文跡鑑定士(不定期連載)

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File1: 死者からの手紙 Ⅰ

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「う~~~~ん、う~~~~~~~ん」
 一通の手紙を前にして、私、橘リノリは一時間近く唸っていた。

「どう? わかりそう? 誰が送って来たものかって」
 高校からの親友、ふじ美奈美みなみに頼まれて、正体不明の差出人を特定しようとしているのだ。

「いや~~、でもな~~~~~。う~~~ん」
 差出人の名前はある。
 だがそれは、彼女の祖母、ふじ久子ひさこの名前だった。
 というのも、彼女の祖母は半年ほどに亡くなっている。
 手紙が届いたのは、四ヵ月前だ。

 つまり、祖母が亡くなってから、孫の美奈美みなみに手紙が届いたのだ。
 本人には書きようのない、死者からの手紙だった。

 生前誰かに託したとか、生きているうちに書いておいたとか、そういう案は勿論検討された。

「本当にお祖母ちゃんなのかな?」
 実際、その線は薄い。

 その手紙は手書きの文字ではなく、何らかの機械で入力した活字の文字だったからだ。

「でもお祖母ちゃん、パソコンとか触ったこともないはずだし……」
 祖母である久子ひさこさんは、機械の類に酷く弱かったという。
 御年九十近かったのだから、それも仕方ない。

 とはいえ、親戚や弁護士に代筆を頼んだなどということもあり得ると考え、把握している限りの親類縁者には、既に連絡を取った。

 しかし、誰も、その手紙のことを「知らない」と言った。

「親戚が隠している可能性もあるから何とも言えないのだけれど……」
 美奈美は考え込む。

「う~~~~~~~~ん」
「ちょっとリノリ。聞いてる?」

 痺れを切らした美奈美に軽く肩を揺さぶられる。

 大学に常設された、見晴らしの良いカフェは女子学生の溜まり場だ。
 明日からゴールデンウィークが始まる。
 今年は四月末から最大十日間ほどの大型連休となる。

 既に遊びたい盛りの学生たちは、外出してしまっているのか休みを前借りしているのか、カフェには人もまばらだった。

「考えてるんだよ~~~。ていうか、美奈美、体調は大丈夫?」
「ありがと。何とか大丈夫。明日からは休みだから、ゆっくりするね」

 おばあちゃん子だった美奈美は祖母が亡くなって以来、体調を崩してしまった。
 大学にも三か月以上顔を見せていなかった。

「どこの誰が……こんなことを」
 手紙の主は、久子さんではない。
 そうすれば、誰かが何らかの目的を持って、美奈美に手紙を出したことになる。

 美奈美の大好きだった、祖母の名をかたって手紙を出した人物が居る。

 ふう、と溜息を吐いた。
「――警察、行く?」

 美奈美はかぶりを振る。
大事おおごとにはしたくないの。ただ、誰がこんなことしたのか、知りたいだけ。――それに、手紙が届いただけじゃ、警察も取り合ってくれないよ。脅迫でもないし……」
「そっか……」
 手紙の内容は、美奈美を気遣う祖母の文章だった。泣いていないか、元気に笑っていて欲しいという、他愛のない内容だ。

「ただ――知りたい。私に手紙を送ったのが、誰なのか」
 ぽつりと、真摯な瞳で告げる。

 カフェは大学の塔の一番上階にあり、見晴らしがよい。
 元々高台にある上、ほどよく田舎なお蔭で、周囲に高い建物もない。

 遠くの景色はもちろん、帰路に着く学生たちがよく見えた。
 明日からの休みで、その足取りも心なしか軽い。

 考えあぐねていたが、漸く決心がついた。

「わかった。行こう、美奈美」
「行くって――どこへ?」

「灰塚教授のところ!」
 青空に、山となった書類を放り出すような気持ちで、そう告げる。

「は、灰塚教授って、リノリのゼミの――」
「そう、あの鬼の灰塚!」
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