不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

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二、螢華国

百五十九、龍藍炎VSイスハーク 不自然なお茶会(2)

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 国王直属の龍藍炎からの茶会の誘いを断るという選択肢は、事実上存在しなかった。

(やれやれ……。アスアド様にも困ったものです)

 身なりを整えたイスハークは、龍藍炎に指定された四阿あずまやへと向かっていた。

 先日、射撃を命じられた柚に対して、アスアドは藍炎に酷く高圧的に振る舞っている。

 それは、王族であるアスアドが、異国の王の側近に低姿勢になる必要がないからだが、まさか「実は王族なので許してやってください」とも言えまい。

 アスアドは現在、妃よりも遥かに身分の低い下男として出仕しているのだ。

 アスアドは、バハル国随一と言われる美貌と、鋼のような肉体があまりにも目立つ。
大人しくしていて尚、下男の位置付けに何かおかしいと気付く者は多いだろう。

 龍藍炎より呼び出された四阿あずまやは、後宮内だが少し外れたところにある。池のほとりにあり、立派な庭園が一望出来る。風がよく通り、開放的で気持ちが良い。

 しかしながら、人気ひとけのない極めて危険な場所でもあった。アスアドや柚を潜ませようにも、場所がない。

 ならば、藍炎とて条件は同じと開き直ってみるが、茶会中に危害を加えられる可能性は依然として排除出来なかった。
 
(万一でも、暗殺されたら恨みますよ。アスアド様)

 近付くと、四阿あずまやで優雅に足を組んだ藍炎を認める。
 名に相応しい、青の艶やかな髪色に白皙はくせきの肌。控え目に色付く唇も相まって、妙な色眼鏡と男物の服でさえなければ、王の寵姫と言われても納得してしまうような色香があった。

 くして、腹の探り合いは始まった。

「お待たせ致しました。藍炎殿」
螢華国けいかこくの習わしに従い、拱手する。

 一瞬、藍炎はするりとイスハークをひと舐めするかのように、上から下へと視線でなぞった。

欢迎いらっしゃい。よく来たネ。イスハーク殿」
 
 不躾なその視線は、本来なら気付かない者もいるだろう。
 しかし、早くもその視線に気疲れを感じながら、イスハークは謝辞を告げる。

此度こたびはお招きいただきありがとうございます。また――お待たせしてしまったようで、申し訳もございません」
「全然遅れてないヨ。時間ぴったりネ。座るヨロシ」
 イスハークは着席する。

 藍炎は、既に自らの茶器に茶を注いで飲み始めている。
 招く側ホストならば、常識的には相手を待つべきだ。

 だが、藍炎にはそういった配慮はないらしかった。

(先日の件の謝罪を、暗に求められているのでしょうね)
 確かに、藍炎に指摘される前に詫びてしまった方が得策だ。

「先日は、妃仕えの者が無礼を働き、大変申し訳ございませんでした。それにも関わらず、このような取り計らい。感謝の念が尽きません」

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