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二、螢華国
百四十一、螢華国(2)
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「供が三人……だと?」
アルが絶句している。
アルとイスハークを見比べて、僕は首を傾げた。
「何かだめなの?」
腕を組んでアルは考え込む。
「だめというか、本来なら有り得ん話だな」
イスハークが後を引き継いだ。
「まず、妃というものは、世話をする女官を複数抱えているものです。数十人から多い時は五十人以上のものが、一人の妃に対して仕えております。
掃除、洗濯に始まり、炊事、産まれた妃の子の世話などを含めればもっと多くなるでしょうか」
「五十人!?」
「百人近くを召し抱える妃も、中にはおられますよ。しかしながら、今回はその供が妃の他にたった二人だけ……とは」
「俺とイスハークが同行するだけで上限に達してしまうな」
「困りましたね。サディクは黒都の守りもあるので、連れては行けなかったかもしれませんが、流石にこれほどまでとは。他の方も苦労なさるでしょう」
「僕、自分のことはするよ?」
ふる、とイスハークは首を横に振った。
「そうでなくとも、柚様の臣下が少なすぎるのですよ。お仕えする者の選定には、それなりの時間を要します。安全を確約出来るのが、王宮内部に現状、アスアド様とサディクの他に私と、たった三人しか居ないのです。
柚様は現在、他に側室を持たれないアスアド様の唯一の妃ですから、その扱いは正室。本来なら、柚様は百人近い女官を召し抱えていて当然なのです」
「どこに親父の息が掛かっている者が居るかわからんからな。おいそれと人を増やせんのだ」
日本に住んでいた僕にとっては、信じられない話だ。
服だって自分で着るし、料理も簡単なものなら出来なくもない。お風呂は当たり前に一人で入るが、そうしたことは、妃には本来あってはならないのだそうだ。
「柚様は、何でも一人でお出来になりますし、現状は私共がそれに甘えてしまっている形になり、申し訳ございません。いずれ、仕える者は増やす予定ですので……」
僕は慌てて首を横に振る。
「全然大丈夫だよ! 日本だとこれが普通だから気にしないで!」
「そう仰っていただけますと幸いです。アスアド様も、女性をはじめ、あまり近くに人を置きたがらない性分ですから、どうにも……」
「イスハーク。話が脱線しているぞ。続きを」
「すみません、そのような理由で、付き添いはアスアド様、私の二名。今回のような、妃付きの女官が二名ということは普通ありえません。旅の供を厳選する必要がないことだけは、不幸中の幸いといったところでしょうか。
王宮まではサディクも同行致します。王宮に入るまでは、十名前後の随伴が可能なようです。それからですね――これが最難関の条件かもしれませんが……」
「まだ何かあるのか」
「妃付きの者は、役一名しか後宮に入れないようでして」
「はあ!?」
アルは更にドスの効いた声を張り上げた。
「男性を伴う場合は、王宮付きの者として扱う、と書かれています。要するに、伴うことは出来ますが、アスアド様は下男ということになりますでしょうか……」
アルは半眼になって、目の前のイスハークを見据えた。
「イスハーク。俺は王族ではなかったか」
「左様でございます。次期国王候補、第二王子であらせられます」
「それが、言うに事欠いて、螢華国の下男、だと?」
びりびりと窓の枠が、アルの覇気で振動する。
僕も、ごくりと唾を飲み込んだ。
アルが絶句している。
アルとイスハークを見比べて、僕は首を傾げた。
「何かだめなの?」
腕を組んでアルは考え込む。
「だめというか、本来なら有り得ん話だな」
イスハークが後を引き継いだ。
「まず、妃というものは、世話をする女官を複数抱えているものです。数十人から多い時は五十人以上のものが、一人の妃に対して仕えております。
掃除、洗濯に始まり、炊事、産まれた妃の子の世話などを含めればもっと多くなるでしょうか」
「五十人!?」
「百人近くを召し抱える妃も、中にはおられますよ。しかしながら、今回はその供が妃の他にたった二人だけ……とは」
「俺とイスハークが同行するだけで上限に達してしまうな」
「困りましたね。サディクは黒都の守りもあるので、連れては行けなかったかもしれませんが、流石にこれほどまでとは。他の方も苦労なさるでしょう」
「僕、自分のことはするよ?」
ふる、とイスハークは首を横に振った。
「そうでなくとも、柚様の臣下が少なすぎるのですよ。お仕えする者の選定には、それなりの時間を要します。安全を確約出来るのが、王宮内部に現状、アスアド様とサディクの他に私と、たった三人しか居ないのです。
柚様は現在、他に側室を持たれないアスアド様の唯一の妃ですから、その扱いは正室。本来なら、柚様は百人近い女官を召し抱えていて当然なのです」
「どこに親父の息が掛かっている者が居るかわからんからな。おいそれと人を増やせんのだ」
日本に住んでいた僕にとっては、信じられない話だ。
服だって自分で着るし、料理も簡単なものなら出来なくもない。お風呂は当たり前に一人で入るが、そうしたことは、妃には本来あってはならないのだそうだ。
「柚様は、何でも一人でお出来になりますし、現状は私共がそれに甘えてしまっている形になり、申し訳ございません。いずれ、仕える者は増やす予定ですので……」
僕は慌てて首を横に振る。
「全然大丈夫だよ! 日本だとこれが普通だから気にしないで!」
「そう仰っていただけますと幸いです。アスアド様も、女性をはじめ、あまり近くに人を置きたがらない性分ですから、どうにも……」
「イスハーク。話が脱線しているぞ。続きを」
「すみません、そのような理由で、付き添いはアスアド様、私の二名。今回のような、妃付きの女官が二名ということは普通ありえません。旅の供を厳選する必要がないことだけは、不幸中の幸いといったところでしょうか。
王宮まではサディクも同行致します。王宮に入るまでは、十名前後の随伴が可能なようです。それからですね――これが最難関の条件かもしれませんが……」
「まだ何かあるのか」
「妃付きの者は、役一名しか後宮に入れないようでして」
「はあ!?」
アルは更にドスの効いた声を張り上げた。
「男性を伴う場合は、王宮付きの者として扱う、と書かれています。要するに、伴うことは出来ますが、アスアド様は下男ということになりますでしょうか……」
アルは半眼になって、目の前のイスハークを見据えた。
「イスハーク。俺は王族ではなかったか」
「左様でございます。次期国王候補、第二王子であらせられます」
「それが、言うに事欠いて、螢華国の下男、だと?」
びりびりと窓の枠が、アルの覇気で振動する。
僕も、ごくりと唾を飲み込んだ。
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