不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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三、強運と不運の邂逅 (上)

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 拝啓、御父様おとうさま御母様おかあさま妹様いもうとさま
 僕が日本から離れて少し経ちましたが、如何お過ごしでしょうか。
 僕は。
 僕は――
 今、絶対絶命の危機にひんしています。
                                敬具


 砂漠越えだけで死ぬう……とか言っていたのは誰だったろうか。
 僕だ。
 あの時の僕に伝えたい。
 そんな不運はまだ、序ノ口だ、と。

 確かに砂漠しかない場所に置き去りにされたのは、不運でしかない。
 しかし、目の前に血走った目で、涎を垂らした狼が数匹。
 そしてその飼い主らしい、ガラの悪いごろつきのような輩に囲まれている。

 誰か来て欲しいと願ったが、望んでいたのはそうではない。

「こんなところでどうしたァ? 一人か?」
 呼応して狼がグルル、と威嚇するように唸る。
「いえ、お構いなく……」
 本当はめちゃくちゃ助けて欲しい。
 水の一滴でも貰えたら泣いてしまう。
 
 だが、ぐるぐると、値踏みでもするように僕のまわりを回っているごろつきさんと、狼さんは、きっと僕を助けてはくれないだろう。

 いや、しかし……。
 見た目だけで判断するのは偏見かもしれない。
 実は心根の優しい人たちで、狼に見えているものは実は犬かもしれない。
 ぐっと踏み止まり、震える声で懇願する。

「あの、すみません。僕迷子でして……。どうか助けていただけないでしょうか」
 ごろつきの男たちはにやりと笑い合った。
「迷子、ねぇ。そりゃあ好都合だ」
 
 あっやっぱダメかもしれない。
 だって好都合って言ってるもん。
 いやまだわからない、まだワンチャンある!
 そう自分に言い聞かせた。

「こここ好都合とはどういう……意味ですか……?」
 それには答えず、モヒカンのような髪型をした、リーダー格の男が問う。
「お前、ここで死ぬのと、もう少しあとで死ぬのと、どっちがいい?」
「へっ」
「早く答えろよ!」
 振り向きざま、ザン、と髪の毛のすぐ近くに斧を振り下ろされ、チリ、と一番長かった髪がほんの僅か、切断された。

 嘘。
 さあっと顔から血の気が引いていく。
 不幸に慣れているはずの僕だが、流石に日本で斧を真横に振り下ろされたことはない。今のところ。
 もう十センチ左に寄っていたら、今頃酷い重症を負っていたはずだ。

「どっ、どちらかというと、あとの方が良いです!」
 今死ぬか、あとで死ぬか。
 ならば、とりあえず時間を先延ばしにしておくしかない。

 ならず者の男たちは酒を飲んでいるのか、ぎゃははは、と腹を抱えて笑った。
「そりゃーそうだよなぁ。だが、後の方が地獄だぜ。今ここで死ぬなら、狼の餌にしてやる」
 狼の餌の方がマシな地獄って一体何だろう。
 不運に慣れると大体見当がついてくるのだが、まったくヒントがないので選択肢が何かわからない。
 考え込んでいると、なたのような刃物を持った男が、僕の顎をつい、と先端で押し上げた。
 皆頭がお揃いのモヒカンなので、ほとんど見分けがつかない。

「おー。コイツ、良い値段で売れそうですぜ。色も白いし、髪の色も色素の薄い琥珀のような色をしてやがる。何人なにじんかわからねえが、まあ異国人だろうぜ。足はつかねえ」

 げへへ、と下世話な笑みを漏らし、男たちは一歩間合いを詰めた。
「確かに、なーんか色っぽい奴だなぁ。男には違いねえだろうが、セリに掛けるにも、ただ売り飛ばすのはもったいない。俺たちでたっぷり可愛がったあとに売るってのは」
「そりゃあ、穴が開いて良いかもしれねえなあ!」

 売り飛ばす。セリ。
 狼の餌ともう一つの選択肢は。
 人身売買だ。
 
 やっと答えに辿り着き、神も仏もなかったことを知る。
 ――逃げろ!
 全身全霊がそう叫んでいる。
 鉈を持った男が、僕の下から刃物を退けた。

 今しかない。
 不安定な砂の上にふらつきながらも立ち上がると、一番手薄そうな場所から走って逃げようとした。

「おっと、何逃げようとしてんだ。お前は大事な商品だ。暴れるなよ。そして、今夜、俺たちに輪姦まわされるんだから、よッ!」


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