悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

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対人模擬戦闘

3対3の集団戦闘2

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カムランは戦場をシルフィードダンスで強化した機動力で駆け回っていた。

(どこだ……どこにいる……?)

それでも自由自在とまではいかない。もし万が一レヴィアナに見つかってしまったらその場で撃墜されてしまうかもしれない。
機動力は俺のほうが上ではあるはずだが、あの反則級の魔法使いから間違いなく逃げ切れる自信はなかった。

「みつ……けたっ!!」

目標にしていた緑髪が見えた。辺りにほかのチームメイトの気配がない事を確認してから即座に魔法の詠唱を始める。

「激しい風の盾よ、我らを護る壁となれ!絶対の防壁、ウィンドウォール!」

攻撃のための詠唱ではなく、あくまで足止めのための魔法。
突然進行方向に現れた風の防壁を避けるため空中にシルフィードダンスを使ってミーナは逃げる。当然そこしか逃げ道はないようにウィンドウォールを展開した。予定通りだ。

「でかした!ヒートスパイク!!!」

即座に大気中に無数の炎の槍が浮き出し、俺の右後方から放たれる。
ミーナは空中で身を捩り、迫りくる攻撃を実に見事に回避した。俺も同じ風魔法使いだが、あんな空中での身体制御はできない。

「激しい風の盾よ、我らを護る壁となれ!絶対の防壁、ウィンドウォール!」

さらに小さな防御魔法を展開することでヒートスパイクと見事に相殺していく。先日セオドア先生が教えてくれたように許容量をオーバーした防御魔法は爆発していくが、それも見事な目くらましになっている。

「さっすが、なかなかやるな!」
「簡単にはやられないですよー!」

イグニスもミーナを追って間合いを詰めていく。単純な機動力ならミーナの方が上だ。しかし、それをイグニスは持ち前の戦闘センスと圧倒的な無詠唱ヒートスパイクの物量で補い、少しずつ間合いを詰めることに成功していた。

(すげぇ……)

俺は完全に傍観者だ。イグニスの手助けにエアースラッシュを放とうとしても、俺が狙いをつける前に、ミーナは俺の射程外に逃げ出してしまい、はじめの障壁魔法以降何もできていない。

「さぁて……そろそろ決めさせてもらうぜ?」

イグニスはそう言うとヒートスパイクの乱射を止め、一気にミーナとの間合いを詰める。

「かかったですね!」
「あぁ!?」

ミーナが突然振り向きイグニスに対して両手を突き出し叫ぶ。

「猛威を振るう風の暴力、破壊の渦を巻き起こせ!無慈悲なる暴風、ガストストーム!」

ミーナの両手から生み出された風の暴力がイグニスに向かって吹き荒れる。

「くっそ!!」

突然の反撃にイグニスも反応が遅れたようだ。風は激しく地面を抉りながら、風の暴力は容赦なくイグニスを吹き飛ばすはずだった。

「―――――バリアシフト!!!」

もう少しでイグニスに直撃するというところで、マリウスの声が戦場に響き渡り、現れた強靭な防御魔法にミーナが放った魔法がかき消される。

「っ!ナイス!マリウス!!それにさすがミーナ!俺様も一瞬ビビったぜ!!!」

そう言いながらイグニスは体の周りに無数のヒートスパイクを展開させていく。

「もう不用意に近づいたりしねぇ!このまま押し切らせてもらう!!!」

四方から一気にイグニスのヒートスパイクが襲いかかる。

「やっばいですね……!!」

今度は攻撃に転じて足を止めてしまったミーナの反応が一瞬遅れた。シルフィードダンスをかけなおし逃げようとしたが、それでもヒートスパイクの包囲網から抜け出すことはできなかった。

「きゃぁああぁあぁっ―――!!!!!」

炎の暴力がミーナを直撃する。激しい爆発音が響き、土煙があがる。炸裂した勢いでミーナは吹き飛ばされて行った。

「まだまだぁ!!!」

イグニスはヒートスパイクの追撃をやめない。爆発、爆発、爆発……、縦横無尽に駆け巡る無数の炎の槍がミーナを襲い、炎の渦に飲み込まれていった。もう戦闘ともいえない、あまりに一方的な蹂躙だった。
……まるで、貴族が、平民を虐げていた俺の田舎町みたいな……。

「――――おい!やりすぎだろ!!!」

思わず俺は目の前の惨劇に耐え切れずイグニスの胸倉をつかみ怒鳴りつけてしまう。

「はぁ!?邪魔すんな!!」
「もう十分だろ!!なんだ!?貴族の魔力自慢か!?」

胸倉をつかんだ手に力を込めながら俺は叫んだ。

「あぁ……?」

俺の言っていることが理解できないような、そんな表情でイグニスが睨みつけてくる。

「あそこまでやる必要があったのかよ!!!!魔法の授業だぞ!?!?」
「あそこまで……?ミーナはそんな弱くねーぞ?あの程度の攻撃受け流しているかもしれねーしな」
「お前こそ何言ってんだ!?受け流せてるわけねーだろ!?」

ヒートスパイクはただでさえ発動が早いのに、ましてやこいつのあの量の無詠唱魔法をあれだけ乱射されて直撃しなかったはずがない。

「わかんねーだろ。それによ、授業でって言ったけどよ、授業で手加減してどーすんだよ。授業で、訓練だから本気でやんだろ?」

イグニスは面倒臭そうに俺の手を振りほどいた。

「お前は手加減された相手に勝って嬉しいのか?」
「話逸らすなよ。やりすぎだって言ってるんだ!」
「別に逸らしてねーよ。ミーナは本気だった。俺様の本気のヒートスパイクを回避しながら反撃までしてきた。マリウスのサポートが無かったらやられてたかもしれねぇ」

真面目な表情で語るイグニスを見て、思わず言葉が出てこなくなる。

「おい、お前ら何してるんだ?」

駆け寄ってきたマリウスが俺たちの間に割って入ってくる。

「いや、なんでもねーよ。あ、さっきの防御魔法助かったぜ。ま、俺様ならあれくらい防げたけどな!」
「さすがにそれは嘘だろ。次はレヴィアナとナタリーどっちを狙う?」
「どっちにすっかなぁ……。まぁ俺様はどっちからでも―――――っ!バリアシフト!」

会話の途中にいきなりイグニスが防御魔法を展開した。何事かと思ったら展開した防御魔法に雷魔法が直撃する。

「次のターゲットが決まったな」

にやりとイグニスが笑う。

「油断するなって。さっきもそれでやられたろう?もしかしたらナタリーがその辺に潜んでいるかも」

何事も無かったかのようにマリウスも会話を続ける。
俺にはなぜイグニスが攻撃魔法が飛んでくることを察知できたのかも分からなかった。

「じゃ、行こうぜ!……あ、そうだ」

イグニスがこちらを振り返って真剣な眼差しでこちらを見据える。

「思い出したわ。お前初日のアーク・スナイパーの時に平民だ、貴族だって食って掛かってきたヤツだよな。変に勘違いされてもめんどくせぇから言っとくわ」

その視線にドキッする。

「貴族も平民も関係ねぇ。俺様は本気で向かってくるやつには誰だろうと手加減はしねぇ」

俺が合っているはずだ。授業であれほどの攻撃を直撃させる必要はどこにもない。あれほどの爆発だ、今頃大ケガをしてしまっているかもしれない。

それでもマリウスもミーナの心配はしていない。

合っているのは俺のはず。

……でも俺はそれ以上イグニスに何も言い返すことができなかった。

***

レヴィアナは再度襲い掛かってくる3人から距離を置き苦笑する。

(ナタリーもなかなかしんどい作戦を思いつくわね―――っ)

ナタリーが私に課した役割は「時間稼ぎの囮」だった。
ナタリー自身は今必死に魔力を込めて決めの一撃を作り込んでいる。それが完成するまでの囮。

(でも……ただ防戦一方っていうのもつまらないから……!)

「ヒートスパイク!!」

後方から無数の炎の槍が私に向かって飛んでくる向かって放たれる。

「プラズマウェーブ!!!」

こちらも併せて無詠唱の広範囲魔法で迎撃する。イグニスの魔法が誘爆し周囲に激しい爆発を起こす。

少しずつコツみたいなものがつかめてきた。こういった攻撃に対しては防御魔法よりも、こちらの魔法で相手の魔法を乱して相殺したほうが次のアクションにつなげやすい。

こうして魔法で戦っていると私の感覚と『レヴィアナ』の感覚が少しずつ合致して、より強大な力を引き出せるようになっていく気がする。

「サンダーボルトっ!!」

左手に見えたカムランに対して牽制のための魔法を放つ。さっきまでは完全に防戦一方だったが、こうして少しずつ攻撃に手を回すこともでき始めてきた。

(でも……やっぱりきついわよね……)

「さぁて……そろそろ決めさせてもらうぜ?」
「ふふん!やれるものならやってみなさい!……ですわ!」

実際に確実に追い詰められている。でも精いっぱい虚勢を張る。
無詠唱魔法だけだと威力が思ったより出ない。
詠唱すると広範囲のイグニスの魔法を一斉に相殺できるだろうけどそんな時間を与えてくれない。

これにイグニスだけでなく四方から襲い掛かってくる2人の魔法もケアしないといけない。
あまり深入りし過ぎるのも危険だ。もう一つの役割も果たさないといけない。
向こうにはマリウスもいる。気づかれないように少しずつ、少しずつ。

――――でももし、低威力の無詠唱魔法と高威力の詠唱魔法を組み合わせることができたら?

「ふふっ」

今度は虚勢ではない笑いが思わずこぼれた。

***

カムランは驚愕していた。

(あの女…マジで化け物かよ…!!!)

俺はがむしゃらに自分の風魔法を放ち続ける。

「空を切り裂く鋭利な刃、我が手中に集結せよ!疾風の剣、エアースラッシュ!」

しかしレヴィアナは俺の魔法を一瞥すると無詠唱魔法であっさりと相殺してくる。それどころか一所にとどまっていると攻撃まで飛んでくるのですぐに離れないといけない。

「華麗なる風の舞踏、我らを包み込み、奏でよう!優雅なる旋律、シルフィードダンス!」

速度強化の魔法を使って距離をとると、先ほどまで俺がいた場所に落雷が落ちてくる。

(なんなんだよ…!なんなんだよ一体!!!そんなのってありかよ!!!)

俺が必死に魔力を込めた魔法なのに、レヴィアナはあっさりと無詠唱魔法でかき消してくる。

そして驚愕の対象は敵だけではない。

チームメイトのイグニスが放つ無詠唱魔法も、俺の詠唱済みのエアースラッシュなんかよりも数も威力も速度もすべて高い。

「潮騒をまといし流れる矢、撃ち貫き、灼熱の刻印を刻め!激流の射撃、アクアショット!」

マリウスもそうだ。水の初級魔法に位置付けられている魔法のはずなのに、俺の何倍もの威力で地面を抉り、風を切り裂きレヴィアナに向かっていく。

「―――――っ!!!」

突然巻き起こった右足の痛みに思考が持っていかれる。視線を挙げた瞬間、3-4つほどの雷の弾が眼前に迫っている。

「無数の炎が舞い踊る戦場、灼き尽くせ!炎の結界、イグニッションフィールド!」

目の前に炎の防壁が巻き上がり雷の弾から俺を守ってくれた。

「おいおい、大丈夫か?ぼーっとすんなよ?」

イグニスに声をかけられる。
そうだ、今は戦闘中だ。対戦相手に、チームメイトに感心している場合ではない。俺もこのチームで勝つために動かないと。

「まじか……?レヴィアナ……やっぱ半端ねーなっ……!!!」

イグニスが本当に楽しそうに笑う。
視線の先には絶えず無詠唱魔法を放ち続けているのに、魔法の詠唱を始ているレヴィアナがいた。

「天空の雷光よ、我が意志に従え!煌めく一撃、サンダーボルト!」

(おいおい、冗談じゃねぇぞ――――!!!)

これまでの無詠唱魔法がおままごとに感じられるような冗談じみた威力の魔力が一斉に襲い掛かってくる。必死にシルフィードダンスの効果を生かしてその場から離れるが、慌てて飛び出したためうまく着地できずそのまま地面に転がってしまう。

直撃はしなかった。それでも空気中を伝わってくるサンダーボルトの余波だけで体がピリピリと痛い。

(俺は……俺はこの模擬戦で何かできるのか……?)

こんなものかすっただけで意識を持っていかれてしまう。俺は必死に逃げるため、再度シルフィードダンスをかけなおした。


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