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二、螢華国
二百十八、見舞いと訪問(2)
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「イスハークが……衰弱……?」
僕は思わず、その言葉を反芻した。
「衒宗皇帝に――監禁されている。自ら望んでそうしたはずが、食べ物を殆ど摂っていないネ。水もごく僅かだけ。それがもう三日続いている」
「そんな……!」
人間は、水分を摂取しない状態では、四、五日で命に関わる。
「おい、うちの側近を殺してくれるなよ。アイツがいないと俺も困るんだ」
見かねたアルが、ずいと僕の前に立ちはだかった。
「そんなことは知ったこっちゃないネ。けれど、このまま死なれては、こちらも寝覚めが悪い。それで――」
「それで、俺たちに助けを求めに来たということか。ご苦労なことだな」
藍炎は少しの沈黙のあと、話し出した。
「――まるで死を望んでいるかのように、日に日に弱っていっているネ。医者に診せても、何の異常もない」
「それこそ、兵士どもに羽交い絞めにさせて、この粥でも流し込めばいいだろ」
アルはまるで、イスハークの味方とも思えないような、荒っぽい提案を投げかけた。
藍炎は、キッとアルを睨みつける。
「馬鹿言うないネ! 衒宗皇帝命令、そんなこと出来るはずないネ」
きっと、丁重に扱うように言い渡されているのだろう。
アルは、大きな溜息を吐くと、踵を返した。
房室の牀に王よろしくどっかりと腰を下ろし、そして海賊の頭領かのように、片膝に頬杖を突いた。
殆ど見たことのないような昏い瞳を、アルは藍炎に向けた。
「だから、イスハークが飯を食う魔法の言葉でも教えろということか?」
アルは鼻で嗤う。
「そんなものが本当にあると思っているのか? 大の大人に、幾ら飯を食えと諭したところで、そんなものは何の役にも立たん。本人に意志なくば、生きることは出来んのだ」
まさか、突き放されるとは思っていなかったのだろう。
藍炎は声を上げた。
「なら……、このままなら、お前の側近は死ぬ! それでも、そんなに偉そうにしていられるカ!?」
上擦った声の藍炎を、アルはじっと見上げた。
「アイツが選び取った結果なら――それまでのことだ」
両者は暫しの間、睨み合う。
先に視線を逸らしたのは、藍炎の方だった。
「もういい! お前たちには頼らないネ!!」
藍炎はお付きの者を引き連れ、大股で房室から出て行った。
「アル! 本当に良いの……!?」
イスハークの命が奪われるかもしれないのだ。
何があったかもわからない。
様子を見に行った方が良いのではないか、という思いが押し寄せる。
だが、もしイスハークが自分の意志でそうしていた場合、為す術がないことも事実だった。
アルは両手を組んだ。
ぼそりと口にした言葉は、僕にも聴こえなかった。
「――アイツめ……。何をやっているんだ……」
僕は思わず、その言葉を反芻した。
「衒宗皇帝に――監禁されている。自ら望んでそうしたはずが、食べ物を殆ど摂っていないネ。水もごく僅かだけ。それがもう三日続いている」
「そんな……!」
人間は、水分を摂取しない状態では、四、五日で命に関わる。
「おい、うちの側近を殺してくれるなよ。アイツがいないと俺も困るんだ」
見かねたアルが、ずいと僕の前に立ちはだかった。
「そんなことは知ったこっちゃないネ。けれど、このまま死なれては、こちらも寝覚めが悪い。それで――」
「それで、俺たちに助けを求めに来たということか。ご苦労なことだな」
藍炎は少しの沈黙のあと、話し出した。
「――まるで死を望んでいるかのように、日に日に弱っていっているネ。医者に診せても、何の異常もない」
「それこそ、兵士どもに羽交い絞めにさせて、この粥でも流し込めばいいだろ」
アルはまるで、イスハークの味方とも思えないような、荒っぽい提案を投げかけた。
藍炎は、キッとアルを睨みつける。
「馬鹿言うないネ! 衒宗皇帝命令、そんなこと出来るはずないネ」
きっと、丁重に扱うように言い渡されているのだろう。
アルは、大きな溜息を吐くと、踵を返した。
房室の牀に王よろしくどっかりと腰を下ろし、そして海賊の頭領かのように、片膝に頬杖を突いた。
殆ど見たことのないような昏い瞳を、アルは藍炎に向けた。
「だから、イスハークが飯を食う魔法の言葉でも教えろということか?」
アルは鼻で嗤う。
「そんなものが本当にあると思っているのか? 大の大人に、幾ら飯を食えと諭したところで、そんなものは何の役にも立たん。本人に意志なくば、生きることは出来んのだ」
まさか、突き放されるとは思っていなかったのだろう。
藍炎は声を上げた。
「なら……、このままなら、お前の側近は死ぬ! それでも、そんなに偉そうにしていられるカ!?」
上擦った声の藍炎を、アルはじっと見上げた。
「アイツが選び取った結果なら――それまでのことだ」
両者は暫しの間、睨み合う。
先に視線を逸らしたのは、藍炎の方だった。
「もういい! お前たちには頼らないネ!!」
藍炎はお付きの者を引き連れ、大股で房室から出て行った。
「アル! 本当に良いの……!?」
イスハークの命が奪われるかもしれないのだ。
何があったかもわからない。
様子を見に行った方が良いのではないか、という思いが押し寄せる。
だが、もしイスハークが自分の意志でそうしていた場合、為す術がないことも事実だった。
アルは両手を組んだ。
ぼそりと口にした言葉は、僕にも聴こえなかった。
「――アイツめ……。何をやっているんだ……」
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