不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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一、不運な花嫁

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 僕、天宮あまみやゆずは不運だ。
 不運とは〈運の悪いこと〉と広辞苑にも書いてある。
 何とも投げやりで、他にもうちょっと意味を持たせてくれたって良いじゃないかと思ってしまうぐらい、素っ気ない。

 その次に書いてある説明は〈ふしあわせ。悲運〉
 広辞苑でさえも、これ以上関わり持ちたくないんで、と言わんばかりにそそくさと切り上げて、次の言葉の意味を解説している。
 今日この日まで、何度同じ広辞苑を引いては、溜息を吐いたかしれない。

 僕は、あまりにも不運だ。
 そうでなければ、不幸。
 何故なら、妹の身代わりに、見知らぬ男に花嫁として嫁がされようとしているからだ。そして、そのことすらも不幸だというのに、挙句の果てに見知らぬ砂漠の土地で死にかけている。
「どこだ……。ここ」
 広大な砂漠は、御伽話や映画で観たままだった。
 ただただ、見渡す限り、空と大地の二つだけが永遠に広がっている。

 ほの明るく光る三日月が、近くに建物もなければ、オアシスもないという絶望を突きつけてくる。
「嘘だろ……。こんなの死んじゃう」
 スマホを見れば、当然のように電波はどこからも入らなかった。
 現在地も不明だ。

 そして、呆然と画面を見つめていると、近頃どうにも調子の悪かったスマホが、30%は残っているはずの充電を無視して、ぶつりと電源オフになった。
「えぇっ嘘! まだ電池あるよ!」
 不運だ。
 このままでは嫁ぐどころか、まだ見ぬ結婚相手に会って釈明すら出来ない。

「どうしよ……」
 まったくついていないことに、戻ろうにもつけて来た足跡は風にさらわれて消え失せていた。

 近場に岩場もないので、今夜の寝床とする場所もない。

「不運にも……ほどがあるよ……」
 ぺたん、と砂漠に膝を突く。
 無理やりに着せられた純白のカフタンドレスが、砂漠に広がり砂で薄汚れた。

(そうか。座ったり寝転んだりしたら汚れるのか……)
 着替えは当然の如く、ない。
 不潔な出で立ちでは、婚約者に速攻で婚約破棄を言い渡されかねない。

 手持ちの荷物はスマホだけ。
 水も食糧もない。
 あまりのことにもはや一滴の涙も零れなかった。

「僕……結婚しちゃだめかもしれない」
 不幸選手権をしたら間違いなく一位を勝ち取ってしまう僕が相手では、結婚相手がどんな不幸に見舞われるかわからない。

 しかし、もはやどうすることも出来ない。

 目の前の光景に、ただ茫然とすることしか、出来なかった。

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