125 / 225
百二十五、七日間の蜜月(2)
しおりを挟む言ったきり、アルは扉を閉めてしまった。
恐らくイスハークが何か言っている気配がするが、分厚い扉に阻まれて、外の音は聞こえない。
禊の為に、神殿の神泉で身体を清めた僕は、今は白い浄衣に包まれている。肌触りの良い、絹のシンプルなカフタンドレスに、透けた薄羽衣のようなヴェールを纏う、花嫁の衣装だ。
「始めるか」
「うん……」
不安と期待がない交ぜになった、僕の硬い声が響く。
アルと、本当に七日間ずっと二人きりなのだ。
他の誰にも出逢わない。何の邪魔も入ることはない。
本来禊というものは、この国では相当神聖なもので、正当な理由なく中止させれば、厳しい罰があるということだった。
先日のナースィフとの一件のようなことでなければ、中断などということは有り得ないと聞いている。
「酷く緊張しているな」
アルは自然に、僕の頬に触れた。
「あ、アルは平気なの?」
手持無沙汰な僕の手を掬い上げて、アルは僕の指に唇を寄せる。
「俺は――ずっと柚に触れたかった」
「アル……」
「掴まえても、掴まえても、柚がいなくなってしまいそうで――消えてしまうかと思った」
「アル、ごめん、僕――」
アルの元から逃げ出した。何度助けて貰っても、本当の婚約者じゃないアルを好きになってはいけないと思った。
「アルは、ずっと待っていてくれたんだね」
「強引に、お前を宮殿の中に閉じ込めておくことも出来た。だが、それでは何の解決にもならない。籠の中に閉じ込めてしまった小鳥は、いつしか死にゆくだろう。俺の腕の中にこそ、帰る場所があると思わぬ限りは、婚姻など無意味だと思った」
「――アルはいいの? 僕、凄く不運なんだよ? 多分、アルが思っているよりずっと」
「そんなことは、委細構わん。俺が誰より強運であること、知っているだろう。それを、証明してやる」
アルは僕の腰を、いとも容易く引き寄せた。
「本当なら、柚を神殿の奥深くに閉じ込めて――誰にも見せずにおきたいぐらいだ」
「アル……」
まさかこんなに、アルに求められているとは思わなかった。
天蓋付きのふかふかのベッドに、壊れ物を扱うかのように押し倒される。
「ねえ、アル、まだ昼間……っ」
「時間も、天気も、何もかもわからなくなれば良い」
外界から隔絶するように、天蓋のカーテンをアルが後ろ手に閉める。
灯りが遮られ、俄かに視界が薄暗くなった。
「この禊の期間だけは、俺だけを感じていればいい。天宮柚は、アスアド・アル=アズィーズの花嫁だ」
61
あなたにおすすめの小説
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
僕と教授の秘密の遊び (終)
325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。
学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。
そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である…
婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。
卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。
そんな彼と教授とのとある午後の話。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる