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二、螢華国
二百六、鹿の園
しおりを挟む「藍炎がー―皇帝のことを……? 柚様、それは本当ですか」
イスハークは瞠目した。
「藍炎は昔、男娼をしているところを皇帝に買われたって。双方から聞いた。藍炎は恋愛の意味で好意を抱いてるけど、皇帝の方はそうじゃない……と思う。これは僕の推測になるけれど」
イスハークは困惑している。
「待って下さい。そうすると、藍炎は好きな男の為に、私たちをわざわざ国外から招いて、衒宗の妃にしようと積極的に協力していることになりますが……。そんなことが……?」
アルは腕を組んで呻った。
「ありえない話ではない。十八世紀フランスの話だが、ルイ十五世の愛妾、ポンパドゥール夫人も、平民だったが王妃と同等の権力を手に入れた。
しかし、体力の衰えを感じると、『鹿の園』という王専用の娼館を作り、美しい少女を送りこみ、王に献上したと言われている。
夫人は、王の政権上でのパートナーとなることを望んだ。藍炎はポンパドゥール夫人のようになるつもりかもしれない」
「性的代理人……ということですか」
「他にもそういう例は歴史上一つや二つではないからな。閨を共にせずとも、共に並び立てることはある」
「そうなの……かなぁ……」
僕はぽそりと呟いた。
果たして、藍炎の望みはそうなのだろうか。
藍炎の望みがそうであれば、僕たちは真向から対峙する必要がある。
けれど、僕と話した時の藍炎は、冷たいけれどどこか寂しそうで、皇帝の側近であればいい、というような割り切った表情ではなかったような気がする。
ただ、藍炎が僕とイスハークを皇帝に進んで捧げようとしていることは確かだった。
(藍炎が『鹿の園』を作ろうとしている、と言われれば否定する材料はないけれど……)
藍炎の思惑はどうであれ、僕にはどうしても、藍炎が納得ずくだとは思えない。
「今日のようなことがないよう、俺の方でも出来るだけ注意する。イスハークも、柚を頼んだぞ。後宮に大きな顔をして出入り出来るのは、お前だけなのだからな」
「承知致しました」
祝賀宴は、すぐ目の前に迫っていた。
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