悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
2 / 143
異世界転生

キャラクターとの出会い

しおりを挟む
「レヴィアナ!!おぉ……レヴィアナ……大丈夫なのか……?」

部屋に入ってきたのは、私の父親でありこの家の主、アルドリック・ヴォルトハイムだった。本当に心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

私と同じ濡羽色の髪。顔立ちはとても整っており、瞳の色は青く澄んでいる。設定上年齢は48歳、身長は180cmを超える長身で体つきはほっそりとしているが、立ち姿から威厳を感じ、貴族という肩書が良く似合う男性だった。

なんと返したものかと少し困り、ただ、安心してほしいと思いを込めニコリとほほ笑んだ。

そんな私の顔を見てほっとした表情を浮かべるとそのまま抱きしめられた。突然の事と、こんなふうに人に優しく包み込まれたのは初めてで固まってしまう。

「本当に……本当に良かった……。本当に済まなかった……っ!レヴィアナがいなくなってしまったら私は……っ!」

アルドリックの胸に抱かれながら、少しずつ状況が飲み込めてきた。

(わぁ……。本当に、本当に……あのゲームのキャラクターが動いてる……)

戸惑いながらもついついうれしくなって観察してしまう。
目の前にいるアルドリックというキャラクターは、ヒロインや攻略対象の男性陣に常に嫌がらせをしていた悪役令嬢の父ということもあり、ゲームの中では好意的に描かれていなかったし、設定資料に描かれるイラストはどれも視線は鋭く、眉間にしわを寄せていた。
それが今は本当に娘の事を不安そうに気遣ってくれている。

少し私の中の印象とは違うけど、私の姿と言い、この父役のアルドリックと言い、今の私の姿と言い、予想通りここは「セレスティアル・ラブ・クロニクル」のゲームの世界で間違いないようだった。

であれば何も問題ない。このレヴィアナ役がどういった口調で振る舞っていたかはすべて把握している。

「もう大丈夫ですわ、お父様。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんわ」

私はそっと父の背中に手を伸ばし優しく包み返す。父は私の言葉を聞くと安心したのか、大きく息を吐き、少しだけ体を離し私の体を上から下まで見渡す。

「……本当に大丈夫かい……?痛いところはないんだね?」
「はい、大丈夫ですわ」
「……なら良かった。……本当に……無事、だったんだな」

(ん?)

何故かそこで父の表情が変わった。先ほどまでの心配と安堵の入り混じった表情に、どこか哀感が混じったような雰囲気を纏っている。

「お父様?」
「……いや、何でもない。それよりも……レヴィ。どこか体がおかしい所はないか?痛むところや動かしにくいところなどはないか?」
「えぇ、大丈夫ですわ!少し右手が痛みますが、これくらいなんでもありませんわ」
「そうか、それなら良かった。ふー……」

そう言うと父はもう一度私を抱きしめ、深く息を吐き、「すまない」と呟いた。

「こほん……」

アルドリックの背中越しに、先程私の無事を知らせに行ってくれた女性の咳払いが聞こえた。

「旦那様?抱き着きすぎですよ?」
「ぷっ……っははは。たまにはいいじゃないか。こうしてレヴィが無事に目を覚したんだ。少しくらい大目に見てくれたまえよ」
「ダメです。いくらご無事でもお嬢様は目覚めたばかりなんですよ?まだ右手には大きな傷が残っていますし、まだ目を覚ましたばかりです。安静にさせてください」
「相変わらずフローラは手厳しいなぁ……」

そう言うとアルドリックは私を放しベッドサイドの椅子に腰かけ、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。
先ほどこの部屋に入ってきたときの様な緊張感や威厳と言ったものはすっかりなくなり、ゲームのイラストでは見たことが無いほどに人間味のある姿だった。

「突然すまなかったね。大丈夫かい?」
「えぇ、大丈夫ですわ。ご心配をおかけしました」

私の返事に満足げに頷くと、部屋の入口に立ったままこちらを微笑ましく見つめているフローラと呼ばれた女性に声をかける。

「それじゃあ、せっかくレヴィも目を覚ましたみたいだし、少しお茶でも楽しもうじゃないか。それに2日も寝込んでいたんだ。おなかも空いているだろう?」

言われて意識すると急におなかの虫が騒ぎ出した。
寝込んでいたというだけあり気怠さも残ってはいたけど、この世界の食事にも興味があったし、ゲームでは見たことが無いこのフローラと言う女性や、ゲーム内で殆ど語られなかったアルドリック・ヴォルトハイムというキャラクターへの好奇心が勝った。

「はい。いただきますわ!」

私の返事にアルドリックはニコリとほほ笑むと、フローラに目配せをする。

「レヴィは起きたばかりだしフローラが支えてやってくれ。お茶の準備は私がやっておくから」
「もう、やめてください。旦那様はすぐに配置を無茶苦茶にするんですから。セレナにやってもらってください」
「はは。まぁ、メイド長のフローラにそう言われたら仕方ないな。レヴィのことはお願いするよ」

アルドリックは軽く肩をすくめるとそのまま部屋から出て行こうとし、そこでふと思いついたかのように私の名前を呼んだ。

「あぁ、レヴィ。ずっと研究していたあの魔法、あれはしばらく研究するのはやめなさい。そうだな、魔法学校でもう少し研鑽を積んでからのほうがいいかな」

そう背中越しに言うと私の返事を待たずにそのまま部屋を出て行った。

「全く、急に元気になってしまって。ま、旦那様らしいと言えば旦那様らしいですけど」

ため息交じりにフローラと言う名のメイドはそうこぼすと、私に優しくほほ笑んでくれた。
薄紫色の髪を後ろでまとめ、透き通るその薄紫色の瞳はとても優しそうな色をしている。私よりも高い身長の彼女はすらりとした体型でとてもきれいだ。年齢は20代中ばといったところだろうか。

「はい、お嬢様。こちらへ。立てますか?」

フローラは私の身体を優しく支えて鏡の前まで連れて行ってくれ、流れるような手つきで私が着ている服を緩めてくれた。

(ふーむ……。なんというか……、ふーむ)

鏡に映る私をまじまじと見つめていると、今は自分の体とは言え見てはいけないものを見ているような気がしてくる。

鏡に映るレヴィアナはゲームで見るより数段美人だった。濡れ羽色のストレートなロングヘアーは透明感を持ち、窓から差し込む光を反射して微妙に虹色に色を変えているようにも見える。長いまつげに覆われたその目は透き通る碧眼で、シミ一つない白磁のような真っ白な肌がより瞳の美しさを際立たせている。

ちょっと照れくさくなってそんな自分の姿に思わず笑みがこぼれると、鏡の向こうにいる私も同じ様にほほ笑んだ。先程のアルドリック同様、こちらもゲームの立ち絵で描かれていたのとは同一人物とは思えない程、実に魅力的な笑顔だった。

「少し、お体の様子を見させていただいてもいいですか?」
「へ!?えぇ、もちろんですわ!!」

鏡の前で抑えきれずへらへらと表情を崩しているとフローラにそう声をかけられた。
とは言ったものの……何をされるのだろう?
そんな私の不安をよそにフローラは私を椅子に座らせ、そのまま私の身体をやさしく撫でまわすように触っていく。くすぐったいようなむず痒いような不思議な感覚に思わず身をよじるが、フローラはそんな私をなだめながら触診を続けていった。

「……はい、問題なさそうですね」

一通り確認が終わったようで、部屋着と言うには幾分豪勢な服を丁寧に着せてくれ、フローラは私の正面に回り改めて胸をなでおろしたようだった。

「ありがとうございますわ。……フローラ」

私がそう言うとフローラはびっくりしたように目を丸くしていた。

(……あれ?あ!?失敗した!?)

何か変なことを言っただろうか?そう言えばゲームの中のレヴィアナもろくにお礼を言ってなかったような気がする……。悪役令嬢だからお礼なんかしない?いやでも、面倒を見てもらったらお礼くらい……。それとも呼び方を間違えた!?

「ふふ。申し訳ございません。先生じゃなくてフローラなんて呼ばれるのがなんだか懐かしくって」

頭の中でそんなことを考えていると、フローラは優しく私の頭に手を伸ばし、そのまま胸に抱きかかえるように包み込んだ。

「ふごっ……」
(く……苦しい……)

フローラにアルドリックよりも強く抱きしめられ、呼吸が出来ずに手足をバタつかせる。もがもがしているとようやく息が出来るようになり、フローラの腰に手を回しぎゅっと抱き着いた。

「本当に……心配しましたよ?私が教えた魔法のせいでこんなふうになってしまい、本当に気が気ではありませんでした」

私の頭を撫でながらそう言うフローラの声はどこか震えてるようだった。

「わたくし……どうなってしまっていたんですの?」
「んー……そうですね。それはお茶を飲みながらゆっくり説明しましょう。さぁ、こちらです」

フローラに手を引かれ、今度はしっかりと地面を踏みしめながら部屋を後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!

桜咲ちはる
ファンタジー
「セイヴァン様!私のどこが劣ってると言うのです!セイヴァン様にふさわしいのは私しかいないわ!」  涙を堪えて訴えかける。「黙れ」と低く冷たい声がする。私は言葉を失い、彼女が床に座り込むのをじっと見つめる。そんな行動を取るなんて、プライドが高い彼女からは到底考えられない。本当に、彼女はセイヴァンを愛していた。 「レイン・アルバドール。貴様との婚約は、この場をもって破棄とする!」  拍手喝采が起こる。レイン・アルバドールは誰からも嫌われる悪女だった。だが、この数ヶ月彼女を誰よりも見てきた私は、レインの気持ちもわかるような気がした。 「カット」  声がかかり、息を吐く。周りにいる共演者の顔を見てホッとした。 「レイン・アルバドール役、茅野麻衣さん。クランクアップです!」  拍手と共に花束を渡される。レインのイメージカラーである赤色の花束を、そっと抱きしめる。次のシーズンがあったとしても、悪女レインはもう呼ばれないだろう。私は深々とお辞儀をした。 「レインに出会えて幸せでした」 【氷の公爵のお姫様】100万部を突破し、アニメ化された大人気の異世界転生ファンタジー。悪役令嬢レイン・アルバドール役の声優が家に帰ると異世界転生してしまった。処刑を回避したい、けどヒロインと公爵をくっつけなければ世界は滅んでしまう。 そんな世界で茅野麻衣はどう生きるのか? 小説家になろう様にも同じ作品を投稿しています。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

【第一部完結】転生99回目のエルフと転生1回目の少女は、のんびり暮らしたい!

DAI
ファンタジー
【第一部完結!】 99回のさよならを越えた、究極の『ただいま』 99回転生した最強エルフは、のんびり暮らしたいだけなのに――なぜか家族が増えていく。 99回も転生したエルフの魔法使いフィーネは、 もう世界を救うことにも、英雄になることにも飽きていた。 今世の望みはただひとつ。 ――森の奥の丸太小屋で、静かにのんびり暮らすこと。 しかしその願いは、 **前世が日本人の少女・リリィ(12歳)**を拾ったことで、あっさり崩れ去る。 女神の力を秘めた転生少女、 水竜の神・ハク、 精霊神アイリス、 訳ありの戦士たち、 さらには―― 猫だと思って連れ帰ったら王女だった少女まで加わり、 丸太小屋はいつの間にか“大所帯”に!? 一方その裏で、 魔神教は「女神の魂」と「特別な血」を狙い、 世界を揺るがす陰謀を進めていた。 のんびり暮らしたいだけなのに、 なぜか神々と魔王と魔神教に囲まれていくエルフ。 「……面倒くさい」 そう呟きながらも、 大切な家族を守るためなら―― 99回分の経験と最強の魔法で、容赦はしない。 これは、 最強だけど戦いたくないエルフと、 転生1回目の少女、 そして増え続ける“家族”が紡ぐ、 癒しと激闘の異世界スローライフファンタジー。 ◽️第二部はこちらから https://www.alphapolis.co.jp/novel/664600893/865028992

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

処理中です...