不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

文字の大きさ
187 / 225
二、螢華国

百八十六、アスアドの疑念

しおりを挟む
 皇帝のねやから、後宮の僕の部屋へと帰り着いた。
 アルはイスハークを一旦私室へ寝かせ、居室へと戻って来た。

「アル。イスハークは……」
「大丈夫だそうだ。落ち着く為に少し独りになりたいと言っていた」
「そう……だよね」

 僕はしょうに力なく座る。
 行方がわからなかったサディクが、まさか衒宗に殺されていたとは。
 にわかには信じられない。

 卓には、サディクの遺灰が入っているという銀香炉が、風呂敷のまま鎮座している。

「殺しただけじゃなく……、遺灰を香炉に入れるなんて……」
 骨を砕き、粉にして香炉に入れた挙句、遺灰の上で香をいたのだ。
 死者への冒涜ぼうとくはなはだしい。

 もし、アルの遺灰がそのような扱われ方をすれば、僕はきっと正気では居られないだろう。

 アルは深い息を吐く。しゅるりと香炉の風呂敷包みを解いた。

「俺は、まだ半信半疑だがな」
「どういう――こと」
「サディクは本当に、衒宗に殺されたのか、ということだ。衒宗が証拠と言い張っているのは、この香炉の中の灰だけだ。この灰も、遺骨かどうか、一見して区別はつかん」

「確かに……そうかも……」
 人骨の灰と、香――例えば線香なんかの灰は、果たして区別はつくのだろうか。余程普段から、遺灰を見慣れている者にしかわからないかもしれない。

 アルは、殆ど確信を持ったように、銀香炉の中を覗く。陶器の蓋と本体が触合う摩擦音がした。

「それに、サディクが俺たちと別れたあと、どうしていたかはわからない。だが、衒宗に俺たちよりも早く逢うことは、可能だったか? 俺はそうは思わないが」
「抜け道……とか? あらかじめ案内されていたとか……」

「確かに、緊急用脱出通路は存在するだろう。しかし、サディクと逢う為だけに、自分の命に関わる生命線を教えるとは到底思えない。元々逢う約束があったのなら、それこそ藍炎が待ち構えていそうなものではないか? 俺たちの目をはばかる必要はない」

 アルは言いながら、臆しもせずに、指で香炉の灰をすくった。
「舐めてわかるようなものなら良いが。――わからんだろうな」

 手段は問わないと言いたげなアルを、僕は一旦押し留める。

「アル! きっと舐めたりするのは身体に良くないよ。イスハークが起きて来たら、また相談しよう?」

「――起きて、ますよ……。アスアド様……一体何をしているのですか」

 戸口に、寝ているはずのイスハークの声がしたので僕は飛び上がってしまう。
 扉で身体を支えるようにして、イスハークがこちらを注視していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

僕と教授の秘密の遊び (終)

325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。 学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。 そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である… 婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。 卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。 そんな彼と教授とのとある午後の話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...