不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

文字の大きさ
104 / 225

百四、楽園追放

しおりを挟む

莫迦ばかを言うな! 黄蓋! そんなことをさせる為に、貴様を呼んだわけではない!!」

 アルの声が広間に響き渡る。
 くつくつと笑い、黄蓋は勢いよく、長剣を腰から引き抜いた。

「第二王子よ。貴殿きでんは確かに、王に相応ふさわしい。だが、そのすべてが、思い通りになると思うてか」
「何……だと」

 アルの血の気が引いた。

「広い度量どりょう寛容かんような精神。慕われる人柄。次期国王になるに何の不足もない。しかし、ワシはナースィフ様の配下であって、貴殿のこまではない。それを見誤ったが、貴殿の誤算。大局を見据みすえるが故に、少数を蹴落とした、そのツケが回って来たに過ぎぬ」

「黄蓋、貴様……!」


 なりふり構わず、アルは剣を取ろうとする。
「アル様! 安静になさって下さい! これ以上は――!」

 静止の声を上げるイスハークに、ざわめく兵士たちで、その場は一時騒然そうぜんとなった。

 黒衣こくえの騎士、サディクがイスハークとアルの前に立ちはだかる。

「――私が行きましょう」
「サディク! しかし――」
 イスハークは躊躇ためらう素振りを見せる。サディクは視線を黄蓋から外さず、うなずいた。
 
「わかっています。あの御仁ごじんは強い。俺でも互角ごかくに戦えるかどうか――恐らく、力量は、アスアド様に相当する。難しいことは、承知の上」

「――ふんぬっ!」
 黄蓋が大きく円を描き、剣を一振りすると、ナースィフを囲んでいた衛兵たちは、何かの間違いのように、一瞬でぎ払われ、散り散りになった。

「この老兵にすら敵わんとは、うぬらは弱い。弱すぎるわ!!」

「黄蓋!」

 まるでとらわれの姫を助け出すかのような一幕だった。

 ナースィフは、後ろ手を拘束こうそくされたまま、黄蓋の腕の中に飛び込んだ。

 アルの叫び声と、黄蓋にじた衛兵の悲鳴が交差する。

「クソッ、構わん、イスハーク、剣を寄越よこせ!! 俺にしか、アイツは止められぬ!!」

 イスハークはがんとして首を横に振った。

「――なりません。これ以上の御怪我をなされば、貴方様あなたさまの命があやうい。どうしても行くというのならば、私を切り捨ててからになさい」

「イスハーク……! それが、お前の答えか。ナースィフは第一王子。――俺の兄だ」

未来永劫みらいえいごう、私の主人は、アスアド様にございますれば」

 まさに、万事休ばんじきゅうす。誰も、あの二人を止められない。

 ナースィフは、黄蓋にしかと抱き支えられ、如何いかにも幸福そうな笑みを浮かべた。

「――これほど簡単ならば、最初からこうしておくべきだった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

鳥籠の中の幸福

岩永みやび
BL
フィリは森の中で静かに暮らしていた。 戦争の最中である。外は危険で死がたくさん溢れている。十八歳になるフィリにそう教えてくれたのは、戦争孤児であったフィリを拾ってここまで育ててくれたジェイクであった。 騎士として戦場に赴くジェイクは、いつ死んでもおかしくはない。 平和とは程遠い世の中において、フィリの暮らす森だけは平穏だった。贅沢はできないが、フィリは日々の暮らしに満足していた。のんびり過ごして、たまに訪れるジェイクとの時間を楽しむ。 しかしそんなある日、ジェイクがフィリの前に両膝をついた。 「私は、この命をもってさえ償いきれないほどの罪を犯してしまった」 ジェイクによるこの告白を機に、フィリの人生は一変する。 ※全体的に暗い感じのお話です。無理と思ったら引き返してください。明るいハッピーエンドにはなりません。攻めの受けに対する愛がかなり歪んでいます。 年の差。攻め40歳×受け18歳。 不定期更新

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...