もう悪役令嬢じゃないんで、婚約破棄してください!

翠月 瑠々奈

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おしまい

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 決戦の日。アタシは、王宮の広間の中心で、意気込んでいた。

 陛下の話やその他諸々が終わり、いよいよ戦いの火蓋が切られる。

 玉座に座る陛下の斜め前に、殿下が堂々たる姿で現れた。彼は真っ直ぐアタシを見ている。でも、大丈夫。すでに彼女の位置は把握済み。

 ここが勝負どころだ。

「……っ!」

 ゴクリと唾を飲み込む。緊張から鼓動が速くなる。それでも、タイミングを逃さないよう、視線は彼を見据えたままだった。

 私のたった一つの強み!

 それは……ストーリーを知ってること!(デデン!)

 通常なら、ここでヒロインを選んだ殿下が、彼女に嫌がらせした悪役令嬢シャーロットに罪を突きつける。

 けど恐らく彼は、先日言った通り、ここでアタシの名前を呼ぶつもりだ。

 悪いけど、そうはいかないわ!

 さあ、一気に畳み掛けます!

 殿下が、手を私の方に差し伸べながら、口上を述べ始める。

「……陛下へ宣言する。私が婚姻を結ぶのは、他でもない。そこの」

 今だ!!

 サッと、事前に把握していたカナと私の位置を変える。秘技・変わり身の術!

「え?」

 カナが驚いてるけど、知ったことじゃない。殿下に名を呼ばれる寸前、声を張り上げる。

「そこのシャ「そんな!!」」

 思いっきり、殿下の台詞に割り込んで、元々カナがいた場所の人混みから大袈裟によろめきながら、前に出る。

 そして、倒れ込むように地面に座り込んだ。

「シャル?!」
「そんな、殿下……あんまりですわ! 私という婚約者がありながら、異国より参られたカナ様と結婚したいだなんて!」

 よよよ……と、涙するフリをする。
 周りがざわめきたった。ヒソヒソと、そんな、まさか、と聞こえる。

 掴みはOKだろう。周囲をチラリと窺うと、殿下が慌て始めた。

「シャル! いったい何を」
「先程指し示したではありませんか! カナのことを」
「そんなことはない! 私はシャルを」
「おかしいと思っていたのです! 王宮内でのお茶会、殿下と共に現れたのは彼女でしたわ! そうでしょう? 近衛の方!」

 と、振れば、白い正装姿の彼らは、しどろもどろになる。当然よね。実際、現場は見てるんだもの。

「た、確かにあの場ではいらしておりましたが……」
「おい! あれは」
「そうでしょう!? とても傷つきました!」

 そう言ったところで、思わぬところから援護射撃がくる。

「儂も以前より、気掛かりでおった。そなたらの距離は近すぎる。シャーロット嬢にいらぬ心配をかけるのではないか、と。よもやそれが、このような場で明かされようとは」
「陛下! そのようなことはありません! 私は客人として彼女を」
「陛下のお心遣い、痛み入ります。ですが、もう良いのです!」

 立ち上がり、アタシはカナの手を取った。

「陛下、お聞きくださいませ! わたくしは、二人の愛に感銘を受けましたの!」
「ほう? して、どの辺りにだ?」
「殿下が敢えて、このような場で告げた。その部分にですわ! それは、それほど彼女を愛しておられるということ! それに、婚宣式は最終決定を下す場ではなくて? 相手が変わっても、おかしくないはずです」
「確かにな。だがしかし、今まで、このようなことは起きなかった」
「新たな歴史が出来たなら、それは素晴らしいこと。私は二人を心から祝福したい! 皆様はどう? 同じ気持ちじゃないかしら?」

 集まる人々に、訴えるように聞く。始めは戸惑っていた人々も、一人二人と手を叩き、最後には拍手喝采となった。

 その中心には、半ば呆然とした殿下。そして、戸惑いつつも頬を染めるカナの姿があった。

 そしてアタシは最後に、と、陛下に向き合い身を屈め頭を下げた。

「とはいえ、婚宣式で相手が変わるのは陛下も仰った通り、異例のこと。諸外国へは、理由が必要でしょう。その理由に、私が療養のため、国を去らざるを得なかったとしていただきたいのです。如何でしょうか?」
「致し方ない。そこまで膳立ててもらって断るわけにはいかぬな。そなたの願い、聞き入れよう」
「父上?! お、お待ちください」
「カミル。ここまでしてもらって尚、物申すというのか。次期国王となるなら、このような婚約者を持ったことを誇りに思うべきだ」
「…………」

 アタシを一瞥した殿下が、唇を噛み締め、小さく答えた。

「承知……した。我が妻と迎えるは、カナとする」

 改めて、拍手が起こり、アタシはホッと胸を撫で下ろした。



 ……と、紆余曲折あったものの『暁の涙』は元のストーリー通り……いや、ほんの少し変わり、悪役令嬢は追放ではなく国外での療養となりました、とさ。

 その後、その女性はかつての使用人と幸せになり、一方の殿下は……というと。

*  *  *

「カナ」
「カミル? どうしました?」

 真っ白な花嫁衣装。控え室に尋ねたカミルが、眩しげに瞳を細める。

「いや、美しいな。と思っただけだ」
「嬉しいです。けど……」
「どうした?」
「あの時、私を選んでしまって良かったのですか? 後で聞いたことですが……婚宣式を取り下げることも出来たと」
「そうだな。だが、お前は一つ思い違いをしている」
「思い違い?」
「私はあの時も、お前に対し何も思っていなかったわけではない」

 それに、とカミルが続ける。

「最後に思ったんだ。図らずも仕組まれたことではあったが……」

 そっと、カナの手を取り顔を寄せる。

「この未来を見てみたい、と」
「カミル……」

 静かに落とす口付け。はにかむ笑みを浮かべるカナ。彼は、大切そうに彼女を導き、扉へと向かう。

 二人は、開けた扉の先へと、一歩を踏み出した。

 新たな日々を歩むために。

 
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感想 8

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みんなの感想(8件)

えみ
2019.04.16 えみ

王子わりと主人公のこと好き感あったのに仕方なくカナで妥協した感あってめっちゃ好きwww

2019.04.17 翠月 瑠々奈

えみ様

ご感想ありがとうございます<(_ _*)>
ちょっと前の話だったので、驚きました( ̄▽ ̄;)

確かに王子、最後は妥協しましたね(笑)
ただまあ、妥協せざるを得なかったのだと思います。国を背負う者ですからね(*´ω`*)

とはいえ、彼はある意味不敏な人なんですよ。最初、殿下が可哀想ってタグつけようとしたくらい(笑)
ネタばれになるんで、やめましたが(・ε・` )

そもそも自分の婚約者が、知らない人間と入れ替わってるなんて衝撃的ですよね。普通は夢にも思わないんじゃないかな。

特にシャーロットは、入れ替わる前まで殿下の婚約者になるために色々やったみたいですし、好意は見せてたことでしょう。それが突然の手の平返し(笑)

そう考えると、彼はずいぶん大人な対応をしたのだと……今思いました(笑)

実はこのお話、裏設定は、悪いことしたらバチがあたるぞ☆というものだったんですよね。

一生懸命手に入れた婚約者の座も、正攻法じゃなかったわけで(詳細は出てきておりませんが)神様は、見てたのだろうと思います(・∀・)

と、まあ、いろいろ書いてしまいましたが、ご感想嬉しかったです(*ノ▽ノ)ありがとうございました<(_ _*)>

解除
AQUA
2019.02.16 AQUA

読みました✨
とても面白かったですw
最後の最後に王子が大した思いもなくカナで妥協してるあたりがクズ過ぎて逆に好感持てましたw
別作品も楽しみにします!

2019.02.16 翠月 瑠々奈

AQUA様

お読みいただき有難うございます<(_ _*)>

クズですか。言われてみればそうですね(笑)
まあ、人間妥協の生き物ですし。良く言うじゃないですか。結婚するなら一番好きな人とじゃなく、二番目の方が上手くいくって(笑)人にもよりますけどね。
最終的に好感持っていただけたのでしたら、嬉しい限りですよ(*´ω`*)

それにしても、書き手と読み手の間では、受け取り方が異なることがある教えていただきました。
当然と言えば、当然なんですけど。
でも、大変感謝しております。

次ですかー、溺愛(正しい意味だと違いますけど)ものでも作りますかなー(*´∀`)♪イズレネ

解除
ミドリ
2019.02.05 ミドリ

完結おめでとうございます。面白かったです。どちらもハッピーエンドで良かったです。

2019.02.05 翠月 瑠々奈

ミドリ様

ありがとうございます♪
ご感想も嬉しかったです(*´ω`*)
ハッピーエンドって、いいですよね♪

解除

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