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「「「ハッピーバースデー!! 25歳おめでとう!!」」」
パンッ、パパンッ!パンッ!と響くクラッカーの音。カラフルなリボンや紙吹雪が舞う。壁にはたくさんの花と風船で作られた25の数字。
そしてテーブルにも様々な料理が並んでいる。中央には豪華なケーキが置かれ、2と5の数字のろうそくが立てられていた。
今日は藤波朔の誕生日。濃い茶髪をヘアワックスで跳ねた感じにアレンジしている男性だ。ラフなシャツとズボンなのは休日だからだろうか。そんな彼を大学時代の友人たちが集まり、パーティーを開くために呼んだ。
よく行く友人宅に玄関から案内され、いつものようにリビングへ入る。けれど扉を開けた瞬間、響いた声に黒い目を丸くした。朔は「えっ」と呟いて、驚いた様子で続けた。
「うわっ、俺誕生日か。いや、えー、マジか。びっくりした!」
「ははっ! びびったか! お前のことだから絶対覚えてないと思ったぜ」
そう言って快活に笑ったのが朔の幼なじみである東郷聡。黒い短髪の彼は仕事帰りなのか、腕まくりしたワイシャツに紺のスラックス姿だった。
周りも「おめでとう」と笑って、ワイワイと話し始める。朔と聡も「昔からお前は」なんて話になる。それを聞いていた一人の女性が二人の間に割り込んだ。
波打つ明るい茶髪に、身体に程よくフィットしたブラウンのニットと、黒のチュールスカートの菊田芽依。どこか幼さの残る顔立ちの彼女は「はいはい」とあしらうような感じで言った。
「そんな話は後でもいいでしょ。早く料理食べよ。冷めちゃうよ」
「芽依も来てくれたのか。忙しいって言ってたのに悪いな」
朔が軽く背中を押された後に、振り返って言った。芽依と聡は同じ会社に勤めていた。都心の上場企業。聡がまだスーツなのを見ると直前まで仕事だったのだろう。最近は年末に向けての準備でさらに忙しいと嘆いていたのを思い出す。
だが芽依はゆるく首を横に振った。
「ううん、気にしないで。今日は朔の大事な日だもの。絶対来るよ」
「そっか。ありがとう」
「うん。さっ、ほら。せっかくみんなで用意した料理。早く食べよ」
そう言ってテーブルに向かう。すでに他のメンバーは席についていた。
聡の隣に後藤明。その隣に佐藤ゆい、テーブルを挟んで新堂由実。空いている由実の隣に芽依が座り、用意された誕生日席に朔が座った。
ゆいがグラスを配り、聡が立ち上がる。
「じゃあ、せっかくなので! 主役に挨拶でもしてもらいましょうか!」
「え、ウソだろ。なんも考えてないけどっ!?」
焦る朔に、周りがはやし立てる。
「いいじゃんいいじゃん! 聞きたい!」
「適当でいいんだって」
「そうだよ! なんでもいいよー」
口々に言われたことに、朔は唸りながらも立ち上がった。
「えー、じゃあ。ホントに何も考えてないけど……えっと、お礼だけ。都心から離れた小さな島の出身なのに、仲良くなってくれて──」
ふと、視界がぶれる。ジジッ…と壊れた画面のように揺れて、中央に黒い家のようなものが見えた。
一瞬のことで、立ちくらみにも似ている。直後、声をかけられた。
「朔?」
芽依に呼ばれてハッとする。ただの気のせいだと思った彼は、誤魔化すように軽く笑って言葉を続けた。
「とにかく、大学出てもこうして集まってくれるかけがえのない仲間に……乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
カチンッ、カチンッと互いにグラスを当てる。一気に飲み干した聡が、さっそくと蝋燭に火を熾した。
「んじゃ、蝋燭吹き消すの。やりますか!!」
「今から!? 順番逆じゃない!?」
朔のツッコミに周りがどっと笑う。そうして始まった賑やかな食事。笑い声はいつまでも響いていた。
* * *
暗い道路をひたすらに走る。わずかに開けた窓からは、風とともにゴーっと低い音も入ってきていた。
ハンドルに手を添える朔が口を開く。
「アイツら、無理に酒飲ませようとしやがって。俺を誕生日早々、犯罪者にする気かっての」
言いながらもその瞬間を思い出して、ククっと笑う。せっかくだから飲めと聡に勧められたワインは「代行呼んで代金請求するぞ!」とやめさせた。
「ここからいくらかかると思うんだ!」と赤い顔で返した聡に意外と冷静だったな、と笑ってしまう。
そうして、ノンアルコールを死守した彼は帰宅を急いでいた。
ふと、カーナビの右上に出ている時刻が目に入った。ちょうど『25:00』と表示されている。
それに何か違和感を覚えながらも、前方に目を戻した。道路には前にも後ろにも他の車両はいなかった。
少しくらい速度を出してもいいだろうか。そんな考えが浮かぶ。変な静寂が不気味で、早く帰りたかった。
「……」
ちょうど今運転している青いコンパクトカーは、朔が社会人になって少ししてからローンで購入したものだ。
家賃の関係で都心から離れた位置に引っ越したものの、不便すぎて親に相談し購入を決めた。
車内はそれなりに趣味のグッズが置かれている。助手席には有名なバンドのロゴが入ったタオルやカバン。それから雑誌が何冊かあった。
そして後部座席には、雑に置かれたギターのハードケースがある。傷があちらこちらにあり、少し色褪せていた。
朔がバックミラーを一瞥したとき、それが目に留まった。
すぐに戻したものの、過去を思い出した。
学生の頃、仲のいい友人たちと目指した大きな夢。
有名になって仲間たちと笑い合う──よくある願い。
今ではもう、すっかり霞んでしまったそれに気を取られた一瞬、道路の先で黒い物体が飛び出してきた。
「っ──!!」
慌てて急ハンドルを切って、間一髪で黒いものを避ける。対向車線にはみ出してキィッ!!とブレーキのかかる車は、ガクンと反動を残して止まった。
「うっわ。マジかよ……」
さすがにエアバッグは作動しなかったものの、いまだにドキドキとうるさい胸に大きく息を吐き出す。
少しして、落ち着いた朔は念のためにドアを開けて外に出る。
大きさからして人ではないと踏んでいたが、ゴミやその類いとは思えなかった。
バタンッと閉めて、周囲を見る。チカチカと時折点滅する外灯が照らす道路。土手の上の道だからか、周りには短く刈り取られた草しかない。
人気もないその場所を探していると、ふと視界の端に黒い影が動いた。
パンッ、パパンッ!パンッ!と響くクラッカーの音。カラフルなリボンや紙吹雪が舞う。壁にはたくさんの花と風船で作られた25の数字。
そしてテーブルにも様々な料理が並んでいる。中央には豪華なケーキが置かれ、2と5の数字のろうそくが立てられていた。
今日は藤波朔の誕生日。濃い茶髪をヘアワックスで跳ねた感じにアレンジしている男性だ。ラフなシャツとズボンなのは休日だからだろうか。そんな彼を大学時代の友人たちが集まり、パーティーを開くために呼んだ。
よく行く友人宅に玄関から案内され、いつものようにリビングへ入る。けれど扉を開けた瞬間、響いた声に黒い目を丸くした。朔は「えっ」と呟いて、驚いた様子で続けた。
「うわっ、俺誕生日か。いや、えー、マジか。びっくりした!」
「ははっ! びびったか! お前のことだから絶対覚えてないと思ったぜ」
そう言って快活に笑ったのが朔の幼なじみである東郷聡。黒い短髪の彼は仕事帰りなのか、腕まくりしたワイシャツに紺のスラックス姿だった。
周りも「おめでとう」と笑って、ワイワイと話し始める。朔と聡も「昔からお前は」なんて話になる。それを聞いていた一人の女性が二人の間に割り込んだ。
波打つ明るい茶髪に、身体に程よくフィットしたブラウンのニットと、黒のチュールスカートの菊田芽依。どこか幼さの残る顔立ちの彼女は「はいはい」とあしらうような感じで言った。
「そんな話は後でもいいでしょ。早く料理食べよ。冷めちゃうよ」
「芽依も来てくれたのか。忙しいって言ってたのに悪いな」
朔が軽く背中を押された後に、振り返って言った。芽依と聡は同じ会社に勤めていた。都心の上場企業。聡がまだスーツなのを見ると直前まで仕事だったのだろう。最近は年末に向けての準備でさらに忙しいと嘆いていたのを思い出す。
だが芽依はゆるく首を横に振った。
「ううん、気にしないで。今日は朔の大事な日だもの。絶対来るよ」
「そっか。ありがとう」
「うん。さっ、ほら。せっかくみんなで用意した料理。早く食べよ」
そう言ってテーブルに向かう。すでに他のメンバーは席についていた。
聡の隣に後藤明。その隣に佐藤ゆい、テーブルを挟んで新堂由実。空いている由実の隣に芽依が座り、用意された誕生日席に朔が座った。
ゆいがグラスを配り、聡が立ち上がる。
「じゃあ、せっかくなので! 主役に挨拶でもしてもらいましょうか!」
「え、ウソだろ。なんも考えてないけどっ!?」
焦る朔に、周りがはやし立てる。
「いいじゃんいいじゃん! 聞きたい!」
「適当でいいんだって」
「そうだよ! なんでもいいよー」
口々に言われたことに、朔は唸りながらも立ち上がった。
「えー、じゃあ。ホントに何も考えてないけど……えっと、お礼だけ。都心から離れた小さな島の出身なのに、仲良くなってくれて──」
ふと、視界がぶれる。ジジッ…と壊れた画面のように揺れて、中央に黒い家のようなものが見えた。
一瞬のことで、立ちくらみにも似ている。直後、声をかけられた。
「朔?」
芽依に呼ばれてハッとする。ただの気のせいだと思った彼は、誤魔化すように軽く笑って言葉を続けた。
「とにかく、大学出てもこうして集まってくれるかけがえのない仲間に……乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
カチンッ、カチンッと互いにグラスを当てる。一気に飲み干した聡が、さっそくと蝋燭に火を熾した。
「んじゃ、蝋燭吹き消すの。やりますか!!」
「今から!? 順番逆じゃない!?」
朔のツッコミに周りがどっと笑う。そうして始まった賑やかな食事。笑い声はいつまでも響いていた。
* * *
暗い道路をひたすらに走る。わずかに開けた窓からは、風とともにゴーっと低い音も入ってきていた。
ハンドルに手を添える朔が口を開く。
「アイツら、無理に酒飲ませようとしやがって。俺を誕生日早々、犯罪者にする気かっての」
言いながらもその瞬間を思い出して、ククっと笑う。せっかくだから飲めと聡に勧められたワインは「代行呼んで代金請求するぞ!」とやめさせた。
「ここからいくらかかると思うんだ!」と赤い顔で返した聡に意外と冷静だったな、と笑ってしまう。
そうして、ノンアルコールを死守した彼は帰宅を急いでいた。
ふと、カーナビの右上に出ている時刻が目に入った。ちょうど『25:00』と表示されている。
それに何か違和感を覚えながらも、前方に目を戻した。道路には前にも後ろにも他の車両はいなかった。
少しくらい速度を出してもいいだろうか。そんな考えが浮かぶ。変な静寂が不気味で、早く帰りたかった。
「……」
ちょうど今運転している青いコンパクトカーは、朔が社会人になって少ししてからローンで購入したものだ。
家賃の関係で都心から離れた位置に引っ越したものの、不便すぎて親に相談し購入を決めた。
車内はそれなりに趣味のグッズが置かれている。助手席には有名なバンドのロゴが入ったタオルやカバン。それから雑誌が何冊かあった。
そして後部座席には、雑に置かれたギターのハードケースがある。傷があちらこちらにあり、少し色褪せていた。
朔がバックミラーを一瞥したとき、それが目に留まった。
すぐに戻したものの、過去を思い出した。
学生の頃、仲のいい友人たちと目指した大きな夢。
有名になって仲間たちと笑い合う──よくある願い。
今ではもう、すっかり霞んでしまったそれに気を取られた一瞬、道路の先で黒い物体が飛び出してきた。
「っ──!!」
慌てて急ハンドルを切って、間一髪で黒いものを避ける。対向車線にはみ出してキィッ!!とブレーキのかかる車は、ガクンと反動を残して止まった。
「うっわ。マジかよ……」
さすがにエアバッグは作動しなかったものの、いまだにドキドキとうるさい胸に大きく息を吐き出す。
少しして、落ち着いた朔は念のためにドアを開けて外に出る。
大きさからして人ではないと踏んでいたが、ゴミやその類いとは思えなかった。
バタンッと閉めて、周囲を見る。チカチカと時折点滅する外灯が照らす道路。土手の上の道だからか、周りには短く刈り取られた草しかない。
人気もないその場所を探していると、ふと視界の端に黒い影が動いた。
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