!」
いやん!間近で見たら、思ってた以上にカッコいい。
しかも、その鳶色の瞳が射抜かれそうなくらい精悍。直視出来ずに、思わず顔を逸らす。
そしたら、エドが膝を立てて手を伸ばした。疑問を浮かべる間もなく、アタシの頬に触れて、そのまま掬うように顎を持ち上げる。
「御嬢様が逸らしてしまったら、顔を合わせることが出来ません」
「っ…!」
瞬間、ボフンと音でもしそうなくらい赤面する。
キャー!キャー!キャー!
ムリムリ!耐えられない!特大のバズーカー砲じゃないですか!
ドッキュン来ましたよ!?高鳴る鼓動が止まらない!
真っ赤な顔のまま、何も言えなくなること数秒。アタシたちは見つめ合っていた。
そして、先に動き出したのはエドの方。
「あ……」
「え?」
疑問符を出したら、再び彼の顔色が悪くなっていく。恐る恐る手を離して、身を引くと、また地面に頭をつけた。
「許可なく触れてしまい、申し訳ありません!」
「え、いや……全然良いのよ?」
「そういうわけにはいきません!」
「だけど、それでは、振り出しに戻ってしまうわ?」
「ですが……遵守事項に」
と、胸ポケットから取り出したのは、折り畳まれた紙。それを広げてくと……。
長い長い長い!!
チラッと見えたけど、アタシには指一本触れないとか、手の届く範囲に入らないとか、しまいには、同じ空気を吸わないとまで書いてあった。
それ、もう生きられないから!
てか、それもういらないから!
エドに微笑んで、手を出す。当然、彼は首を傾げた。
「御嬢様?」
「それ、貸しなさい」
「え?」
「いいから。ね?」
「かしこ、まりまし」
差し出しかけたその紙を、バッと奪い取って……。
「ハアッ!!」
「あ!」
暖炉に放り込んでやった。フゥ~、スッキリ。
パンッパンッと手を叩いたら、半ば呆然としていたエドが、ハッと意識を取り戻し、慌て始める。
「お、御嬢様! 何を」
「アタシが指示したことなのよね。なら、全て破棄しますわ。これからは自由にしていいのよ?」
「自由に、ですか……」
「ええ」
自由に、アタシを好きにしていいのよ!と言いたかったけど、さすがにそこまでは言えない。
言ったとしても、少し前まで冷酷無情の御嬢様にそんなこと出来ないだろうし。
そう考えたことを裏付けるかのように、エドとミーシャが顔を合わせ、戸惑った表情を浮かべた。
そして彼は、わずかに視線を下げる。
「私は先程……覚悟を決めて、ここに来たつもりでした」
「覚悟?」
「ええ。貴女に罵られ、殴られ、最悪追い出されることもあるだろうと」
「さすがにそこまで」
と、言いかけて、ふとエドの腕が目に入る。袖を肘まで捲っていたけど、その肌にいくつもの赤い線が出来ていた。
これはもしや、とミーシャへ視線を移す。
彼女も同じように、手首へ痣をつくっている。パッと見で分からないところが、なんとも陰湿だ。
確かにシャーロットは、冷酷無情の悪役令嬢とされ、犯罪スレスレの悪事を起こしてきた。と、登場時に説明されてた。こんなの甘い方に入るのかもしれないけど……その一端を目の当たりにすると、胸が苦しくなる。
アタシは、そんな事情も知らないで、浮かれていたのだから。
「……」
そっと、掌を握りしめる。
自分がやったことじゃないとは言え、今はアタシがシャーロットだもの。彼らにしてあげることは、一つしかない。
もう傷つけるようなことはしない、と伝えること。
普通に言ったのでは、相手も警戒するし、信じてくれないだろう。だから、何かがあって反省したという体を取る。
何がいいかしら、と考えて、一つ閃いた。
再びエドの前にしゃがみこみ、さりげなく手を握る。
「…………」
これぐらい許されるわよね?いや、許してください!
内側で騒ぎ立てる心を、一度、深呼吸し整えて、真っ直ぐ彼を見つめた。
「聞いて、エド。あ、ミーシャも。アタシね、さっき、この部屋に飛び込んできたエドの行動に胸を打たれたのよ」
「私の、ですか?」
「ええ。自分を顧みないその行動! 見習わなきゃと思ったわ」
「御嬢様が、ですか?」
「そうよ。もう自分勝手な振る舞いは卒業したいの」
「卒業?」
う、この言葉は、この世界にないのかしら?
ええい、誤魔化しちゃえ!と、大きく咳ばらいをして、立ち上がる。
「とにかく! アタシは貴方たちを見習うわ! だからエド、今から貴方の下にアタシをつけなさい!」
「えっ?!」
いや、無理ですよ!!と、焦るエドをなんとか言いくるめて、無事に一緒にいる時間を確保した。
言葉で伝えるられないことは、行動あるのみ!
もう害はない、と分かってくれたら本望だわ!と。
58
あなたにおすすめの小説
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
やさしい・悪役令嬢
きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」
と、親切に忠告してあげただけだった。
それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。
友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。
あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。
美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
捨てられた騎士団長と相思相愛です
京月
恋愛
3年前、当時帝国騎士団で最強の呼び声が上がっていた「帝国の美剣」ことマクトリーラ伯爵家令息サラド・マクトリーラ様に私ルルロ侯爵令嬢ミルネ・ルルロは恋をした。しかし、サラド様には婚約者がおり、私の恋は叶うことは無いと知る。ある日、とある戦場でサラド様は全身を火傷する大怪我を負ってしまった。命に別状はないもののその火傷が残る顔を見て誰もが彼を割け、婚約者は彼を化け物と呼んで人里離れた山で療養と言う名の隔離、そのまま婚約を破棄した。そのチャンスを私は逃さなかった。「サラド様!私と婚約しましょう!!火傷?心配いりません!私回復魔法の博士号を取得してますから!!」
頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして
犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。
王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。
失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり…
この薔薇を育てた人は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる