不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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二、螢華国

百五十八、龍藍炎VSイスハーク 不自然なお茶会

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 アルとイスハークと一緒に、与えられた部屋へと戻るところだった。

「結局、りゅう藍炎らんえんが望んでいたのは、妃候補の射撃の腕前なのでしょう。ある程度疲弊ひへいしていても、銃を扱えるのか、その命中精度などを知りたかったとしか思えません。

妃候補が、国内でどういった教育を受けているか、軍事的な方針もよくわかりますから。うまくまとに当たらなくて良かったのですよ。柚様」

 イスハークが、射撃が下手過ぎて凹んでいる僕を励ましてくれた。
「ありがとう、イスハーク。そう言って貰えると、安心するよ」

 そして、途端にぐるりとアルへと向き直る。
「とはいえ、アル様! 流石に王の側近である龍藍炎にあのような口ぶりは、下男という立場を如何お考えですか! 何らかのおとがめがあってもおかしくありませんよ。

確かに帝王教育の教本に、へりくだる、という教えはないに等しいですが、他国の賓客ひんきゃくに対する態度でなければ、疑われます」

 アルは端正な顔立ちに渋面じゅうめんを作る。
「俺ももう少しうまくやろうとは思ったんだが。どうにも、藍炎という男とはソリが合わん。まあ、俺は明日から後宮に常駐しているわけではない。そうそう出会いもせんさ」

「普段の貴方でしたらご自身で責任を取れば良いのでしょうが。ここでは、使用人の不手際は、引いては柚様の責となるのですよ。それをお忘れなきよう」
「いざと言う時は何とかするが――確かにそうだな。肝に銘じる」

 これ以上の、いさかいは起こらない。
 そう思ったが、ことは簡単には運ばなかった。
 与えられた部屋に帰り着くなり、イスハーク宛てに文が届けられたのである。

 送り主は、龍藍炎だった。

「イスハーク殿

 よろしければ、茶会にてお話でも如何でしょうか。
 側近同士、親交を深めたく。
 色好い返事を期待しております。

                    龍藍炎」

 物々しく木簡に書かれた文に顔をうずめんばかりにして、イスハークは溜息をついた。
「早速来ましたね……」
「何だって?」
 アルがひょいと中身を覗き込む。

「見てくれは丁寧ですが――アル様への苦言に違いありません。やれやれ……。これも側近の務めでしょうか」
「僕も行こうか? イスハーク」

 くるくると器用に木簡を巻き取りながら、イスハークは慣れた風にひもで結わえ、卓に置いた。

「柚様、お心遣い感謝致します。しかし、側近同士と書かれていることから、どうやら藍炎は私と二人きりを所望しているようです。

――先ほどの非礼に対する叱責を、主人に聞かせることは忍びないということでしょう。私がひとしきり謝罪すれば済むこと。お手をわずらわせるわけにも参りません」

 あっけらかんと、アルは片手を上げた。
「そうか、頼んだぞ。俺は外廷の力仕事で後宮には居ないからな」

「貴方は、もう少し申し訳なさそうになさって下さい」
 イスハークは恨みがましい視線を隠さない。

「まあいいでしょう。私も、腐っても一国の文官。これしきのこと、華麗に乗り越えてみせますよ」
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