不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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二、螢華国

二百十一、銀の文官(4)

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「お、終わった―――!!」

 三時間後、僕たちはぐったりとしていた。
 まさに死屍累々ししるいるい

 まるで試験明けの学生のようだ。

 アルは机にひじを突き、片手で額を押さえているし、僕は卓に突っ伏している。

 文官のイスハークだけが、普段とあまり変わらない。

「おやおや、アスアド様ともあろう御方が。普段鍛えておられるのに、もう音を上げられるとは」
 コロコロと笑うイスハークに、アルは珍しくドスの効いた声で告げる。

「イスハーク……、今俺に喧嘩を売るな。……買うぞ」

 アルを無視して、イスハークはくるりと僕の方に向いた。

「柚様、大変お疲れ様でございました。急なお願いをしてしまい申し訳ありません。訳文も非常に助かります。私どもでは翻訳にまでは手が回りませんでしたから」

「ほ、ほんと……? それなら良かったよ……」

 うの体でそう言うと、イスハークは天女のような笑みを浮かべた。

「勿論です。すぐにお部屋に戻りましょう。お疲れになったでしょうから、柚様のお好きなハーブティーでも如何ですか。ゆっくりお休みになって下さい」

 本を返して参ります、とイスハークはしばし席を外した。

「柚、そのまま動かず、俺の話を聞いてくれ」
 アルが、突っ伏した僕の耳元に囁く。

「アル……? どうしたの……?」

 ただ事ではないアルの様子が伺えた。

「落ち着いて聴いてくれ。恐らくだが……味方の中に誰か一人、裏切者が居る」

「――どういう……こと……!?」

 顔を伏せたままだったけれど、きっと僕の声は震えていただろう。
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