59 / 143
反乱
ヴォルトハイム邸での攻防_3
しおりを挟む
アルドリックは本当に一瞬だけ、目の前で起きた事象に対して目を見開いた。
(ふむ……なるほど、悪くない)
先ほどの攻撃ではとても食らう事はできなかった。
この魔法石を使ってからの彼らの攻撃も、強力ではあったが対処が出来ないものではなかった。
あの程度の攻撃でやられてしまってはきっと屋敷で見守ってくれている彼女たちにばれてしまう。
(それにしても、探知はしていたつもりだったんだけどね)
正面のマスクをつけた彼の合図とともに屋敷の3方から突然強力な魔力反応が現れた。
もしかしたら一時的に魔力を消すようなアイテムがあるのかもしれない。
それに、連鎖魔法陣の心得もあるようだ。4方を取り囲んだ彼らは素早く魔法陣を展開している。
「これなら大丈夫だね」
横に立つフローラに微笑みかけると、その一言ですべてを察してくれたのか同じように笑顔で返してくれた。
周りの彼らは気の毒だけど、一緒に巻き添えになってもらおう。
(それであの3人は私の事も忘れ無事にセレスティアル・アカデミーに戻り、また楽しい毎日を過ごすことができる)
イグニスが屋敷内を移動してこちらに向かっているようだ。しっかりと防御範囲内に収まるように、全力のエレクトロフィールドを展開するために右腕を屋敷に向ける。
(これが今の私ができる最善の方法だ)
何も悲しむ必要なんてない。
彼女たちを逃がすために、最善の選択をしているんだから。
そして最後に一つ心の中でつぶやいた。
――――本当にすまなかった。
***
カムランは作戦の成功を確信していた。
借り受けたエレメンタルエンフォーサー、そして連鎖魔法陣の展開も問題ない。
存在感を消すというヴォイドウォーカーも完璧に動作していたようだ。
全て作戦通りだ。
後はもう一度発動の合図の魔法を天に撃てば自分たちの革命はきっと成功するだろう。
これでアルドリックやイグニスやガレンやレヴィアナに復讐ができる。
―――でも、俺、なんでこんなにこいつらの事憎んでるんだ……?
さっきも感じた思考のノイズがまた走る。
―――それにここに来てからイグニスたちに会っていないのになんで俺はあいつらがここにいるって知ってるんだ……?
「ぐっ……!」
あいつらの姿を思い出すと、正面に立っているアルドリックの姿を見ると体の内から湧き出る憎悪の炎で全身が焼かれていく。
―――苦しい……痛い……だから……だから早くあいつらを殺さないといけないんだ……
もうじき俺の悲願は叶うはずだ。
あいつに言われた通りエレクトロフィールドを破壊して、そうしたらその反動でアルドリックを倒すことができる!
そうしてそのまま屋敷の中にいるイグニスたちも倒すことができる。
「平民を舐めるな!!!」
天に向かって魔法を放つ。それと同時に屋敷の四方から強烈な光が放たれた。
そして連鎖魔法陣が発動する。
――――これで全て終わらせてやる!!
***
上空に現れた魔法陣から光が降り注いだ瞬間、そしてお父様のエレクトロフィールドが発動しきる前に、私は「妖精の音符」の力で限界まで高めた機動力をもって屋敷を飛び出した。
新しく展開されたエレクトロフィールドを背中で感じ、元々屋敷全体に張られていたエレクトロフィールドも全身で突き抜ける。
「電気の海に溺れよ、我が周りに舞い踊れ!荒れ狂う渦、エレクトロフィールド!」
昨夜からずっと練り続けていた魔法に、自分自身のありったけの魔力を乗せて一気に放出する。
「……っ……っくっ!!!」
それでも私の出力を遙かに超えた魔力が私に襲い掛かる。この魔法をお父様のエレクトロフィールドに近づけるわけには絶対に行かない。だからもう少し、ほんの少しだけ私が頑張る力を貸してほしい!
(絶対に私が守る!!)
――ドクン……ッ
一際大きく心臓が跳ねた気がした。それと同時に自分の体の内から魔力があふれ出てくる感覚が体中を駆け巡った。
(……っ!これなら!!)
私の中に生まれた力がエレクトロフィールドに向かって流れ込んでいく。そして――
(届け……!)
エレクトロフィールドは暴走することなく、大きな爆発音を立てて炸裂した魔法は霧散していった。
背後から3つの炸裂音が聞こえる。
(お父様はこんな魔法をずっと、あんな涼しい顔で防いでいたのね……)
思わず笑ってしまう。でもこれで連鎖魔法陣の発動は防ぐことができた。
一時的に全魔力をつぎ込んだことにより、そのままベシャリと正面から崩れ落ちてしまう。
「う……」
手を付くことも出来ず顔面から突っ込んでしまい、口の中に土が入り込んできた。
「ははっ……」
嘲笑に似た何かが漏れてしまう。作戦は練っていたはずなのに、限界ギリギリもいいところだ。
すぐに体を起こしたいのに、手足に力が入らず立ち上がれない。視界もぼやけてきた。
「はぁ……はぁ……」
体中が悲鳴を上げている。頭痛もする。でもまだ、次が来ても対応できるように体勢を立て直さないと。
震える体に鞭打って立ち上がろうとするが、再び崩れ落ちてしまい今度は肩を強打してしまう。
「……っ!はあっ……はあっ……!」
大丈夫、こんな痛みなんて、全然平気。
ゆっくりと息を吐き、呼吸を整える。
漸く立ち上がり、次のエレクトロフィールドのための詠唱を始めようとした時、背中に温かい感触を感じた。
「まったく、本当に無茶をするんじゃないよ」
振り返ると、お父様が私の背中に手を回して支えてくれていた。
***
(あれは……!?)
暴走した魔力から中の3人を守るための防壁が完成する前にレヴィアナが屋敷から飛び出した。そしてそのまま連鎖魔法陣を構成している一角に向かって――――。
「危ない!!!」
直撃した。
なぜレヴィアナが。
彼女は高速機動の類の魔法は使えなかったはず。
それを見越してエレクトロフィールドの距離も調整した。
「なぜ……!?」
魔法石で最大まで威力を高められたあの魔法は普通の魔法使いでは防御することすら難しいだろう。いくら彼女とは言え、あれを食らってしまってはただでは済まないはずだ。
先程まであれほど冷静だったアルドリックの表情が一気に焦燥へと変わった。
(何か出来ないか……!?)
反乱軍の魔法は防御魔法に直撃している。今から追加で……いや。無理だ。
横から直撃して弾き飛ばして……誘爆させてしまったらどうする。
「……っ!!」
出来ることは一つだった。アルドリックは今一度屋敷に張ったエレクトロフィールドを強化し、ほかの3か所からの魔法に対しての防御を万全にする。
ドガン!!!と轟音を上げ魔法が次々に炸裂する。
大丈夫、大丈夫だ。一つ一つ対処していけばきっと大丈夫だ。
彼女を信じるんだ。
――無事でいてくれ……!
ドガン!ドガン!と魔法が炸裂する中、永遠にも感じられる時間の中、私はじっと反撃の機会をうかがっていた。
「ここは任せたよ」
敵が次の魔法を展開させるにはまたしばらく詠唱の時間がかかるだろう。
しのぎ切ったことを確認するとフローラに声をかけ、返事も待たずにその場を飛び出した。
(急げ……急げ……!)
全身に雷を纏い一直線に駆け出す。
「まったく、本当に無茶をするんじゃないよ」
よかった。息はある。
急激に大量の魔力を使ったことによる呼吸の乱れや憔悴は見て取れるが、命に別状はなさそうだ。
私は彼女の手の中に小さな石が握られている事に気づいた。
(……これは)
以前アイザリウムがそういった道具があると教えてくれていた。そうか、これを使って……。
「っ!お父様、私……」
私の姿を認めて声をかけてくる。まだ朦朧としているのだろう。視点が合っていない。
「何をしてるんだ……!本当に危ないところだったんだぞ」
思わず声を荒げてしまう。無事だったからよかったものの、こんなものたまたまと言っていいだろう。それに突然限界以上の力を使いこんなに汗も……。
「何をしてるんだは……こっちの台詞よ……っ!」
「なっ……!」
思わず怯んでしまうような迫力で、彼女は真っすぐ私の目を見つめている。そして手の中にあった魔法石をぎゅっと握りしめてゆっくりと立ち上がった。
「はぁ……はぁ……」
「レヴィ……!無理をしちゃ……」
「ガレンもそう、あなたもそう!なんで勝手に決めて勝手に諦めてるのよ!私は誰も居なくなって欲しくないのに!!」
初めて見せる彼女の激高に思わずたじろいでしまう。
「ミーナだっていなくなった!もう嫌なの、これ以上この世界を嫌いになりたくないの!だからもう私の前で誰もいなくなってほしくない!!」
「レヴィ!」
「私は……っ!げふっ……かふっ……」
苦しそうに叫んだ後、彼女はそのまま倒れ込んでしまった。先ほどよりも悪化しているのか、体からあふれる汗はとどまることなく次々と噴出している。
「もういいから……休むんだ」
体を起こして屋敷に連れて行こうと手を差し伸べたが、その手は弱々しい手で、しかし明確な意思を持って払われてしまった。
「私は……全員守る……。守って見せる……。絶対に……」
私の目を見ながら苦しそうにそうつぶやくと、レヴィアナは再び立ち上がろうとしてる。
少し休めば回復するだろう。
でもこんな状態で彼女にこれ以上魔法を使わせるわけにはいかない。
「わかった……私も、可能な限り私を含めたすべてを守ろう。約束だ」
私は彼女の目を見ながらしっかりと約束を交わした。
***
(俺様は……無事なのか……?)
すごい衝撃とともに辺りが真っ白になって、何も見えなくなった。
イグニスはゆっくりと目を開く。
(思考できるってことは無事ってことだよな)
轟音で耳が上手く機能していないが、体のどこにも痛みや痺れなどは感じられない。
これなら大丈夫だ。
正面の仮面の男に向かって駆けだす。
「カムラン!!!これは一体どういうことだ!!!!!」
魔法の衝撃で外れたのか、付けていた仮面はどこかに吹き飛んでいた。イグニスの声に反応したのか、カムランはこちらを向きなおす。
「何か言い訳することはあるか?つってももうただじゃ置かねぇが……!」
カムランの表情は恐れ、怒り、困惑、それらが混ざったおおよそ人では無いような表情を浮かべている。
「これは……あれ……違う……!違う!!!お前たちが……お前たちが俺の事を蔑んで……!!あれ……でも……魔法を……」
カムランの表情がさらに崩れ、頭を抱えながら膝をつく。
しかし右手には攻撃をした証としての先程まで光を放っていた杖がしっかり握りしめられていた。
「よくわかんねーが、あとはお前だけだ。どうする?別にしらねぇ仲でもねぇ。投降するか?」
「俺は……こんなこと……違う……でも、俺はお前たちを倒さないと……いけないんだ!!」
カムランにはイグニスの言葉は聞こえていないようだった。
光の失った瞳でこちらをにらみつけながら、杖をこちらに向ける。次の瞬間一気にカムランの周りに魔法力が展開され、先程の様に輝かしい光を放っていた。
学園での模擬戦闘でも、放課後の訓練場とも違う、イグニスに向けているのは明確な殺意だった。
応戦するためにイグニスも魔法を展開しようとするが、ここはまだアルドリックのエレクトロフィールドの範囲内。下手に魔法を使おうものなら逆に事態を悪化させかねない。
(くそっ!こんなとこで足止め食らってる場合じゃねーのに!!)
少しずつ、カムランから発せられる魔法力が大きくなっていく。
(どうする……どうすればいい……)
「大丈夫だよ、イグニス君」
声が聞こえた。
次の瞬間目の前のエレクトロフィールドが消え、天から落雷が降ってきた。
「かはっ……!?」
詠唱を続けていたカムランはもちろん、周りにいた反乱軍にもその雷は降り注ぐ。
辺り一帯に雷が走り、さらに男たちの悲鳴が響く。
慌てて振り返ると、レヴィアナを抱きかかえたアルドリックが上空に浮いていた。そしてそこから雷の嵐が屋敷の四方へと降り注いでいる。
「ははっ……やっぱすげぇ……」
こうしてあっけなく事態は収束した。
***
(今回はこんな所か……)
屋敷からも、反乱軍からも離れた位置で、ヴォイドウォーカーに全身を包んだ人物が冷静に目の前で起きていたことを分析する。
(ただ……さすがに凄いな。直接見に来てよかった)
エレメンタルエンフォーサーの攻撃を防ぐことができるキャラクターがいるとわかっただけでも収穫だった。
カムランや他の奴らが未熟だったからということもあるかもしれないが、それでも完全に想定外だった。
(……まぁ、どうでも良いか)
そうしてこの場所には完全に興味がなくなったかのように背をむけ、この場所から去っていくのだった。
(ふむ……なるほど、悪くない)
先ほどの攻撃ではとても食らう事はできなかった。
この魔法石を使ってからの彼らの攻撃も、強力ではあったが対処が出来ないものではなかった。
あの程度の攻撃でやられてしまってはきっと屋敷で見守ってくれている彼女たちにばれてしまう。
(それにしても、探知はしていたつもりだったんだけどね)
正面のマスクをつけた彼の合図とともに屋敷の3方から突然強力な魔力反応が現れた。
もしかしたら一時的に魔力を消すようなアイテムがあるのかもしれない。
それに、連鎖魔法陣の心得もあるようだ。4方を取り囲んだ彼らは素早く魔法陣を展開している。
「これなら大丈夫だね」
横に立つフローラに微笑みかけると、その一言ですべてを察してくれたのか同じように笑顔で返してくれた。
周りの彼らは気の毒だけど、一緒に巻き添えになってもらおう。
(それであの3人は私の事も忘れ無事にセレスティアル・アカデミーに戻り、また楽しい毎日を過ごすことができる)
イグニスが屋敷内を移動してこちらに向かっているようだ。しっかりと防御範囲内に収まるように、全力のエレクトロフィールドを展開するために右腕を屋敷に向ける。
(これが今の私ができる最善の方法だ)
何も悲しむ必要なんてない。
彼女たちを逃がすために、最善の選択をしているんだから。
そして最後に一つ心の中でつぶやいた。
――――本当にすまなかった。
***
カムランは作戦の成功を確信していた。
借り受けたエレメンタルエンフォーサー、そして連鎖魔法陣の展開も問題ない。
存在感を消すというヴォイドウォーカーも完璧に動作していたようだ。
全て作戦通りだ。
後はもう一度発動の合図の魔法を天に撃てば自分たちの革命はきっと成功するだろう。
これでアルドリックやイグニスやガレンやレヴィアナに復讐ができる。
―――でも、俺、なんでこんなにこいつらの事憎んでるんだ……?
さっきも感じた思考のノイズがまた走る。
―――それにここに来てからイグニスたちに会っていないのになんで俺はあいつらがここにいるって知ってるんだ……?
「ぐっ……!」
あいつらの姿を思い出すと、正面に立っているアルドリックの姿を見ると体の内から湧き出る憎悪の炎で全身が焼かれていく。
―――苦しい……痛い……だから……だから早くあいつらを殺さないといけないんだ……
もうじき俺の悲願は叶うはずだ。
あいつに言われた通りエレクトロフィールドを破壊して、そうしたらその反動でアルドリックを倒すことができる!
そうしてそのまま屋敷の中にいるイグニスたちも倒すことができる。
「平民を舐めるな!!!」
天に向かって魔法を放つ。それと同時に屋敷の四方から強烈な光が放たれた。
そして連鎖魔法陣が発動する。
――――これで全て終わらせてやる!!
***
上空に現れた魔法陣から光が降り注いだ瞬間、そしてお父様のエレクトロフィールドが発動しきる前に、私は「妖精の音符」の力で限界まで高めた機動力をもって屋敷を飛び出した。
新しく展開されたエレクトロフィールドを背中で感じ、元々屋敷全体に張られていたエレクトロフィールドも全身で突き抜ける。
「電気の海に溺れよ、我が周りに舞い踊れ!荒れ狂う渦、エレクトロフィールド!」
昨夜からずっと練り続けていた魔法に、自分自身のありったけの魔力を乗せて一気に放出する。
「……っ……っくっ!!!」
それでも私の出力を遙かに超えた魔力が私に襲い掛かる。この魔法をお父様のエレクトロフィールドに近づけるわけには絶対に行かない。だからもう少し、ほんの少しだけ私が頑張る力を貸してほしい!
(絶対に私が守る!!)
――ドクン……ッ
一際大きく心臓が跳ねた気がした。それと同時に自分の体の内から魔力があふれ出てくる感覚が体中を駆け巡った。
(……っ!これなら!!)
私の中に生まれた力がエレクトロフィールドに向かって流れ込んでいく。そして――
(届け……!)
エレクトロフィールドは暴走することなく、大きな爆発音を立てて炸裂した魔法は霧散していった。
背後から3つの炸裂音が聞こえる。
(お父様はこんな魔法をずっと、あんな涼しい顔で防いでいたのね……)
思わず笑ってしまう。でもこれで連鎖魔法陣の発動は防ぐことができた。
一時的に全魔力をつぎ込んだことにより、そのままベシャリと正面から崩れ落ちてしまう。
「う……」
手を付くことも出来ず顔面から突っ込んでしまい、口の中に土が入り込んできた。
「ははっ……」
嘲笑に似た何かが漏れてしまう。作戦は練っていたはずなのに、限界ギリギリもいいところだ。
すぐに体を起こしたいのに、手足に力が入らず立ち上がれない。視界もぼやけてきた。
「はぁ……はぁ……」
体中が悲鳴を上げている。頭痛もする。でもまだ、次が来ても対応できるように体勢を立て直さないと。
震える体に鞭打って立ち上がろうとするが、再び崩れ落ちてしまい今度は肩を強打してしまう。
「……っ!はあっ……はあっ……!」
大丈夫、こんな痛みなんて、全然平気。
ゆっくりと息を吐き、呼吸を整える。
漸く立ち上がり、次のエレクトロフィールドのための詠唱を始めようとした時、背中に温かい感触を感じた。
「まったく、本当に無茶をするんじゃないよ」
振り返ると、お父様が私の背中に手を回して支えてくれていた。
***
(あれは……!?)
暴走した魔力から中の3人を守るための防壁が完成する前にレヴィアナが屋敷から飛び出した。そしてそのまま連鎖魔法陣を構成している一角に向かって――――。
「危ない!!!」
直撃した。
なぜレヴィアナが。
彼女は高速機動の類の魔法は使えなかったはず。
それを見越してエレクトロフィールドの距離も調整した。
「なぜ……!?」
魔法石で最大まで威力を高められたあの魔法は普通の魔法使いでは防御することすら難しいだろう。いくら彼女とは言え、あれを食らってしまってはただでは済まないはずだ。
先程まであれほど冷静だったアルドリックの表情が一気に焦燥へと変わった。
(何か出来ないか……!?)
反乱軍の魔法は防御魔法に直撃している。今から追加で……いや。無理だ。
横から直撃して弾き飛ばして……誘爆させてしまったらどうする。
「……っ!!」
出来ることは一つだった。アルドリックは今一度屋敷に張ったエレクトロフィールドを強化し、ほかの3か所からの魔法に対しての防御を万全にする。
ドガン!!!と轟音を上げ魔法が次々に炸裂する。
大丈夫、大丈夫だ。一つ一つ対処していけばきっと大丈夫だ。
彼女を信じるんだ。
――無事でいてくれ……!
ドガン!ドガン!と魔法が炸裂する中、永遠にも感じられる時間の中、私はじっと反撃の機会をうかがっていた。
「ここは任せたよ」
敵が次の魔法を展開させるにはまたしばらく詠唱の時間がかかるだろう。
しのぎ切ったことを確認するとフローラに声をかけ、返事も待たずにその場を飛び出した。
(急げ……急げ……!)
全身に雷を纏い一直線に駆け出す。
「まったく、本当に無茶をするんじゃないよ」
よかった。息はある。
急激に大量の魔力を使ったことによる呼吸の乱れや憔悴は見て取れるが、命に別状はなさそうだ。
私は彼女の手の中に小さな石が握られている事に気づいた。
(……これは)
以前アイザリウムがそういった道具があると教えてくれていた。そうか、これを使って……。
「っ!お父様、私……」
私の姿を認めて声をかけてくる。まだ朦朧としているのだろう。視点が合っていない。
「何をしてるんだ……!本当に危ないところだったんだぞ」
思わず声を荒げてしまう。無事だったからよかったものの、こんなものたまたまと言っていいだろう。それに突然限界以上の力を使いこんなに汗も……。
「何をしてるんだは……こっちの台詞よ……っ!」
「なっ……!」
思わず怯んでしまうような迫力で、彼女は真っすぐ私の目を見つめている。そして手の中にあった魔法石をぎゅっと握りしめてゆっくりと立ち上がった。
「はぁ……はぁ……」
「レヴィ……!無理をしちゃ……」
「ガレンもそう、あなたもそう!なんで勝手に決めて勝手に諦めてるのよ!私は誰も居なくなって欲しくないのに!!」
初めて見せる彼女の激高に思わずたじろいでしまう。
「ミーナだっていなくなった!もう嫌なの、これ以上この世界を嫌いになりたくないの!だからもう私の前で誰もいなくなってほしくない!!」
「レヴィ!」
「私は……っ!げふっ……かふっ……」
苦しそうに叫んだ後、彼女はそのまま倒れ込んでしまった。先ほどよりも悪化しているのか、体からあふれる汗はとどまることなく次々と噴出している。
「もういいから……休むんだ」
体を起こして屋敷に連れて行こうと手を差し伸べたが、その手は弱々しい手で、しかし明確な意思を持って払われてしまった。
「私は……全員守る……。守って見せる……。絶対に……」
私の目を見ながら苦しそうにそうつぶやくと、レヴィアナは再び立ち上がろうとしてる。
少し休めば回復するだろう。
でもこんな状態で彼女にこれ以上魔法を使わせるわけにはいかない。
「わかった……私も、可能な限り私を含めたすべてを守ろう。約束だ」
私は彼女の目を見ながらしっかりと約束を交わした。
***
(俺様は……無事なのか……?)
すごい衝撃とともに辺りが真っ白になって、何も見えなくなった。
イグニスはゆっくりと目を開く。
(思考できるってことは無事ってことだよな)
轟音で耳が上手く機能していないが、体のどこにも痛みや痺れなどは感じられない。
これなら大丈夫だ。
正面の仮面の男に向かって駆けだす。
「カムラン!!!これは一体どういうことだ!!!!!」
魔法の衝撃で外れたのか、付けていた仮面はどこかに吹き飛んでいた。イグニスの声に反応したのか、カムランはこちらを向きなおす。
「何か言い訳することはあるか?つってももうただじゃ置かねぇが……!」
カムランの表情は恐れ、怒り、困惑、それらが混ざったおおよそ人では無いような表情を浮かべている。
「これは……あれ……違う……!違う!!!お前たちが……お前たちが俺の事を蔑んで……!!あれ……でも……魔法を……」
カムランの表情がさらに崩れ、頭を抱えながら膝をつく。
しかし右手には攻撃をした証としての先程まで光を放っていた杖がしっかり握りしめられていた。
「よくわかんねーが、あとはお前だけだ。どうする?別にしらねぇ仲でもねぇ。投降するか?」
「俺は……こんなこと……違う……でも、俺はお前たちを倒さないと……いけないんだ!!」
カムランにはイグニスの言葉は聞こえていないようだった。
光の失った瞳でこちらをにらみつけながら、杖をこちらに向ける。次の瞬間一気にカムランの周りに魔法力が展開され、先程の様に輝かしい光を放っていた。
学園での模擬戦闘でも、放課後の訓練場とも違う、イグニスに向けているのは明確な殺意だった。
応戦するためにイグニスも魔法を展開しようとするが、ここはまだアルドリックのエレクトロフィールドの範囲内。下手に魔法を使おうものなら逆に事態を悪化させかねない。
(くそっ!こんなとこで足止め食らってる場合じゃねーのに!!)
少しずつ、カムランから発せられる魔法力が大きくなっていく。
(どうする……どうすればいい……)
「大丈夫だよ、イグニス君」
声が聞こえた。
次の瞬間目の前のエレクトロフィールドが消え、天から落雷が降ってきた。
「かはっ……!?」
詠唱を続けていたカムランはもちろん、周りにいた反乱軍にもその雷は降り注ぐ。
辺り一帯に雷が走り、さらに男たちの悲鳴が響く。
慌てて振り返ると、レヴィアナを抱きかかえたアルドリックが上空に浮いていた。そしてそこから雷の嵐が屋敷の四方へと降り注いでいる。
「ははっ……やっぱすげぇ……」
こうしてあっけなく事態は収束した。
***
(今回はこんな所か……)
屋敷からも、反乱軍からも離れた位置で、ヴォイドウォーカーに全身を包んだ人物が冷静に目の前で起きていたことを分析する。
(ただ……さすがに凄いな。直接見に来てよかった)
エレメンタルエンフォーサーの攻撃を防ぐことができるキャラクターがいるとわかっただけでも収穫だった。
カムランや他の奴らが未熟だったからということもあるかもしれないが、それでも完全に想定外だった。
(……まぁ、どうでも良いか)
そうしてこの場所には完全に興味がなくなったかのように背をむけ、この場所から去っていくのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
40
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる