不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

文字の大きさ
25 / 225

二十五、ランタン師匠

しおりを挟む
 ――千夜一夜祭アルフ・ライラ・ワ・ライラが終わると同時に、この屋敷を出る。
 そうと決まればやらねばならぬことがいくつかあった。
(旅の路銀ろぎんの確保と、えーっと……)

 頭を冷やす為にも、屋敷内に連なる露店ろてんを冷やかして歩く。
 お祭りの一週間ほど前から、既に各国から珍しいものを持ち寄った市場が開いているのだ。

 他国の珍しい果物フルーツ、珍しい、見たこともない色をした鉱物こうぶつ
 アルの好きなナッツの蜂蜜浸けなど、お馴染なじみのスイーツは勿論、別のエリアでは何と鳥やラバをはじめ、珍しい動物たちまで集結していた。

(凄い……。初めて見る食べ物や動物が沢山……)

 大型でカラフルなコンゴウインコを見ていると、おとぎの国に迷い込んだような心地になる。

 市場の一般開放は祭りの当日からだが、この広大な屋敷の関係者は、事前市じぜんいちの買い物が自由らしい。

 まだ商品が買い漁られていない、豊富な時期とあって、珍しい外国の品を求めて、使用人たちも積極的に店をまわっているようだ。

 ふと、視界に息を呑むような光景が広がった。

 味気ない仮設テントにぎゅうぎゅうにつめこむようにして飾られた、あざやかなトルコランプ。

 青や赤や黄、緑、白や紫と言った宝石のような色味はもちろんのこと、細かい細工の美しさも素晴らしい。

 色とりどりのランプが天井からぶら下がる景色は圧巻だ。
 薄暗くなって来た、夕闇の中でひときわ美しく輝いている。
 まるでそこにだけ光が灯っているようだった。

「わぁ、キレー……」

 思わず、そのテントにふらふらと近寄った。
 店員は年老いた老人が一人、ふうふうと荒い息を吐き、苦労してランプを飾っている。

「うーん、腰が痛いのう」
「あの、何か手伝いましょうか?」

 声を掛けると、老人はランプの隙間すきまから顔を覗かせた。
 白いターバンを巻き、丸い眼鏡を掛けた、日に焼けた老人だ。
 柔和で優しそうな顔つきをしている。

 老人はぱちくりとつぶらな瞳をまたたかせた。
「なんとお主、ワシの店を手伝ってくれるのか?」

「はい! ランプが凄く綺麗きれいで――感動しました。時間もあるので、何か僕に出来ることがあるなら、何でもしますよ」

 老人は破顔はがんする。
「そーかそーか。ありがとうなぁ。店番も連れて来なかったもので、一人で苦労しておったんじゃ。助かるのう」
「良ければ毎日でもお手伝いに来ますよ。僕、時間だけはあるので」

「なら、お願いしようかのう。ちゃんとバイト代もはずむでの。ワシの出店を手伝いに来てくれるか」

 ふと、アルの顔が目に浮かんだ。
 この美しいランプの中、一つを、アルにあげることが出来たなら――

「あの、不躾ぶしつけなお願いですが、バイト代として、こちらのランプを一つ、いただくことは出来るでしょうか。買わせて欲しいんです。大切な人にプレゼントしたくて」

「かまわんよ。お主が店番を手伝ってくれたら、どれでも一つ、好きなものをやろう。このランプたちは確かに綺麗じゃが、そこまで値の張るものでもない。バイト代もいくらか渡せるじゃろう」

 老人はふぉっふぉと柔らかく笑った。
 値札を見ると、ランプは日本円にして一つ二千円から、五千円を超えるものまでさまざまだ。

「あの、僕お祭りが終わったら、アズィーズ家というところに行かないといけなくて。ここからどれぐらい掛かるでしょうか」
「はて。アズィーズ家とな」
 老人はいぶかしそうに首を傾げる。
 背後の宮殿を見やった。

「恐らくここからそう遠くはないようなのですが……」
「もしかして、別邸のアズィーズ家のことじゃろうかな。ラクダで二日ほどの道のりじゃ。もし祭りが終わってからで良ければ、荷台に乗って行くかね。ちょうどあちらの方面にも行く用事があっての」

 これほどトントン拍子に話が進むとは思いもしなかった。
 柚の人生で、こうまでうまくことが運んだことはない。
 思わず勢いよくお辞儀をした。

「本当ですか!? ありがとうございます!」
「いやいや何の、こちらこそ店番に困っておったからの」
「僕は柚と申します。あの、良ければお名前を伺っても?」

 店主は、おじいちゃん、と呼んで差支えない年齢のようだ。
 老人は白いあごひげで、ふぉっふぉと笑った。

「そうじゃのう。ここにあるランプにちなんで、ランタン師匠とでも、呼んでくれるかね」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

鳥籠の中の幸福

岩永みやび
BL
フィリは森の中で静かに暮らしていた。 戦争の最中である。外は危険で死がたくさん溢れている。十八歳になるフィリにそう教えてくれたのは、戦争孤児であったフィリを拾ってここまで育ててくれたジェイクであった。 騎士として戦場に赴くジェイクは、いつ死んでもおかしくはない。 平和とは程遠い世の中において、フィリの暮らす森だけは平穏だった。贅沢はできないが、フィリは日々の暮らしに満足していた。のんびり過ごして、たまに訪れるジェイクとの時間を楽しむ。 しかしそんなある日、ジェイクがフィリの前に両膝をついた。 「私は、この命をもってさえ償いきれないほどの罪を犯してしまった」 ジェイクによるこの告白を機に、フィリの人生は一変する。 ※全体的に暗い感じのお話です。無理と思ったら引き返してください。明るいハッピーエンドにはなりません。攻めの受けに対する愛がかなり歪んでいます。 年の差。攻め40歳×受け18歳。 不定期更新

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...