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早くお家に帰りたい。
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「彼女は、スズミヤ・カナ。異国より参れた私の姫君だ」
そう言って、掬うように手に取った髪の一房へ、唇を寄せる。
こりゃ、相当ご執心だ。有り難いことだけど。
カナさんの方も満更じゃないのか、頬を染めている。可愛らしい。これなら、くっつくのも時間の問題かな。万が一なんて、いらぬ心配だったみたい。
ふふっ、と笑みを浮かべ、丁寧に自己紹介をする。
「スズミヤ・カナ様、私はシャーロット・ハーレイと申します。以後お見知りおきを」
まあ、今後会う予定はないんだけど。
アタシからの挨拶に、カナさんも慌てて頭を下げた。
「あ、よ、よろしくお願いします!」
まだまだこの世界に慣れてないのね。なんて、先輩風吹かせたり……は、しないけど。とにかく挨拶は終えたから、早々に退散しようと、殿下へ向き直す。
「では殿下、カナ様と夜会をお楽しみくださいませ」
そう残して、深く頭を下げた。
はあー、終わった終わった。
あとは適当な貴人に挨拶して、さっさと帰りたい。
寝る前にエドとの時間とか取れないかしら。取れたらいいな、なんてウキウキして身を翻したら、殿下に引き止められた。
「シャル」
「はい?」
完全に不意打ち。いきなり愛称で呼ぶんだもの。反応出来たのが、奇跡なくらい。だいぶビビって、でもギリギリ、シャーロットの仮面はズレてなかったと思う。
なんとか笑みを保ったまま首を傾げたら、殿下が不機嫌そうに眉間へシワを寄せた。
なになに?どういうこと?
彼は、カナさんから離れ、そのままアタシの元に近づいてくる。
直後、手を引かれて、腕の中に収まってしまった。
「で、殿下……?」
ちょっとやめて!離れて!エドの前で、こんな……。
視線を動かしたら、エドと目が合う。けどすぐに逸らされてしまった。ショックで、目の前が真っ暗になる。
こんなの、ストーリーにないはずなのに。
アタシの気も知らないで、殿下が耳元へ顔を寄せた。
「今夜は随分大人しいではないか。私は、お前が嫉妬の一つでもしてくれるのではと、期待したのだがな」
「!」
殿下正気?なんて、訊けないから、目を大きく見開くに留める。
確かに、シャーロットを婚約者として選んだのは殿下だ。たとえ彼女が他の令嬢に何かをしたとしても、最終決定は彼が下す。
そこに、恋愛感情が全くなかったとは言えない。むしろ、この様子を見るからに逆だった、と。
でも今さら、どうしろと?!
アタシはエドが好きなのに!!
涙目になりながらも、必死で頭を巡らす。
「も、申し訳ありません、殿下。あまりにお似合いでしたの……あの、ごめんなさい。今日は体調が良くなく……後日改めて」
考えた割に大した言葉が出てこない。
最終兵器、体調不良でなんとか乗り切る。
彼も無理強いすることなく、「そうか」と言った。
「ならば今日は早く帰りなさい。お前の言った通り、また改めて話をしよう」
「申し訳ありません」
急いで彼から離れて、身を屈め頭を下げる。その後で、周囲の方々に、騒がせてしまったお詫びと、引き続き夜会を楽しんで欲しい旨を伝えた。
また夜会の賑やかさが戻ってきたところで、エドの元に駆け寄る。
「エド!」
「御嬢様?」
そのままの勢いで、彼の腕に飛び込んだ。エドは拒むことなく、抱き止めてくれる。
「……」
エドの香りに包まれてたら、落ち着きを取り戻せた。
うん、安心する。これは、拒まれてたらショック死してたレベルだ。
しばらくして、エドが静かに訊いてくる。
「御嬢様、大丈夫ですか?」
「あ、ごめんなさい。少し体調が良くなくて」
っていう、設定だった。
でも彼は、本気で心配してくれる。
「それはいけません。早く邸に戻りましょう」
「ええ、そうするわ。エド、悪いけど腕を」
貸してくれる?って聞こうとした。どさくさに紛れて、彼にずっとくっついちゃおう、なんて浅ましい考えで。
でも、最後まで言う前に、腰を抱かれたと思ったら、横抱きにされたのだ。
「え、エド?!」
お姫様抱っこだなんて、ご褒美過ぎる。嬉しくて、でも恥ずかしくて、彼の逞しい胸に顔を埋めたら、頭上で声がした。
「今しばらく我慢してください、御嬢様。すぐに連れて帰りますから」
「エド……有難う」
少しでも負担が軽くなるように、彼の首へと腕を回す。わずかに頬を染めたエドが抱き直し、アタシ達はそのまま夜会を後にした。
そう言って、掬うように手に取った髪の一房へ、唇を寄せる。
こりゃ、相当ご執心だ。有り難いことだけど。
カナさんの方も満更じゃないのか、頬を染めている。可愛らしい。これなら、くっつくのも時間の問題かな。万が一なんて、いらぬ心配だったみたい。
ふふっ、と笑みを浮かべ、丁寧に自己紹介をする。
「スズミヤ・カナ様、私はシャーロット・ハーレイと申します。以後お見知りおきを」
まあ、今後会う予定はないんだけど。
アタシからの挨拶に、カナさんも慌てて頭を下げた。
「あ、よ、よろしくお願いします!」
まだまだこの世界に慣れてないのね。なんて、先輩風吹かせたり……は、しないけど。とにかく挨拶は終えたから、早々に退散しようと、殿下へ向き直す。
「では殿下、カナ様と夜会をお楽しみくださいませ」
そう残して、深く頭を下げた。
はあー、終わった終わった。
あとは適当な貴人に挨拶して、さっさと帰りたい。
寝る前にエドとの時間とか取れないかしら。取れたらいいな、なんてウキウキして身を翻したら、殿下に引き止められた。
「シャル」
「はい?」
完全に不意打ち。いきなり愛称で呼ぶんだもの。反応出来たのが、奇跡なくらい。だいぶビビって、でもギリギリ、シャーロットの仮面はズレてなかったと思う。
なんとか笑みを保ったまま首を傾げたら、殿下が不機嫌そうに眉間へシワを寄せた。
なになに?どういうこと?
彼は、カナさんから離れ、そのままアタシの元に近づいてくる。
直後、手を引かれて、腕の中に収まってしまった。
「で、殿下……?」
ちょっとやめて!離れて!エドの前で、こんな……。
視線を動かしたら、エドと目が合う。けどすぐに逸らされてしまった。ショックで、目の前が真っ暗になる。
こんなの、ストーリーにないはずなのに。
アタシの気も知らないで、殿下が耳元へ顔を寄せた。
「今夜は随分大人しいではないか。私は、お前が嫉妬の一つでもしてくれるのではと、期待したのだがな」
「!」
殿下正気?なんて、訊けないから、目を大きく見開くに留める。
確かに、シャーロットを婚約者として選んだのは殿下だ。たとえ彼女が他の令嬢に何かをしたとしても、最終決定は彼が下す。
そこに、恋愛感情が全くなかったとは言えない。むしろ、この様子を見るからに逆だった、と。
でも今さら、どうしろと?!
アタシはエドが好きなのに!!
涙目になりながらも、必死で頭を巡らす。
「も、申し訳ありません、殿下。あまりにお似合いでしたの……あの、ごめんなさい。今日は体調が良くなく……後日改めて」
考えた割に大した言葉が出てこない。
最終兵器、体調不良でなんとか乗り切る。
彼も無理強いすることなく、「そうか」と言った。
「ならば今日は早く帰りなさい。お前の言った通り、また改めて話をしよう」
「申し訳ありません」
急いで彼から離れて、身を屈め頭を下げる。その後で、周囲の方々に、騒がせてしまったお詫びと、引き続き夜会を楽しんで欲しい旨を伝えた。
また夜会の賑やかさが戻ってきたところで、エドの元に駆け寄る。
「エド!」
「御嬢様?」
そのままの勢いで、彼の腕に飛び込んだ。エドは拒むことなく、抱き止めてくれる。
「……」
エドの香りに包まれてたら、落ち着きを取り戻せた。
うん、安心する。これは、拒まれてたらショック死してたレベルだ。
しばらくして、エドが静かに訊いてくる。
「御嬢様、大丈夫ですか?」
「あ、ごめんなさい。少し体調が良くなくて」
っていう、設定だった。
でも彼は、本気で心配してくれる。
「それはいけません。早く邸に戻りましょう」
「ええ、そうするわ。エド、悪いけど腕を」
貸してくれる?って聞こうとした。どさくさに紛れて、彼にずっとくっついちゃおう、なんて浅ましい考えで。
でも、最後まで言う前に、腰を抱かれたと思ったら、横抱きにされたのだ。
「え、エド?!」
お姫様抱っこだなんて、ご褒美過ぎる。嬉しくて、でも恥ずかしくて、彼の逞しい胸に顔を埋めたら、頭上で声がした。
「今しばらく我慢してください、御嬢様。すぐに連れて帰りますから」
「エド……有難う」
少しでも負担が軽くなるように、彼の首へと腕を回す。わずかに頬を染めたエドが抱き直し、アタシ達はそのまま夜会を後にした。
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