3 / 225
三、強運と不運の邂逅 (上)
しおりを挟む拝啓、御父様、御母様。妹様。
僕が日本から離れて少し経ちましたが、如何お過ごしでしょうか。
僕は。
僕は――
今、絶対絶命の危機に瀕しています。
敬具
砂漠越えだけで死ぬう……とか言っていたのは誰だったろうか。
僕だ。
あの時の僕に伝えたい。
そんな不運はまだ、序ノ口だ、と。
確かに砂漠しかない場所に置き去りにされたのは、不運でしかない。
しかし、目の前に血走った目で、涎を垂らした狼が数匹。
そしてその飼い主らしい、ガラの悪いごろつきのような輩に囲まれている。
誰か来て欲しいと願ったが、望んでいたのはそうではない。
「こんなところでどうしたァ? 一人か?」
呼応して狼がグルル、と威嚇するように唸る。
「いえ、お構いなく……」
本当はめちゃくちゃ助けて欲しい。
水の一滴でも貰えたら泣いてしまう。
だが、ぐるぐると、値踏みでもするように僕のまわりを回っているごろつきさんと、狼さんは、きっと僕を助けてはくれないだろう。
いや、しかし……。
見た目だけで判断するのは偏見かもしれない。
実は心根の優しい人たちで、狼に見えているものは実は犬かもしれない。
ぐっと踏み止まり、震える声で懇願する。
「あの、すみません。僕迷子でして……。どうか助けていただけないでしょうか」
ごろつきの男たちはにやりと笑い合った。
「迷子、ねぇ。そりゃあ好都合だ」
あっやっぱダメかもしれない。
だって好都合って言ってるもん。
いやまだわからない、まだワンチャンある!
そう自分に言い聞かせた。
「こここ好都合とはどういう……意味ですか……?」
それには答えず、モヒカンのような髪型をした、リーダー格の男が問う。
「お前、ここで死ぬのと、もう少しあとで死ぬのと、どっちがいい?」
「へっ」
「早く答えろよ!」
振り向きざま、ザン、と髪の毛のすぐ近くに斧を振り下ろされ、チリ、と一番長かった髪がほんの僅か、切断された。
嘘。
さあっと顔から血の気が引いていく。
不幸に慣れているはずの僕だが、流石に日本で斧を真横に振り下ろされたことはない。今のところ。
もう十センチ左に寄っていたら、今頃酷い重症を負っていたはずだ。
「どっ、どちらかというと、あとの方が良いです!」
今死ぬか、あとで死ぬか。
ならば、とりあえず時間を先延ばしにしておくしかない。
ならず者の男たちは酒を飲んでいるのか、ぎゃははは、と腹を抱えて笑った。
「そりゃーそうだよなぁ。だが、後の方が地獄だぜ。今ここで死ぬなら、狼の餌にしてやる」
狼の餌の方がマシな地獄って一体何だろう。
不運に慣れると大体見当がついてくるのだが、まったくヒントがないので選択肢が何かわからない。
考え込んでいると、鉈のような刃物を持った男が、僕の顎をつい、と先端で押し上げた。
皆頭がお揃いのモヒカンなので、ほとんど見分けがつかない。
「おー。コイツ、良い値段で売れそうですぜ。色も白いし、髪の色も色素の薄い琥珀のような色をしてやがる。何人かわからねえが、まあ異国人だろうぜ。足はつかねえ」
げへへ、と下世話な笑みを漏らし、男たちは一歩間合いを詰めた。
「確かに、なーんか色っぽい奴だなぁ。男には違いねえだろうが、セリに掛けるにも、ただ売り飛ばすのはもったいない。俺たちでたっぷり可愛がったあとに売るってのは」
「そりゃあ、穴が開いて良いかもしれねえなあ!」
売り飛ばす。セリ。
狼の餌ともう一つの選択肢は。
人身売買だ。
やっと答えに辿り着き、神も仏もなかったことを知る。
――逃げろ!
全身全霊がそう叫んでいる。
鉈を持った男が、僕の下から刃物を退けた。
今しかない。
不安定な砂の上にふらつきながらも立ち上がると、一番手薄そうな場所から走って逃げようとした。
「おっと、何逃げようとしてんだ。お前は大事な商品だ。暴れるなよ。そして、今夜、俺たちに輪姦されるんだから、よッ!」
83
あなたにおすすめの小説
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
鳥籠の中の幸福
岩永みやび
BL
フィリは森の中で静かに暮らしていた。
戦争の最中である。外は危険で死がたくさん溢れている。十八歳になるフィリにそう教えてくれたのは、戦争孤児であったフィリを拾ってここまで育ててくれたジェイクであった。
騎士として戦場に赴くジェイクは、いつ死んでもおかしくはない。
平和とは程遠い世の中において、フィリの暮らす森だけは平穏だった。贅沢はできないが、フィリは日々の暮らしに満足していた。のんびり過ごして、たまに訪れるジェイクとの時間を楽しむ。
しかしそんなある日、ジェイクがフィリの前に両膝をついた。
「私は、この命をもってさえ償いきれないほどの罪を犯してしまった」
ジェイクによるこの告白を機に、フィリの人生は一変する。
※全体的に暗い感じのお話です。無理と思ったら引き返してください。明るいハッピーエンドにはなりません。攻めの受けに対する愛がかなり歪んでいます。
年の差。攻め40歳×受け18歳。
不定期更新
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
