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二、螢華国
百八十九、指揮官
しおりを挟む「一体どういうことですか」
イスハークは目を見開いた。
アルは、螢華国に来て一層逞しくなったような腕を組み、呻る。
「初日に、下男として招集された際、どうも工事のやり方の効率が悪かったもんで、ちょいと進言したところ妙に信用されてな。
日に日に班長、班長掛け持ち、指揮官補助、と格上げされ、どうやら遂に俺に現場の指揮官を丸投げしたようだ。先ほど、衛兵として紛れ込めたのも、そうした権限があったからだな。
まあ、別に少々気絶させて服を拝借すればいいことだが。騒がれるのも面倒だしな」
イスハークは、聞いたこともないほどの、腹の底からの溜息を吐いた。
「どこの世界に、潜入調査する国で助言する馬鹿が居るのですか……。敵国で出世しないで下さいよ……」
「この分だと、皇帝も狙えるな」
「馬鹿を言わないで下さい。御父君に私が叱られます」
「正攻法だろうが。衒宗と皇帝の座を争う良い機会かもしれぬ」
「アスアド様。貴方は『バハル国』の次期国王なのですよ」
「わーかったわかった! 螢華国でこれ以上出世はせん」
そのやり取りに、堪えていた笑いがくすりと込み上げる。
アルは、そんな僕の表情を見て、柔らかく目を細めた。
「一つ言えることは、衒宗の力は案外下までは及んでいないということだ。そして正常に機能している。俺が出世しているのが、良い例だろう」
「冗談はお止めください」
イスハークの厳しいツッコミをしれっと無視しながら、アルは続けた。
「歴史が長いだけあって、土台はしっかりしているようだ。皇帝が変わっても、国が根本から立ち行かなくなることはないだろう」
イスハークの瞳が憂いを帯びる。
「承知しました。衒宗を――討つ、ということですね」
「異論はあるまい」
「私ごときが、意見出来るような内容ではないでしょう」
「首をすげ替えても、どうやらこの国はうまく走るらしい。安心した。衒宗がいなくなっては、何一つ立ち行かぬと言われれば作戦を変える必要があったが――
どうやら、下の連中にとっては、すげ変わった首こそが衒宗だったようだ」
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