不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

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二、螢華国

百四十二、螢華国(3)

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「私がアスアド様と交代しても構いませんが。そうすると、後宮に入るには、女性でなくてはならないようで……。私自身もそのお役目は難しいとは感じております。どうにかして分担しましょう」
「書類を貸してみろ」

 ざっとひととおり目を通したアルは、軽く息を吐き、後頭部を擦った。
「まだイスハークが柚付きの方が、潜入には希望が持てそうだ。下男はどうやら、肉体労働もあるらしい。文官のお前には不向きだな」

 イスハークは拱手きょうしゅした。
「大変恐れ入ります」

「流石に俺だって、柚付きの女官として潜り込めるとは思っていない。適材適所だな。仕方ない。螢華国けいかこくの下男として、こき使われるか」
「アル! 大丈夫……? 何とか出来ないのかな」

 アルと離れ離れになるのは不安だ。
 僕が問いかけると、アルは鷹揚おうように笑った。

「万難を排してでも、会いに行く。柚は、逢引あいびきの準備をしておけ」
「あいび……っ!?」

 目を白黒させていると、アルは笑い声を上げる。

「そう思えば、なぁに、下男といってもなかなか楽しい旅路かもしれぬな」

 急に生き生きとし出したアルに、イスハークは少々呆れた風だ。

「あまり無茶はなさいませんよう」
「さぁ、どうかな。それは螢華国けいかこく次第だろう」

 本人に言っても無駄だと悟ったのか、イスハークは僕へと向き直る。

「柚様。どうかアスアド様をよろしくお願い致します。私も付いておりますが、このバハル国を継ぐ御方であること、くれぐれも、御承知おきください。アスアド様の御身に危険のないよう、監視をお願いします」

 監視は何かの冗談かと思ったが、イスハークの目は真剣だ。

 僕は頷いた。

「僕も、出来ることを精一杯する。皆で一緒に、またここに帰って来ようね」
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