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反乱
予兆
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「んぁ……もう朝……なのね。……っつぅー……」
昨日の模擬戦闘でイグニスから受けた背中がまだ痛む。開けた場所で、カムランに気を配りつつ、ノーランとイグニスと対峙するのはなかなかに骨が折れた。
それに先日あんなことがあってからノーランの事を意識してしまって、なんとなく気恥ずかしさが勝ってつい模擬戦闘では雑に魔法を放ってしまった……気もする。気のせいだと思うけど。
「――――ん?なんだろう……これ……?」
ベッドの上で心地いい気怠さに身を任せてゴロゴロしていると、頭がピリッとするような変な感覚に襲われる。
何か大事なことを忘れてしまっているような、そんな感覚だった。
昨日の模擬戦闘でマナを使いすぎたからだろうか?でも、モンスターシーズンでマナを使い果たしたときもこんな風にならなかった。
「……って、早く着替えないと!」
あまりぼーっとしていると遅刻してしまうかもしれない。
いつものように父、アルドリックからもらったペンダントを胸に着け、新しく装飾品の仲間入りをした「天使の音符」を見につけ気分を切り替える。
両耳に揃ったイヤリング、右腕に着けたブレスレットと、はじめはつけるのに苦労していたけど、最近では慣れてきてスムーズに身に着けられるようになった。
「うん!今日も可愛い!」
鏡の前でくるっと一回転して見てそう呟いてテンションを上げ、教室に向かった。
「おはようございますわ」
「おう。レヴィアナもちゃんと来たんだな」
先に教室に来ていたイグニスに声をかけ、自然とあいさつをする。
この世界で出会った頃はイグニスとこうしてクラスメイトになることができているという事実だけであれだけときめいていたのに、慣れって怖い。
その横ではアリシアがいつものようにかわいく笑っている。
「アリシアもおはようございます。それでレヴィアナもってどういうことですの?」
「いや、ノーランのやつ、なんか熱が出たとかで今日休むって言うからよ。どーせ訓練でダルいみたいな理由だろうぜ。こうしてアリシアもちゃんと来てるって言うのによ」
「昨日あなたがいじめすぎたから嫌気がさしてしまったんではないですの?」
「あいつはそんな弱くねぇよ」
そんな風にイグニスは鼻で笑い、その雑な関係性から、何だかんだ言いながらも信頼していることが見て取れて私も少し笑ってしまう。
「でも、心配ですよね。ほかの方も今日一日いらっしゃらなかったらみんなでお見舞い行きましょうよ」
「あら?ノーランだけじゃないんですの?」
「そうなんですよ。セシルさんも、それに今まで欠席したことがないマリウスさんも今日は欠席なんです……」
少し寂しそうにマリウスの席を見つめるアリシア。
(あらあら、そんな顔しちゃって。頑張らないと本格的にマリウスルートに入っちゃうわよ?ノーラン)
そんな余計なおせっかいを心の中でつぶやきながら、この世界のヒロインに目を向ける。
「……?あら?アリシア、スカートのポケットの所何かついていますわよ?これはバラの花びら…かしら?」
「へっ?あっ!ほんとだ!あー……バラのジャムを作ろうとしてらからかな?」
バラのジャムなんて聞いた事が無かったけど、アリシアが作るものでおいしくないものなんてあるはずがない。
「そんなジャム出来るんですのね!今度食べさせてくださいまし!」
「もちろん。今度みんなが回復したらアフタヌーンティをしましょう!」
2人で顔を見合わせてフフッと笑う。ミーナがいなくなってから言い出せていなかったけど、前に計画していた生徒会主催のティーパーティを改めて企画してもいいのかもしれない、と思った。
***
「……っ!」
イグニスとアリシアと昼食を取り、そのままベンチで歓談をしていた時だった。
「ん?どうした?」
「いえ、ちょっと……」
今朝から感じていた違和感が頭痛となって
(――――何……?これ……)
朝感じた違和感が大きくなり、耳鳴りとなって現れた。
「……おい、大丈夫か?」
「何か……頭が……」
キーンと響くような痛みに思わず頭を押さえ、目を固く閉じてその痛みに耐える。
頭痛が酷くなっただけではなく、うっすらと何か見える……。
(これは……私の家……?)
そうだ、間違いない。そして私の家がたくさんの人に取り囲まれている。
「なんだよお前も体調悪いのか。今日の午後は寮で休んでたほうがいいんじゃねーか?」
「いえ、治まってきたので大丈夫……ですわ。でも……これは……?」
「なんでもいいから言ってみろよ。気になるじゃねーか」
「いえ、突拍子もないことなんですが、わたくしの家が誰かに襲われているような、何かそんな気がして……」
正直言って自分でも何を言っているか理解できない。頭が痛いからそんなことを感じているのか、それとも本当に自分の家が見えているのか……。
ただ、イグニスはそんな私の言葉を鼻で笑うことなく、心配そうなまなざしで私の事を見つめていた。
「レヴィアナの家が誰かに……って反乱ってことか?アルドリックさんがそんな誰かに恨みを買うわけないじゃねーだろ」
「そう……ですわよね。突然どうしたのかしら…?」
「モンスターシーズンを切り抜けてから気が抜けてるんじゃねーか?あの後からお前なんだか少し変だしよ。もしかしてホームシックとか?」
少し茶化すように、そしていつものようにイグニスが笑う。ただ視線から真剣に心配してくれていることはわかる。
「違いますわよ!あんまりからかいが過ぎるとイグニスが「おじさん」じゃなくて「さん」付けで呼んでいたこと言いつけますわよ?」
「それは勘弁してくれ」
ふっと笑いが漏れる。気にしすぎなんだろうか。
でも突然こんなことが見えるのはこの世界に来てからも初めてだった。
全身が不思議な感覚に包まれる。嫌な予感がする。もしミーナの時みたいに何かが手遅れになってしまったらと思い、もう少しだけ集中して確認しようと目を閉じた時だった。
「レヴィアナさん!大変です!!」
トイレに行くと言っていたアリシアが血相を変えて走って戻ってきた。
「今すぐ、今すぐ家に帰ってください!」
「ど、どうしたんですの?アリシア」
「レヴィアナさんの家が、平民に襲われているとのことです」
イグニスと顔を見合わせる。
「それ……それどういうことですの?」
「私も今ちょうどセオドア先生に会って、先生もレヴィアナさんの事探しているみたいで、レヴィアナさんの家が襲われてるって……!」
アリシアも混乱しているようだった。それでも私のこの予感と、アリシアの知らせが一致していることに背筋がゾワリとする。
アリシアが息を切らして伝えてくれたことはにわかには信じられない事だったけど、今アリシアがこんな冗談を言うわけがなかった。
また頭の奥の方で私の家の前でたくさんの人が暴れているのが見えた。
「で、でも……?」
「良いじゃねーか。とりあえず行ってみようぜ!」
イグニスが私の肩に手を乗せる。その手が温かくて、混乱していた思考が少しずつ落ち着いていく。
そうだ、ここで私が取り乱しても何も始まらない。
「イグニス?あなたも来てくれますの?」
「おう、レヴィアナがさっき言ってて、今これだろ?気になるじゃねーか。とりあえず行って、何も無かったら帰ってくりゃあいい。それに……」
「それに?」
レヴィアナのホームシックもなおるかもしれないしな!」
そう言ってイグニスはニカっと笑った。私もつられて笑い返す。
「高速馬車に乗ってけばそんなに時間もかかんねーで着くだろ。レヴィアナは先に広場に行って馬を確保していてくれ。俺様は後1人くらい旅の仲間を探してくるわ」
「私は?私はいかなくて平気ですか?」
「おう、もし本当に平民の反乱だったらアリシアは危ないし、平民のアリシアはいないほうがいいだろ。アリシアは先生たちにレヴィアナと今日の午後から休むってことを伝えてくれ」
はじかれたように3人は別々の方向へ向かって走り出す。
広場に行く途中もどんどんと映像が鮮明になっていく。気のせいだと頭を必死に振っても私の花壇が踏み荒らされていくのが分かる。
(誰……?私……知ってる……?)
先陣を切って進む人に見覚えがあるように思う。でもローブに囲まれた顔は見えず特定することは難しい。やがてあたりは煙幕に包まれ、私の頭の中から湧き出る視界も見えなくなった。
幸い高速馬車は空きがあり移動手段は確保することができた。
イグニスを待っている時間が少しやきもきする。私一人で行ってしまおうかとも思ったけど、今見た映像が本当に現実に起きている事だったら私一人よりも絶対にイグニスが居たほうが心強い。
「おーい、待たせたな!本当に反乱なら防衛戦だろ?」
そう言ってイグニスが連れてきたのはガレンだった。
「レヴィアナの家が襲われてるんだって?本当かよ」
「アリシアに教えてもらったんですわ。わたくしも本当かどうかわからないんですが……」
「ふぅん……?アリシアがねぇ……?」
少しの間顎に手をあてて考え込む。
「多分……本当だと思うわ、それ」
「ガレン?お前何か知ってるのかよ」
「いいから、まずは急ごう。話は馬車の中で」
そうして私たち3人は急いで馬車に乗り込み、戦場へと向かっていった。
昨日の模擬戦闘でイグニスから受けた背中がまだ痛む。開けた場所で、カムランに気を配りつつ、ノーランとイグニスと対峙するのはなかなかに骨が折れた。
それに先日あんなことがあってからノーランの事を意識してしまって、なんとなく気恥ずかしさが勝ってつい模擬戦闘では雑に魔法を放ってしまった……気もする。気のせいだと思うけど。
「――――ん?なんだろう……これ……?」
ベッドの上で心地いい気怠さに身を任せてゴロゴロしていると、頭がピリッとするような変な感覚に襲われる。
何か大事なことを忘れてしまっているような、そんな感覚だった。
昨日の模擬戦闘でマナを使いすぎたからだろうか?でも、モンスターシーズンでマナを使い果たしたときもこんな風にならなかった。
「……って、早く着替えないと!」
あまりぼーっとしていると遅刻してしまうかもしれない。
いつものように父、アルドリックからもらったペンダントを胸に着け、新しく装飾品の仲間入りをした「天使の音符」を見につけ気分を切り替える。
両耳に揃ったイヤリング、右腕に着けたブレスレットと、はじめはつけるのに苦労していたけど、最近では慣れてきてスムーズに身に着けられるようになった。
「うん!今日も可愛い!」
鏡の前でくるっと一回転して見てそう呟いてテンションを上げ、教室に向かった。
「おはようございますわ」
「おう。レヴィアナもちゃんと来たんだな」
先に教室に来ていたイグニスに声をかけ、自然とあいさつをする。
この世界で出会った頃はイグニスとこうしてクラスメイトになることができているという事実だけであれだけときめいていたのに、慣れって怖い。
その横ではアリシアがいつものようにかわいく笑っている。
「アリシアもおはようございます。それでレヴィアナもってどういうことですの?」
「いや、ノーランのやつ、なんか熱が出たとかで今日休むって言うからよ。どーせ訓練でダルいみたいな理由だろうぜ。こうしてアリシアもちゃんと来てるって言うのによ」
「昨日あなたがいじめすぎたから嫌気がさしてしまったんではないですの?」
「あいつはそんな弱くねぇよ」
そんな風にイグニスは鼻で笑い、その雑な関係性から、何だかんだ言いながらも信頼していることが見て取れて私も少し笑ってしまう。
「でも、心配ですよね。ほかの方も今日一日いらっしゃらなかったらみんなでお見舞い行きましょうよ」
「あら?ノーランだけじゃないんですの?」
「そうなんですよ。セシルさんも、それに今まで欠席したことがないマリウスさんも今日は欠席なんです……」
少し寂しそうにマリウスの席を見つめるアリシア。
(あらあら、そんな顔しちゃって。頑張らないと本格的にマリウスルートに入っちゃうわよ?ノーラン)
そんな余計なおせっかいを心の中でつぶやきながら、この世界のヒロインに目を向ける。
「……?あら?アリシア、スカートのポケットの所何かついていますわよ?これはバラの花びら…かしら?」
「へっ?あっ!ほんとだ!あー……バラのジャムを作ろうとしてらからかな?」
バラのジャムなんて聞いた事が無かったけど、アリシアが作るものでおいしくないものなんてあるはずがない。
「そんなジャム出来るんですのね!今度食べさせてくださいまし!」
「もちろん。今度みんなが回復したらアフタヌーンティをしましょう!」
2人で顔を見合わせてフフッと笑う。ミーナがいなくなってから言い出せていなかったけど、前に計画していた生徒会主催のティーパーティを改めて企画してもいいのかもしれない、と思った。
***
「……っ!」
イグニスとアリシアと昼食を取り、そのままベンチで歓談をしていた時だった。
「ん?どうした?」
「いえ、ちょっと……」
今朝から感じていた違和感が頭痛となって
(――――何……?これ……)
朝感じた違和感が大きくなり、耳鳴りとなって現れた。
「……おい、大丈夫か?」
「何か……頭が……」
キーンと響くような痛みに思わず頭を押さえ、目を固く閉じてその痛みに耐える。
頭痛が酷くなっただけではなく、うっすらと何か見える……。
(これは……私の家……?)
そうだ、間違いない。そして私の家がたくさんの人に取り囲まれている。
「なんだよお前も体調悪いのか。今日の午後は寮で休んでたほうがいいんじゃねーか?」
「いえ、治まってきたので大丈夫……ですわ。でも……これは……?」
「なんでもいいから言ってみろよ。気になるじゃねーか」
「いえ、突拍子もないことなんですが、わたくしの家が誰かに襲われているような、何かそんな気がして……」
正直言って自分でも何を言っているか理解できない。頭が痛いからそんなことを感じているのか、それとも本当に自分の家が見えているのか……。
ただ、イグニスはそんな私の言葉を鼻で笑うことなく、心配そうなまなざしで私の事を見つめていた。
「レヴィアナの家が誰かに……って反乱ってことか?アルドリックさんがそんな誰かに恨みを買うわけないじゃねーだろ」
「そう……ですわよね。突然どうしたのかしら…?」
「モンスターシーズンを切り抜けてから気が抜けてるんじゃねーか?あの後からお前なんだか少し変だしよ。もしかしてホームシックとか?」
少し茶化すように、そしていつものようにイグニスが笑う。ただ視線から真剣に心配してくれていることはわかる。
「違いますわよ!あんまりからかいが過ぎるとイグニスが「おじさん」じゃなくて「さん」付けで呼んでいたこと言いつけますわよ?」
「それは勘弁してくれ」
ふっと笑いが漏れる。気にしすぎなんだろうか。
でも突然こんなことが見えるのはこの世界に来てからも初めてだった。
全身が不思議な感覚に包まれる。嫌な予感がする。もしミーナの時みたいに何かが手遅れになってしまったらと思い、もう少しだけ集中して確認しようと目を閉じた時だった。
「レヴィアナさん!大変です!!」
トイレに行くと言っていたアリシアが血相を変えて走って戻ってきた。
「今すぐ、今すぐ家に帰ってください!」
「ど、どうしたんですの?アリシア」
「レヴィアナさんの家が、平民に襲われているとのことです」
イグニスと顔を見合わせる。
「それ……それどういうことですの?」
「私も今ちょうどセオドア先生に会って、先生もレヴィアナさんの事探しているみたいで、レヴィアナさんの家が襲われてるって……!」
アリシアも混乱しているようだった。それでも私のこの予感と、アリシアの知らせが一致していることに背筋がゾワリとする。
アリシアが息を切らして伝えてくれたことはにわかには信じられない事だったけど、今アリシアがこんな冗談を言うわけがなかった。
また頭の奥の方で私の家の前でたくさんの人が暴れているのが見えた。
「で、でも……?」
「良いじゃねーか。とりあえず行ってみようぜ!」
イグニスが私の肩に手を乗せる。その手が温かくて、混乱していた思考が少しずつ落ち着いていく。
そうだ、ここで私が取り乱しても何も始まらない。
「イグニス?あなたも来てくれますの?」
「おう、レヴィアナがさっき言ってて、今これだろ?気になるじゃねーか。とりあえず行って、何も無かったら帰ってくりゃあいい。それに……」
「それに?」
レヴィアナのホームシックもなおるかもしれないしな!」
そう言ってイグニスはニカっと笑った。私もつられて笑い返す。
「高速馬車に乗ってけばそんなに時間もかかんねーで着くだろ。レヴィアナは先に広場に行って馬を確保していてくれ。俺様は後1人くらい旅の仲間を探してくるわ」
「私は?私はいかなくて平気ですか?」
「おう、もし本当に平民の反乱だったらアリシアは危ないし、平民のアリシアはいないほうがいいだろ。アリシアは先生たちにレヴィアナと今日の午後から休むってことを伝えてくれ」
はじかれたように3人は別々の方向へ向かって走り出す。
広場に行く途中もどんどんと映像が鮮明になっていく。気のせいだと頭を必死に振っても私の花壇が踏み荒らされていくのが分かる。
(誰……?私……知ってる……?)
先陣を切って進む人に見覚えがあるように思う。でもローブに囲まれた顔は見えず特定することは難しい。やがてあたりは煙幕に包まれ、私の頭の中から湧き出る視界も見えなくなった。
幸い高速馬車は空きがあり移動手段は確保することができた。
イグニスを待っている時間が少しやきもきする。私一人で行ってしまおうかとも思ったけど、今見た映像が本当に現実に起きている事だったら私一人よりも絶対にイグニスが居たほうが心強い。
「おーい、待たせたな!本当に反乱なら防衛戦だろ?」
そう言ってイグニスが連れてきたのはガレンだった。
「レヴィアナの家が襲われてるんだって?本当かよ」
「アリシアに教えてもらったんですわ。わたくしも本当かどうかわからないんですが……」
「ふぅん……?アリシアがねぇ……?」
少しの間顎に手をあてて考え込む。
「多分……本当だと思うわ、それ」
「ガレン?お前何か知ってるのかよ」
「いいから、まずは急ごう。話は馬車の中で」
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