不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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百二十五、七日間の蜜月(2)

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 言ったきり、アルは扉を閉めてしまった。
 恐らくイスハークが何か言っている気配がするが、分厚い扉に阻まれて、外の音は聞こえない。

 みそぎの為に、神殿の神泉で身体を清めた僕は、今は白い浄衣に包まれている。肌触りの良い、絹のシンプルなカフタンドレスに、透けた薄羽衣うすはごろものようなヴェールをまとう、花嫁の衣装だ。

「始めるか」
「うん……」
 不安と期待がない交ぜになった、僕の硬い声が響く。

 アルと、本当に七日間ずっと二人きりなのだ。
 他の誰にも出逢わない。何の邪魔も入ることはない。

 本来みそぎというものは、この国では相当神聖なもので、正当な理由なく中止させれば、厳しい罰があるということだった。

 先日のナースィフとの一件のようなことでなければ、中断などということは有り得ないと聞いている。

「酷く緊張しているな」
 アルは自然に、僕の頬に触れた。

「あ、アルは平気なの?」

 手持無沙汰な僕の手をすくい上げて、アルは僕の指に唇を寄せる。

「俺は――ずっと柚に触れたかった」
「アル……」

「掴まえても、掴まえても、柚がいなくなってしまいそうで――消えてしまうかと思った」
「アル、ごめん、僕――」
 アルの元から逃げ出した。何度助けて貰っても、本当の婚約者じゃないアルを好きになってはいけないと思った。

「アルは、ずっと待っていてくれたんだね」

「強引に、お前を宮殿の中に閉じ込めておくことも出来た。だが、それでは何の解決にもならない。かごの中に閉じ込めてしまった小鳥は、いつしか死にゆくだろう。俺の腕の中にこそ、帰る場所があると思わぬ限りは、婚姻など無意味だと思った」

「――アルはいいの? 僕、凄く不運なんだよ? 多分、アルが思っているよりずっと」
「そんなことは、委細構わん。俺が誰より強運であること、知っているだろう。それを、証明してやる」

 アルは僕の腰を、いとも容易く引き寄せた。
「本当なら、柚を神殿の奥深くに閉じ込めて――誰にも見せずにおきたいぐらいだ」
「アル……」

 まさかこんなに、アルに求められているとは思わなかった。
 天蓋てんがい付きのふかふかのベッドに、壊れ物を扱うかのように押し倒される。

「ねえ、アル、まだ昼間……っ」
「時間も、天気も、何もかもわからなくなれば良い」

 外界から隔絶かくぜつするように、天蓋のカーテンをアルが後ろ手に閉める。
 灯りがさえぎられ、俄かに視界が薄暗くなった。

「このみそぎの期間だけは、俺だけを感じていればいい。天宮柚は、アスアド・アル=アズィーズの花嫁だ」
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