不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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二、螢華国

二百十二、裏切者

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「確実な証拠はない。だが、ナースィフに鳩を飛ばした日に、ザカートは夜だというのに迷いなく鷹を送り込み、妨害をして来た。

柚が俺の妃だということも、元々すべて知っていたように思える。そうでなければ、ザカートが柚とイスハークを人質に取るという選択肢は取れない。

本来ならば、ここにはナースィフと黄蓋が来るはずだったのだからな。ザカートとは縁もゆかりも殆どない。

それに加え――日中も、妙に視線を感じる。まるで、誰かに監視されているみたいに」

 嘘だと言いたいが、声が出なかった。

「まさかとは思うが、イスハークの行動に目を光らせておいてくれ。サディクが人質に取られていたとすれば、イスハークが言うことを聞いていたとしても頷ける。

もしくは今、行方をくらましているサディク当人。可能性はかなり低いがな。

裏で糸を引いているとすれば、バハル国の第三者が絡んでいる可能性が高い」

 状況は絶望的だ。
「そんな……」

「俺が全身全霊で信頼しているのは、現状、柚だけだ。だからこんな話を持ち込んですまない。本当は俺だけで追うつもりだったが――後宮内部までは、俺の目が行き届かないからな」

 まさかイスハークまで疑えとアルが言うとは思わずに、僕は混乱の最中さなかだ。

「で、でもイスハークは……」
「わかっている。アイツは幼い時から俺に仕え、よくやってくれている。だが、イスハークの家はザハラーン一族、、、、、、、だ。忠誠を誓っている相手は俺ではない。王家そのものだ。

柚には伝えないでおこうかと思ったが……。すまん。俺の力不足だ」

 僕はかぶりを振る。
 アルは僕のことを疑っていない。

 それだけで、酷く安心出来た。

「ううん、話してくれてありがとう。アル。僕も周りには注意しておくね」

「本当はこんなこと言いたくなかったが……。すまないが――頼む」

 アルは何か言いたげに、僕の髪をいた。
 女装をしていない僕は久々だ。
 つまり、地毛をアルに晒すことも久しぶりだった。

「そろそろイスハークが戻って来る頃だろう」

 顔を上げると同時に、丁度イスハークが戻って来る。
 僕たちが寄り添っていることに気付き、口角を上げた。

「おや。そういえば、暫くぶりの逢瀬でしたね。お邪魔してしまいましたか」
 少しばかりにやにやとするイスハークに、アルはさっさと立ち上がる。

「冗談を言っていないで、用事が済んだのなら退散するぞ。俺は現場の方に戻る」
「では、柚様と私は、後宮へ帰ります。お二方とも、御協力ありがとうございました」

 何気ない会話が交わされるが、僕の耳には一切入って来なかった。

 ――味方の中に誰か一人、裏切者が居る。

 アルの声が、脳裏にこびりついて離れなかった。
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