不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

文字の大きさ
31 / 225

三十一、異変

しおりを挟む

 千夜一夜祭アルフ・ライラ・ワ・ライラも終盤に差し掛かっていた。

 アスアドは、剣舞けんぶを披露したあとのほんの僅かな時間、広場を見渡した。

 そして、異変に気付く。

 先ほどまで確かに視界に映っていたはずの、柚が居ない。

 寒い中とはいえ、剣舞は激しい動きだ。
 汗をぬぐうためのタオルを差し出したイスハークに短く問うた。

「柚は何処どこだ」

「柚様ですか?」
「さっきまで、丁度中央の人だかりの中に居たはずだ。だが、姿がない」

 ミネラルウォーターのペットボトルも同じく差し出しながら、イスハークは困惑する。

「たまたま席を外しておられるとか、露店に戻られた、などではなくですか」

「わからん。だが、嫌な予感がする。柚は、俺の神官姿を楽しみにしていると言ってくれた。大した理由なく、退出するようには見えぬ」

「ですが……」
 今はまだ祭事の途中だ。
 イスハークは進行全体に関わっている。
 アスアドの代わりに様子を見に行くわけにも行かなかった。

「至急、露店を確認に行かせろ。俺の取り越し苦労であればそれでいい」

 イスハークは顔を青ざめさせた。

 強運と同様に、アスアドの第六感は当たるのだ。

「承知致しました。至急、確認に向かわせます」

 イスハークは幾人か警備を呼ぶと、すぐに露店エリアへと向かわせた。


「――柚。一体何処どこへ行った」

 今すぐに、宝石のあしらわれたクーフィーヤを投げ捨てて、柚の無事を確認しに行きたい。

 だが、アスアドに生き写しの父親が、アスアドを遠くから見つめている。
 周囲を取り囲む、諸外国の貴賓きひんたちも、到底ないがしろには出来なかった。

(――クソッ!)

 何が王だ。
 何が花婿はなむこだ。

 大切な花嫁一人、満足に守れずに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

鳥籠の中の幸福

岩永みやび
BL
フィリは森の中で静かに暮らしていた。 戦争の最中である。外は危険で死がたくさん溢れている。十八歳になるフィリにそう教えてくれたのは、戦争孤児であったフィリを拾ってここまで育ててくれたジェイクであった。 騎士として戦場に赴くジェイクは、いつ死んでもおかしくはない。 平和とは程遠い世の中において、フィリの暮らす森だけは平穏だった。贅沢はできないが、フィリは日々の暮らしに満足していた。のんびり過ごして、たまに訪れるジェイクとの時間を楽しむ。 しかしそんなある日、ジェイクがフィリの前に両膝をついた。 「私は、この命をもってさえ償いきれないほどの罪を犯してしまった」 ジェイクによるこの告白を機に、フィリの人生は一変する。 ※全体的に暗い感じのお話です。無理と思ったら引き返してください。明るいハッピーエンドにはなりません。攻めの受けに対する愛がかなり歪んでいます。 年の差。攻め40歳×受け18歳。 不定期更新

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...