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三十一、異変
しおりを挟む千夜一夜祭も終盤に差し掛かっていた。
アスアドは、剣舞を披露したあとのほんの僅かな時間、広場を見渡した。
そして、異変に気付く。
先ほどまで確かに視界に映っていたはずの、柚が居ない。
寒い中とはいえ、剣舞は激しい動きだ。
汗を拭うためのタオルを差し出したイスハークに短く問うた。
「柚は何処だ」
「柚様ですか?」
「さっきまで、丁度中央の人だかりの中に居たはずだ。だが、姿がない」
ミネラルウォーターのペットボトルも同じく差し出しながら、イスハークは困惑する。
「たまたま席を外しておられるとか、露店に戻られた、などではなくですか」
「わからん。だが、嫌な予感がする。柚は、俺の神官姿を楽しみにしていると言ってくれた。大した理由なく、退出するようには見えぬ」
「ですが……」
今はまだ祭事の途中だ。
イスハークは進行全体に関わっている。
アスアドの代わりに様子を見に行くわけにも行かなかった。
「至急、露店を確認に行かせろ。俺の取り越し苦労であればそれでいい」
イスハークは顔を青ざめさせた。
強運と同様に、アスアドの第六感は当たるのだ。
「承知致しました。至急、確認に向かわせます」
イスハークは幾人か警備を呼ぶと、すぐに露店エリアへと向かわせた。
「――柚。一体何処へ行った」
今すぐに、宝石のあしらわれたクーフィーヤを投げ捨てて、柚の無事を確認しに行きたい。
だが、アスアドに生き写しの父親が、アスアドを遠くから見つめている。
周囲を取り囲む、諸外国の貴賓たちも、到底蔑ろには出来なかった。
(――クソッ!)
何が王だ。
何が花婿だ。
大切な花嫁一人、満足に守れずに。
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