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二、螢華国
百八十三、顔合わせ
しおりを挟む合わせたい人がいる、と黄蓋から聞いていた。
そんなことを初めて言われたナースィフは、何となく気持ちが落ち着かない。
(ま、まさか女性……ではあるまいな。私という者がありながら、そんなはずは……)
当の黄蓋は普段通りに仕事をしている。
しかし、どうやら約束している人物が到着したらしい。
衛兵から知らせを受けた。
「坊ちゃ――ナースィフ様。客人が来たようで、ちょいとお待ちいただいて良いですかね。迎えに行って連れて来まさぁ」
「私も行こう。客人ばかりを歩かせては失礼に当たるだろう」
「そんな肩肘張るような相手じゃあないんですがねぇ」
「一体誰に引き合わせようとしているのだ。早く言え。落ち着かないだろう」
「まあ、何だ……。今後のことを思えば、引き合わせてねえのも後々マズいってんでね……。このタイミングでいっちょ知り合って貰おうかと」
「だから誰だそれは」
ナースィフは焦れていた。
螢華国に潜入調査で旅立って行ったアスアドからも、待てど暮らせど連絡はなく、餞にと贈った鳩も、勿論到着していない。
柚やイスハーク、サディクらからも何の音沙汰もない。
要は連絡が取りたくても、取れない状況にあるのだろう――と容易に推測出来る。
だからこそ、SOSが飛び込んで来た時には即座に対応せねば間に合わないかもしれないという、妙な緊張感が、ここ最近のナースィフを支配していた。
(実際に任務にあたっているアスアドたちに比べれば、取るに足りない心配だが……)
「おっ、居た居た。おーい! こっちだ!」
城門に近付くと、黄蓋が声を張り上げる。
砂塵で見えづらいが、黄蓋の旧知なのだろう。
ナースィフを必要以上に歩かせまいと、黄蓋は小走りに駆けて行った。
「いやーお待たせしやした」
後頭部に手をあて、雄々しく快活に笑う黄蓋の横には、まだあどけなさの残る、一人の少年が居た。
ナースィフはまさかの人物に、挨拶を忘れて目を丸くする。
悪戯っ子のような瞳、身軽そうな肢体。くすんだ黄金色をした髪を、高い位置でポニーテールにしている。
今はまだ幼いが、もう数年も経てば立派な青年に成長するだろうと容易に想像出来た。
少年は、頬を染めて声を上げた。
「親父、誰このすっごい美人! めちゃくちゃ美人じゃないっスかぁ!? 超~タイプ! 紹介して紹介して! すげー! 生きてて初めてこんな美人拝んだかも!」
「莫迦。この方がバハル国第一王子ナースィフ殿下だ!」
黄蓋は拳骨を食らわせ、顔を引き攣らせる。
「すいやせん。ど~~~もコイツはまだ子どもでして……。あ、息子の黄夜っつうもんです」
「ナースィフ殿下!? この美人が!? 道理で……。親父がいっつも美人だ美人だっつって、殿下が綺麗過ぎて仕事が手につかねえとか惚気てる相手か~~~~」
黄夜は、脱力してその場に屈みこむ。
「黄蓋? そうなのか? 仕事が手に付かないと?」
「いや、最近は――そんなことはねえですけど」
黄蓋は何とか誤魔化そうとしているのか、視線を斜め上へと彷徨わせた。
「親父、なかなか殿下に逢わせてくれなくて、今回、大兄と直談判して漸くッスよ!? どれだけ会わせたくねえんだって、逆に盛り上がったっスよ」
「そうなのか? 黄蓋」
じっとりとしたナースィフの視線に耐えかねて、黄蓋は音を上げた。
「積もる話は後にしやしょう。ここは陽射しも強いし砂風も酷い。ナースィフ殿下の身体に触ると困る」
「うわぁ~。息子の俺たちにはそんなこと言ったこともないッスよ」
黄夜は、少年らしさたっぷりの声を上げ、にへへと邪気なく笑った。
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