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反乱
ヴォルトハイム邸での攻防_2
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彼らが棒状の何かを掲げ、虹色に輝きだした。
「あれは!?」
「レヴィアナ?何か知ってるのか?」
イグニスが声を上げる。遠くて何を持っているのかはよく見えないけれど、それでもこの特徴的な光には見覚えがあった。
「エレメンタルエンフォーサー……?」
「だから何なんだよそれ!」
「効果は単純でしてよ。使用者の魔法の威力を跳ね上げる事ですわ」
ゲーム内で、モンスターとの戦闘で何度も敗北すると手に入れる事ができる初心者救済用のアイテムだ。
レベルを上げなくてもラスボス手前の戦闘すら難なく突破できる反則気味の代物で、私もまだこのゲームに慣れていない頃はよくお世話になっていた。
見ればリーダー格以外の反乱軍全員が同じように輝かしい光を放ち始める。
(なんで……それもあんなに沢山……?)
でもこれなら確かにお父様の防御魔法を突破できるかもしれない。お父様は魔法を警戒してか反乱軍との間にもう一枚強固なエレクトロフィールドを展開したようだった。
反乱軍の右端の一人が先ほどまでとは異なる規模も威力も桁違いの魔法を放った。使用者は自分の魔法の威力を支えきれなかったのか後方に吹き飛ぶほどの威力だった。
けたたましい破裂音を轟かせ、爆炎がお父様のエレクトロフィールドとぶつかり合う。
「おい……マジかよ」
イグニスが焦りの声を上げる。彼が放った魔法は私たちがディスペアリアム・オベリスクを破壊した時よりも数段上のように見える。
お父様は新たに防御魔法を展開して反乱軍の魔法を防ごうとしているが、一人、また一人と反乱軍のメンバーから強力な魔法が放たれる。
「……なんでアルドリックおじさんは反撃しないんだ……?」
「……きっと誰にも死んでほしくないから、だと思いますわ」
イグニスはその言葉を聞くと、さらに焦りの声を上げた。
「……くそ!!あいつら好き勝手やりやがって……!これ以上やらせられるかよ!!」
そう言って立ち上がったのはイグニスだった。その表情は明らかに怒りに満ちている。
「待って、今出て行ったら危険ですわよ……!」
「だからってこのままじゃ何も変わらねぇ!!俺様は行くぜ……!!」
「待ちなさい!!イグニス!!」
私の静止を振り切って部屋からイグニスが飛び出していってしまう。
「どうする、レヴィアナ?」
本当は今すぐにでも追いかけたほうがいいに決まっている。でも、昨日の予想が正しければこの後……。
「もう少し、もう少しここで……」
そうガレンに返し、「妖精の音符」を強く握りしめた。
***
イグニスは階段を駆け下りていた。
2人が後を追ってくるのを待とうかとも思ったが、あんな状況で悠長に待っても居られない。
いくらアルドリックでもあんな猛攻を長時間耐え続けることは出来ないだろう。
「っと……あぶねぇ」
階段に転がった瓦礫に足を取られそうになる。こんな時は風魔法使いで無いことが心底悔やまれる。
(落ち着け、無いものをねだっても仕方がねぇ)
そう言い聞かせてもついつい気が逸り、拳を強く握りしめてしまう。
イグニスが憤るのには理由がある。イグニスは敵のリーダー格の男の声に聞き覚えがあった。
このところノーランと並び、多くの言葉を交わしてきた生徒だ。
『てめぇ!少しは手加減しろよ!』
『くっそ!!いつかぜってぇ負けさせて頭を下げさせてやるからな!!』
『絶対に許さねぇ!ぶっ倒す!!』
仮面で声はくぐもっていたけど間違いない。
(……カムラン!なんでこんなことしてやがる……!)
あいつが貴族に対して恨みを持っていることは分かっていた。はじめのうちは何度も突っかかってきた。俺様の振る舞いにも問題はあったと思う。無意識ではあったが、確かに傲慢んに振る舞っていたのかもしれない。
でも、頭を下げて一緒に魔法の訓練をして……。
「ちっ……!なんでだよ!!」
どうしてこうなってしまうのか。
自分の魔法訓練の方法が悪くてこじれてしまったのか?
自分がもっと優しくしてやればこんな事にはならなかったのではないか?
自分にも責任があるのでは無いか?
そんな考えばかりが頭を巡る。だが、今はそんな事を考えている時間は無い。
(とにかく止めねぇと!!)
どういった理由があるにせよ自分が協力して成長した魔法でアルドリックを襲撃しているという事実は到底受け入れられるものでは無い。
イグニスはもう一度強く拳を握りしめ屋敷を飛び出し戦場に向かっていった。
***
(よし……完全に注意をこちらに引き付けることができたな……)
正面に注意を集め、受け取ったこのアイテムを使って攻撃をすればより強固な防御魔法を使い足を止めて防御に徹する。
ここまでは言われた通りだ。
「おいおい!!反撃してこないのかよ!英雄アルドリックさんよぉ!」
仮面の下でカムランが勝ち誇った声を上げる。
「それとも俺たち平民が何をしても無駄だとでも言いたいのか!?」
もっと、もっとだ。もっと注意を引き付けて……。
(あれ……でも……俺、なんでこんなことしてるんだ?)
ふと、ある考えがよぎる。確かに、ずっと見下されてきた。貴族ばかりが贔屓される世界で、俺はずっと平民として生きてきた。
でも、だからと言ってなんでこんな事をしているんだ?ちゃんと戦って見返すんじゃなかったのか……?
「……っ!?」
途端にズキンと頭痛がした。
(そうだ、そんなの関係ない。俺は後は合図をすればいいんだ。合図さえすれば、俺は幸せになれる。ちがう幸せになるとか関係ない。だって俺はそうしないといけないんだから)
カムランは天に向かってエアースラッシュを放った。
***
屋敷の四方から強大な光が光る
間違いなくエレメンタルエンフォーサーの光だった。
お父様が警戒していた通りだった。
ーーー
「こういった時は四方に囲まれないことを警戒しないといけないのは知っているかい?」
昨夜の作戦会議でお父様はそう言った。
「どういうことですの?守りづらくなるからですの?」
「それもあるけど、それよりも連鎖魔法陣を警戒するためかな」
私は初めて聞く単語に首をかしげる。イグニス、ガレンも同じようだった。
「そうか。学校では教えないだろうね。でも何かのとき、本当にいざというときのためにこういう事もあるのだと知っておくといい」
そういってお父様は一つ指を振る。すると宙に4つの魔法陣が浮かび上がる。
「連鎖魔法陣、敵を取り囲み特殊な術式を唱えることで中心に対しての魔法の威力を強化することができるんだよ。こういった籠城戦なら最重要の警戒項目だね」
4つの魔法陣から中心に見たことも無い紋様が広がっていき新たな魔法陣が展開された。
中心に集まった紋様はまた新たな陣を形成してポンと爆発する。
「今は大丈夫ですの?今からでも見回りに……!」
お父様はにこりと笑ってまた指を振り魔法陣を消滅させた。
「はは、大丈夫だよ。私は半径10km程度ならマナの動きを感知できるからね」
「戦場で10km……その範囲の敵の位置が全部わかるってこと……ですか……?そんなの集団戦だろうがやりたい放題じゃないですか!」
イグニスが驚愕の声を上げる。
「相手がどこにいても、どこに隠れていても、遠距離から的確にスナイプする【雷の極光】。この称号にはそういった秘密があったんですね」
「あっ……だからわたくしたちがエレクトロフィールドに近づいたときにそこだけ解除を……」
「内側から外には出られるようにしてあるけど、来客があったら困るだろう?」
アルドリックはニコリとほほ笑む。
「まぁ万能ではないけどね。たとえば全くマナがない人間は探知することができない。稀有なんだけどたまにいるんだよね、そういう人が」
「でもそもそも魔法を使えない人なら、目視してからでも対応できるじゃないですか」
すげぇ……すげぇ……とイグニスはつぶやいている。
「それ!俺様…いや、私たちにもできないですか?」
「はっはっはっ。私は雷魔法専門だからね。イグニス君のように火属性魔法を得意にしている人はちょっとわからないかな」
そうですかと残念そうにイグニスがつぶやく。
「でもレヴィならできるはずだよ?」
「わたくしですか……?」
お父様がこちらを向き両手を広げて見せる。
「とても微弱なエレクトロフィールドをずっと空間に展開していくようなイメージをすればいい。誰が触ってもわからない、でもちゃんと存在している、そんな小さな、本当に小さなエレクトロフィールドを展開していくんだ」
私はお父様の言葉を頭の中で何度も反芻した。
「まずは広げた手の間にその空間を作ってみよう」
言われたことをイメージして詠唱を始める。
詠唱途中も「うん、もっと薄く、そうそう」と細かくお父様は指示をくれる。
両腕の間の空間を包むように、自分を囲うように、広げていく……。
――――……できた……?
「うん、さすがレヴィ。じゃあ目をつむって、この手の間にイグニス君、手を入れてみてくれないかな」
言われたとおりに、眼を瞑ると腕と腕の間に確かに何かがあるのが分かる。
「確かに…確かに感じますわ」
「じゃあ次はガレン君も手を入れてみてくれないか」
「さっきのイグニスと……ちがう……?」
「そこまでわかれば完璧だ。そう、マナの色みたいなものは人によって違う。だから君たちが近づいてきたのが分かったってことだよ」
「っかー……。いやすげぇな……」
イグニスが天を仰ぎながらそんな声をあげた。
「俺様もある程度知ったつもりだったけどまだまだ知らないことたくさんあるんだなぁ……」
「まぁこれはアイザリウムが発明した魔法だからまだ体系化された教本とかには載っていないからね」
「アイザリウム……ってアルドリックさんと同じ三賢者の?」
「そうだよ。だからこの魔法の使い手はアイザリウムと私と、これでレヴィの3人になったという訳だね」
「いえ、わたくしはこれを半径10kmなんて想像もできませんわ」
維持しようとしてみたが、ものの数秒で集中力の限界が来て魔力が霧散していってしまった。
「まだ知られてない魔法やアイテムはたくさんあるよ。今度機会があればアイザリウムに会ってみるといい。私なんかよりももっともっといろいろ詳しいから」
ーーー
昨日お父様が話していた連鎖魔法陣だろうか。でも私も知らないことをなんで反乱軍が?
それにお父様にはマナ感知がある。それを掻い潜るなんて可能なんだろうか?
それとも分かっていて見逃した……?
でも、こうして魔法を使っている今であれば敵の位置を正確に把握して攻撃できるはずだ。
だから正確な場所が分かるようになるまで泳がせて、それからサンダーボルトやライトニングチェインで攻撃するという意図があったのだろうか。
お父様が手のひらをこちらに向けて魔法を――――
「――――やっぱりっ!!!」
お父様が魔法を発動する刹那、私は「妖精の音符」を発動させた。
「あれは!?」
「レヴィアナ?何か知ってるのか?」
イグニスが声を上げる。遠くて何を持っているのかはよく見えないけれど、それでもこの特徴的な光には見覚えがあった。
「エレメンタルエンフォーサー……?」
「だから何なんだよそれ!」
「効果は単純でしてよ。使用者の魔法の威力を跳ね上げる事ですわ」
ゲーム内で、モンスターとの戦闘で何度も敗北すると手に入れる事ができる初心者救済用のアイテムだ。
レベルを上げなくてもラスボス手前の戦闘すら難なく突破できる反則気味の代物で、私もまだこのゲームに慣れていない頃はよくお世話になっていた。
見ればリーダー格以外の反乱軍全員が同じように輝かしい光を放ち始める。
(なんで……それもあんなに沢山……?)
でもこれなら確かにお父様の防御魔法を突破できるかもしれない。お父様は魔法を警戒してか反乱軍との間にもう一枚強固なエレクトロフィールドを展開したようだった。
反乱軍の右端の一人が先ほどまでとは異なる規模も威力も桁違いの魔法を放った。使用者は自分の魔法の威力を支えきれなかったのか後方に吹き飛ぶほどの威力だった。
けたたましい破裂音を轟かせ、爆炎がお父様のエレクトロフィールドとぶつかり合う。
「おい……マジかよ」
イグニスが焦りの声を上げる。彼が放った魔法は私たちがディスペアリアム・オベリスクを破壊した時よりも数段上のように見える。
お父様は新たに防御魔法を展開して反乱軍の魔法を防ごうとしているが、一人、また一人と反乱軍のメンバーから強力な魔法が放たれる。
「……なんでアルドリックおじさんは反撃しないんだ……?」
「……きっと誰にも死んでほしくないから、だと思いますわ」
イグニスはその言葉を聞くと、さらに焦りの声を上げた。
「……くそ!!あいつら好き勝手やりやがって……!これ以上やらせられるかよ!!」
そう言って立ち上がったのはイグニスだった。その表情は明らかに怒りに満ちている。
「待って、今出て行ったら危険ですわよ……!」
「だからってこのままじゃ何も変わらねぇ!!俺様は行くぜ……!!」
「待ちなさい!!イグニス!!」
私の静止を振り切って部屋からイグニスが飛び出していってしまう。
「どうする、レヴィアナ?」
本当は今すぐにでも追いかけたほうがいいに決まっている。でも、昨日の予想が正しければこの後……。
「もう少し、もう少しここで……」
そうガレンに返し、「妖精の音符」を強く握りしめた。
***
イグニスは階段を駆け下りていた。
2人が後を追ってくるのを待とうかとも思ったが、あんな状況で悠長に待っても居られない。
いくらアルドリックでもあんな猛攻を長時間耐え続けることは出来ないだろう。
「っと……あぶねぇ」
階段に転がった瓦礫に足を取られそうになる。こんな時は風魔法使いで無いことが心底悔やまれる。
(落ち着け、無いものをねだっても仕方がねぇ)
そう言い聞かせてもついつい気が逸り、拳を強く握りしめてしまう。
イグニスが憤るのには理由がある。イグニスは敵のリーダー格の男の声に聞き覚えがあった。
このところノーランと並び、多くの言葉を交わしてきた生徒だ。
『てめぇ!少しは手加減しろよ!』
『くっそ!!いつかぜってぇ負けさせて頭を下げさせてやるからな!!』
『絶対に許さねぇ!ぶっ倒す!!』
仮面で声はくぐもっていたけど間違いない。
(……カムラン!なんでこんなことしてやがる……!)
あいつが貴族に対して恨みを持っていることは分かっていた。はじめのうちは何度も突っかかってきた。俺様の振る舞いにも問題はあったと思う。無意識ではあったが、確かに傲慢んに振る舞っていたのかもしれない。
でも、頭を下げて一緒に魔法の訓練をして……。
「ちっ……!なんでだよ!!」
どうしてこうなってしまうのか。
自分の魔法訓練の方法が悪くてこじれてしまったのか?
自分がもっと優しくしてやればこんな事にはならなかったのではないか?
自分にも責任があるのでは無いか?
そんな考えばかりが頭を巡る。だが、今はそんな事を考えている時間は無い。
(とにかく止めねぇと!!)
どういった理由があるにせよ自分が協力して成長した魔法でアルドリックを襲撃しているという事実は到底受け入れられるものでは無い。
イグニスはもう一度強く拳を握りしめ屋敷を飛び出し戦場に向かっていった。
***
(よし……完全に注意をこちらに引き付けることができたな……)
正面に注意を集め、受け取ったこのアイテムを使って攻撃をすればより強固な防御魔法を使い足を止めて防御に徹する。
ここまでは言われた通りだ。
「おいおい!!反撃してこないのかよ!英雄アルドリックさんよぉ!」
仮面の下でカムランが勝ち誇った声を上げる。
「それとも俺たち平民が何をしても無駄だとでも言いたいのか!?」
もっと、もっとだ。もっと注意を引き付けて……。
(あれ……でも……俺、なんでこんなことしてるんだ?)
ふと、ある考えがよぎる。確かに、ずっと見下されてきた。貴族ばかりが贔屓される世界で、俺はずっと平民として生きてきた。
でも、だからと言ってなんでこんな事をしているんだ?ちゃんと戦って見返すんじゃなかったのか……?
「……っ!?」
途端にズキンと頭痛がした。
(そうだ、そんなの関係ない。俺は後は合図をすればいいんだ。合図さえすれば、俺は幸せになれる。ちがう幸せになるとか関係ない。だって俺はそうしないといけないんだから)
カムランは天に向かってエアースラッシュを放った。
***
屋敷の四方から強大な光が光る
間違いなくエレメンタルエンフォーサーの光だった。
お父様が警戒していた通りだった。
ーーー
「こういった時は四方に囲まれないことを警戒しないといけないのは知っているかい?」
昨夜の作戦会議でお父様はそう言った。
「どういうことですの?守りづらくなるからですの?」
「それもあるけど、それよりも連鎖魔法陣を警戒するためかな」
私は初めて聞く単語に首をかしげる。イグニス、ガレンも同じようだった。
「そうか。学校では教えないだろうね。でも何かのとき、本当にいざというときのためにこういう事もあるのだと知っておくといい」
そういってお父様は一つ指を振る。すると宙に4つの魔法陣が浮かび上がる。
「連鎖魔法陣、敵を取り囲み特殊な術式を唱えることで中心に対しての魔法の威力を強化することができるんだよ。こういった籠城戦なら最重要の警戒項目だね」
4つの魔法陣から中心に見たことも無い紋様が広がっていき新たな魔法陣が展開された。
中心に集まった紋様はまた新たな陣を形成してポンと爆発する。
「今は大丈夫ですの?今からでも見回りに……!」
お父様はにこりと笑ってまた指を振り魔法陣を消滅させた。
「はは、大丈夫だよ。私は半径10km程度ならマナの動きを感知できるからね」
「戦場で10km……その範囲の敵の位置が全部わかるってこと……ですか……?そんなの集団戦だろうがやりたい放題じゃないですか!」
イグニスが驚愕の声を上げる。
「相手がどこにいても、どこに隠れていても、遠距離から的確にスナイプする【雷の極光】。この称号にはそういった秘密があったんですね」
「あっ……だからわたくしたちがエレクトロフィールドに近づいたときにそこだけ解除を……」
「内側から外には出られるようにしてあるけど、来客があったら困るだろう?」
アルドリックはニコリとほほ笑む。
「まぁ万能ではないけどね。たとえば全くマナがない人間は探知することができない。稀有なんだけどたまにいるんだよね、そういう人が」
「でもそもそも魔法を使えない人なら、目視してからでも対応できるじゃないですか」
すげぇ……すげぇ……とイグニスはつぶやいている。
「それ!俺様…いや、私たちにもできないですか?」
「はっはっはっ。私は雷魔法専門だからね。イグニス君のように火属性魔法を得意にしている人はちょっとわからないかな」
そうですかと残念そうにイグニスがつぶやく。
「でもレヴィならできるはずだよ?」
「わたくしですか……?」
お父様がこちらを向き両手を広げて見せる。
「とても微弱なエレクトロフィールドをずっと空間に展開していくようなイメージをすればいい。誰が触ってもわからない、でもちゃんと存在している、そんな小さな、本当に小さなエレクトロフィールドを展開していくんだ」
私はお父様の言葉を頭の中で何度も反芻した。
「まずは広げた手の間にその空間を作ってみよう」
言われたことをイメージして詠唱を始める。
詠唱途中も「うん、もっと薄く、そうそう」と細かくお父様は指示をくれる。
両腕の間の空間を包むように、自分を囲うように、広げていく……。
――――……できた……?
「うん、さすがレヴィ。じゃあ目をつむって、この手の間にイグニス君、手を入れてみてくれないかな」
言われたとおりに、眼を瞑ると腕と腕の間に確かに何かがあるのが分かる。
「確かに…確かに感じますわ」
「じゃあ次はガレン君も手を入れてみてくれないか」
「さっきのイグニスと……ちがう……?」
「そこまでわかれば完璧だ。そう、マナの色みたいなものは人によって違う。だから君たちが近づいてきたのが分かったってことだよ」
「っかー……。いやすげぇな……」
イグニスが天を仰ぎながらそんな声をあげた。
「俺様もある程度知ったつもりだったけどまだまだ知らないことたくさんあるんだなぁ……」
「まぁこれはアイザリウムが発明した魔法だからまだ体系化された教本とかには載っていないからね」
「アイザリウム……ってアルドリックさんと同じ三賢者の?」
「そうだよ。だからこの魔法の使い手はアイザリウムと私と、これでレヴィの3人になったという訳だね」
「いえ、わたくしはこれを半径10kmなんて想像もできませんわ」
維持しようとしてみたが、ものの数秒で集中力の限界が来て魔力が霧散していってしまった。
「まだ知られてない魔法やアイテムはたくさんあるよ。今度機会があればアイザリウムに会ってみるといい。私なんかよりももっともっといろいろ詳しいから」
ーーー
昨日お父様が話していた連鎖魔法陣だろうか。でも私も知らないことをなんで反乱軍が?
それにお父様にはマナ感知がある。それを掻い潜るなんて可能なんだろうか?
それとも分かっていて見逃した……?
でも、こうして魔法を使っている今であれば敵の位置を正確に把握して攻撃できるはずだ。
だから正確な場所が分かるようになるまで泳がせて、それからサンダーボルトやライトニングチェインで攻撃するという意図があったのだろうか。
お父様が手のひらをこちらに向けて魔法を――――
「――――やっぱりっ!!!」
お父様が魔法を発動する刹那、私は「妖精の音符」を発動させた。
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