替え玉の私に、その愛を注がないで…。~義姉の代わりに嫁いだ辺境伯へ、身を引くはずが……持ちかけられたのは溺愛契約。

翠月 瑠々奈

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 ソラティスが邸を出て少し経った頃、ソレーユ家に到着したラシーヌ。カナンは馬車の停車を手伝うと言って離れた。

 ラシーヌはそのまま玄関に向かう。扉を開けて入った。

「ただいま戻り──きゃっ!」
「早く来るんだ」

 だが入ったばかりの彼女は、なぜか苛立つ当主のガヴェルに、無理矢理引きずられ、近くの使用人室に押し込められてしまう。

 床に転がされて、驚きのまま顔を上げた。

「お、お義父様!? いきなり何を!」
「メリフから聞いたぞ。ずいぶんレイアを虐げたようだな。お前なぞ、そこでいい!」

 完全な言い掛かりに言葉を失う。レイアを虐げるなど覚えがない。一瞬思考が止まりかけたが、扉が閉まりそうになって慌てて立ち上がった。しかし間に合わず、バタンと響き、ガチャガチャと鍵を閉める音がした。

「待って! お義父様! 話を聞いて!!」

 ラシーヌがドンドンと叩いても返事はない。それどころか周囲はもう静まり返っている。ガヴェルも離れてしまったようだ。

「……お義父様……」

 扉に額をつけて呟く。彼女はやがて諦め、床に座りこんだ。そして周囲を見渡してみる。

 部屋にあるのは質素なテーブルと椅子にベッド、窓は両手の平ほどの小さいものが高い位置に一つだけ。おそらく換気用だろう。開けても、出し入れ出来るのは小さな花瓶程度。

 棚の上にはランプが一つあり、ラシーヌは立ち上がる。火種を探していると、外で言い争う声がして扉に耳をつけた。

 くぐもっているものの、何かを訴えているようだ。それに返事をするガヴェルの声が微かに聞こえた。

『……ヴァーガリア領主が行方不明? うちには来とらん』

「!?」

 ラシーヌが息をのむ。ソラティスがいなくなった、と、そう掠めた声が耳に残る。彼女は動揺しながらも、再び扉を叩いた。

「お義父様! 私にも話を!! 誰か!! 誰か助けて!!」

 ドンッドンッ!と力いっぱい叩いても誰も来る気配がない。ラシーヌは悩んだ末に棚の引き出しを漁った。そこには古い紙や布切れ、空の引き出しも多くある。

 その中に残り少ないマッチが入った箱があった。

「……」

 ラシーヌはそれを見て周囲を見渡した。何かに使えないだろうか、と。

 初めは燃やして人を呼ぶことを考えた。だがリスクがある。他に何か手は……と、そこでふと、換気用の小窓が目に入った。

 彼女はテーブルを窓の下まで運び、椅子を使うと、そのテーブルの上に乗る。

 そして、背伸びをして高い位置にある小さな窓に手を伸ばす。金具を外して、奥に押し込む。建付けの悪い木の枠が、軋んだ音を出した。

「!」

 そこから一気に力を込めれば、ガコンッと窓が外へとせり出し、細長い隙間から冷ややかな風が流れ込んでくる。

 彼女は窓をさらに押し込み、隙間を広げた。

「外なら、もしかしたら……」

 ここからランプを落として火をつければ、きっと巡回する屋敷の警備が見つけるはず。騒ぎになれば人が集まり、カナンも気づいてくれるはず。

 彼女ならきっと、ここから救い出してくれる。

 ラシーヌはそう期待して、一度テーブルから降りるとランプを持ってくる。そして隙間から真下へ、そのランプを落とした。

 ガシャン!と割れる音が響く。これで人が来てくれたら、と考えたものの、さすがにこの程度の音では届かないようだ。

「……っ」

 マッチ箱を握りしめる。万が一、失敗すれば周りをも巻き込む惨事となる。何より自分が一番危険な目に遭うだろう。

 だが他に手段がなかった。冷静に考える余裕もなかった。ラシーヌは覚悟を決めて、マッチを取り出し箱の横でシュッと擦った。

 この部屋から一刻も早く出るために──。

「なんで……」

 意気込んでマッチを擦ったが、湿気ているのか、なかなか火がつかない。一本、二本と擦っては折れて捨てていく。焦るあまりに手が震え、残りも減っていた。

「早く……っ!」

 それから数本、残りわずかになってようやく一本、火がついた。小さく揺れる炎は、今にも消え入りそうで心許ない。

 ふと思いついて彼女は、そっとテーブルから降りると、棚の引き出しにあった紙へ移そうとした。

「あ……」

 だが移動している間に消えてしまった。ラシーヌは少し考えてテーブルの上に、紙と布を置いておくことにする。

 そうして二本目が燃えたところで、すかさず紙の一つに燃え移した。

 すでにクシャクシャだったからか、すぐ火が大きくなる。

 ラシーヌは、そのまま一気に外へと落とした。
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