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百二十六、七日間の蜜月(3)
しおりを挟むまるで冥界の王が、焦がれて攫ってきたペルセポネーにするかのように、口付けられる。
「待っ、あ、ル……っ! ンうぅ……ッ」
僕の舌ごと飲み込まんばかりに、アルが咥内へと侵入する。
(食べられちゃいそう……)
口の中で、アルが触れていないところはないかのように、粘膜と粘膜が擦れ合って、思わず声が漏れてしまう。
既に、下腹部にずくりとした甘い疼きが湧き出していた。
我慢出来ずに太腿を擦り合わせると、それを目敏くアルが発見してくすりと笑う。
「気持ち良いか?」
「ち、違……っ」
妙に気恥ずかしくて、思わず否定してしまう。
「そうか、まだ足りぬか」
「えっ……?」
先ほどから、アルの手が胸元にも触れていたが、知らぬ間に純白の薄い服の胸元は肌蹴られていた。
(いつの間に……!?)
「野苺が、美味そうに色付いているな」
「ア……っ!?」
アルが、ピンと指先で乳首の先端を弾く。
「さっき……っンっ、お風呂入ったから……っ」
禊の為に、身体を清めて来ている。温かい湯に浸かったので、身体の血行が良くなっているのかもしれない。
僕の頬はぶわりと紅潮した。
以前アルに湯殿で触られた時に、晒してしまった醜態が鮮明に甦る。
「アル、だ、だめ……っ」
「どうした?」
「このままだと、何だか凄く、恥ず、かし……い……かも……」
「ふむ――そうか」
アルは少し考え込むと、立ち上がって寝台の向こうに行ってしまった。
「アル……?」
折角、イスハークたちが用意してくれた禊なのに、我儘を言ってしまっただろうか。
(僕、また何かやっちゃったのかな……)
不安に思っていると、すぐにアルが戻って来た。手には、金の細工が施された硝子ポットを持っている。確か、イスハークが果物と一緒に差し入れてくれたものだった。
「アル、それは……?」
アルは急に子どもっぽい顔つきになった。まるで悪戯を企む少年のようだ。不敵な笑みで、口角を上げる。
「これなら、羞恥心も吹き飛ぶのではないか?」
「な……っ!」
僕の胸元に垂らされたのは、何と黄金色をした――蜂蜜だった。
「や、ぁっ、アル……さま……ッ」
「冷たくはないか?」
とろりとした液体は、少量でも胸元に広がっていってしまう。体温で温まり、身体の上で、蜂蜜が徐々に柔らかくなった。
「だ、め、シーツ、汚しちゃ……っ」
「禊を滞りなく行うためだ。構わんさ」
アルはシーツに滴り落ちる蜂蜜にも構わず、たらり、と更に蜂蜜を足していく。
「美味そうな身体になったな」
「や、……ぅ、こんな、の……っ」
「どうだ。先ほどの羞恥心は忘れただろう」
湯殿での件は吹き飛んだが、変わりに別の恥ずかしさが込み上げてくる。
「野苺やナッツの蜂蜜漬けが、俺は一等好物だと、言わなかったか?」
野晒しになった胸の蕾が、蜂蜜に浸されて、てらてらと鈍く光っている。
「美味そうだ」
僕の耳朶に甘い声を注ぎ込んだかと思うと、アルは蜂蜜に覆われた蕾を舐め取った。
「ひ、あァっ!」
びくん、と身体が跳ねる。慣れない液体の感触が、肌を更に鋭敏にさせているようだ。
「甘いな」
口の端についたらしい蜂蜜を親指で舐め取るアルは、あまりにも雄の匂いに溢れていた。
砂漠の王に相応しい雄々しい色香と、アルも身を清めたのだろう。少し汗ばんだ褐色の肌。程よく弛んだ衣装から、逞しい腹筋が覗いている。僕のように薄い身体ではなく、厚みのある身体に、思わずほう、と惚けてしまう。そこに来て、国で一番の美形と言われる、役者顔負けの端正な顔立ちの美丈夫だ。
断言してもいい。
アルより格好良い人は、この世界に居ない。
「どうした。じっと俺を見て」
「アル様……、今更だけどすっごく格好良いよね……。思わず見惚れちゃった」
くすり、とアルは微笑する。そして、僕を壁ドンするかのように、宮棚に手を突いた。
「柚――俺を煽っているのか?」
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