冷たい桜

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第四章

二、崋山家当主の推理

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「勇朔が、朔の霊媒師……?」
 神楽は呆然として、声を掠れさせた。

「まさか。何かの間違いでしょう。勇朔は、『太陽サンユエ』の霊媒師。それは本人も承知していることです」

 霊媒師にはそれぞれの属性がある。
 それは、三種類に分けられ、一つは『太陽サンユエ』、次に『ユエ』、そして『サク』から成る。

 しかし、殆どの、九十九・九%の霊媒師は、サンユエかユエの属性だ。太極図が陰と陽に分かれ、二つで一つであるように、サンユエとユエも、真逆の属性ではありながら表裏一体のものである。

 故に霊媒師は、属性の違う二人組で行うことが通常だ。

 しかし、それとは全くの別物の、朔は、属性というよりも、属性を持たないということに近い。

 サンユエでもユエでもない、完全に独立している霊媒師。

 百年か二百年に一人の確率で生まれるという、最強の霊媒師だ。

 しかし。
『朔属性の霊媒師は、寿命が短い』

 確か玄天はそう言っていなかったか。神楽は血の気がすうっと引くのが分かった。まさか、上島が。信じたくない。

「――――神楽さん。上島さんが、あれだけの幽鬼に対峙して、霊媒を失敗しながらも、何で今無事か、分かりますか」
 神楽が黙っていると、玄天は続けた。

「幽鬼からかなり離れていた筈の貴方でさえ、爆風で飛ばされ、怪我をしている。けれど、その中心に居たはずの上島さんが、何故、軽度の火傷程度で済んだのか」

「何故……」
「上島さんが朔だからですよ。いや、朔に覚醒したから、と言うべきか」

 神楽は、何箇所か怪我をしていた。上島を華山家まで運ぶときに、上島に負わされた怪我もあったが、爆風で木に打ち付けられたときに、無数の打ち身も切り傷も出来ていた。

 足や腕は青あざになっているし、包帯で手当てしてあるものもある。傍目には結構な怪我だ。

 よくよく考えれば、遠くに居た神楽よりも、上島は何十倍もの怪我をしていてもおかしくはないのだ。

「上島さんは、本来朔だったはずなんです」
「まさか……。しかし、証拠は、あるんですか? 何故朔だと分かるんです?」
 神楽は玄天に詰め寄った。

「あれだけの幽鬼と戦いながらも、無事でいる点です。普通ならどうなるかご存知ですか? 四肢が引きちぎられるだけでは済みません」

 霊媒に失敗した霊媒師の末路は、語るも無惨だ。到底正視出来ない状態で死んでしまう上に、魂は成仏しない場合も多い。時空の狭間に投げ出され、永遠に彷徨い続けることもある。

 また、その魂が悪霊になることだってあるのだ。

「そして、今開帳しているびょうは、本来開かずの廟と呼ばれています。廟は、霊媒師が傷ついたときなどに、外界から護る役割を果たしています。それぞれの属性の廟がある。サンユエ、ユエ、そして今上島さんが居る廟は……朔です」

 神楽は、上島が華山家総本山に運ばれたときを思い出した。大慌てで廟に運ぶことになり、サンユエの廟に運んだのだが、酷く苦しみ、一向に良くならない。

 神楽から事情を聞いた玄天は、もしかすると、上島は朔なのではないかと鋭く推理したのだ。

 その後、朔の廟に運ぶと、上島は目に見えて落ち着いた。そのことで、華山家総本山の者たちはうろたえているに違いない。

 しかし、肝心の上島はどうなるのか。

 上島の寿命は。

「押し問答はこの辺でやめましょう。上島さんが目覚めたら、ちゃんと調べます。属性が分かる道具がありますから。けどその道具は、霊力を多少必要とするので、上島さんが衰弱している間は難しい」

「属性なんかどうでもいい!! 私が――私が知りたいのは、勇朔の寿命がどうなるか、それだけだっ……」

 神楽がこんなに大きな声を出すことなど、前代未聞だった。温和な神楽が、眉間に皺を寄せて怒っている。

「上島さんの寿命は――――」

 玄天の声音は、こんなことは言いたくなかったという思いに満ちていた。

「一年か二年か十年か……どれだけ保つかは分かりません。しかし、まず長生きは出来ないでしょう」

 玄天はそれだけ言うと、呆然としている神楽を置いて、家の方に戻って行った。

『朔属性の霊媒師が現れるのは、百年か二百年に一度』『パワーが強大過ぎて、人体が保たないんだろうな』

 上島が話した言葉が、神楽の頭の中に洪水のようにあふれ出す。

 ああ、勇朔。百年か二百年に一人しか現れない、最強の霊媒師。それが君だというのか。

 世界は何と皮肉なことだろう。一番、生きていて欲しいと思う人を――先にこの世から奪っていくのだから。
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