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テンペトゥス・ノクテム
風に乗せる生の賛歌
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「本当にそんな子がいたんですか……?」
全てを聞いたナタリーは信じられないといった様子で言った。
「ええ、これがミールエンナ・スカイメロディーって名前の女の子、私たちが大好きなミーナのお話」
ナタリーとマリウスに、いつも笑顔で笑って物知りでムードメーカーだったミーナの事を話した。
ミーナのことを覚えていないナタリーを見るのが怖くて先延ばしにしてしまった結果がこれだ。あんなにたくさんの思い出を言葉で伝えるなんてできなかったけど、それでもきっとほんの少しは伝わったと思う。
「今まで黙っていて本当にごめんなさい」
私は頭を下げて謝る。
やがて最初に口を開いたのはマリウスだった。
「なるほどな……。確かに言われてみれば思い当たる節があるな。だがまさかそんな事になっていたとは……」
「……ごめんね、二人とも。私もなんていったらいいかわからなくて」
私が謝ると、マリウスは気にするなと言って首を横に振った。
「私……本当に……その子と……?」
やっぱりナタリーは混乱しているようだった。
学校に入って一番仲が良かった、自分の親友を忘れていると言われて誰が信じるだろうか?
「うん。本当。それに今ナタリーが握りしめてるリボンもミーナが気に入ってつけていたものよ。そしてさっき話した通りこのイヤリングも」
それを聞いて彼女の手の中にあるリボンを見つめるナタリー。
「私……やっぱり思い出せない……なにも……なんにも……」
「でも、作り話じゃない、本当の話よ」
ナタリーは1分ほど目をつむり、そして何かを決心したようにゆっくりと目を開けて、リボンをぎゅっと握った。
「不思議だったことがたくさんあったんですけど、ようやく納得いきました。ありがとうございます。ミーナさん」
それはまるで自分自身に言い聞かせるかのように、一言一言を噛みしめるように、そして大切にするようにナタリーははっきりと言った。
「それに、ナディア先生はナタリーの身代わりになって死んだわけじゃないわ。あの夜ちゃんと伝えなくて、変な心配をさせてごめんなさい」
「いえ、私もちゃんと確認しませんでしたから、そんなに謝らないでください」
ナタリーは笑顔を浮かべる。
「でも……どうしてレヴィアナだけそのミーナという子の事を覚えているんだ?」
回答する答えは持っていたが、その答えを口にすることはできなかった。
もしそれを説明するとしたらきっと「あなたたちはゲームの中のキャラクター」という事を伝えないといけない。
私の口からそんな事を伝えることは出来なかった。
「……これはあくまで私の予想だけど、私の魔力量が多いから私だけミーナに関する記憶を失わずに済んだのかもしれない」
私の答えを聞いて考え込む二人だったが、ナタリーが口を開いた。
「私ももっと師匠みたいに強かったら、そのミーナさんの事もずっと忘れないでいられたのでしょうか……」
「ち、ちがっ、そんなつもりで言ったわけじゃ」
「ふふっ。冗談ですよ」
そう言ってナタリーは笑った。無理していることは明らかだったけど、きっと私たちのことを思ってのことだろう。
「ま、なんにせよ、今度はこんな無茶をしないでくれよ」
「本当ですわよ?マリウスってばわたくしに会うなり『ナタリーが危ないかもしれない!』って真っ青な顔で言うんですもの」
「お、おい!そんな真っ青な顔なんてしていないだろう!」
「いーえ、わたくしも初めて見た顔でしたわよ?」
「も、もういいだろう!その話は!」
恥ずかしそうにそっぽを向くマリウス。そんな様子を見てナタリーが笑う。
「……私……、本当にこの学園に来てよかったです」
ナタリーが空を見上げて言った。
「師匠以外の人と、それも同年代の人とこんな風にずっと話したことがなかったから、本当は入学するのも怖かったんですけど、今は本当に来てよかったって思ってます」
そう言って彼女は手の中のリボンを月明かりに照らして眺める。
「私……決めました」
ナタリーのその声はしっかりとしていた。
「何をですの?」
「私、ナタリー・グレイシャルソングは、今からナタリー・スカイメロディーになります」
突然の宣言に呆気にとられる私たち。しかしナタリーの顔はとても晴れやかだった。
「前に師匠から名前をもらったって言っていませんでしたの?よいのですか?」
「はい。きっと私がこうして今、マリウスさんやレヴィアナさんたちと仲良くできているのもミーナさんのおかげですし、こうすればもう絶対に忘れないと思いますから」
そう言って彼女は笑って見せる。きっとナタリーなりに考えて、結論を出した答えなんだろう。
「うん……いいと思う」
「そうだな、俺もそれがいいと思う」
「じゃあ、改めてよろしくお願いしますね!レヴィアナさん……マリウスさん!」
ナタリーがそう言って手を差し出してきた。
「もちろんよ!よろしく」
すぐに手を取った私と対照的に、マリウスは少しだけ考え、ナタリーの目をまっすぐに見つめて口を開いた。
「その代わり条件がある」
「条件……ですか?」
「あぁ。何か困ったら必ず俺に伝えてくれ。何があっても、何を差し置いてでも力になるから」
マリウスの言葉を聞いてナタリーは顔を赤らめる。
「マリウス?それさっきも聞きましたわよ?」
「いや、ナタリーには何度も言わないとだめだ」
そう言い切り、手をナタリーに差し伸べたままのマリウス。
「どんな面倒なことでも……いいんですか?」
「あぁ、俺は君のためなら『何でもできる天才』になろう」
ナタリーはそんなマリウスを数秒見つめたあと、嬉しそうな顔で彼の手を取った。
「はい!よろしくお願いしますね!」
「……でも……逆に俺に何かあってもナタリーが助けてくれるか?」
「もちろんですよ!」
ナタリーはまるでミーナのような満面の笑顔を浮かべて即答する。マリウスも同じように嬉しそうに笑顔を浮かべるのだった。
全てを聞いたナタリーは信じられないといった様子で言った。
「ええ、これがミールエンナ・スカイメロディーって名前の女の子、私たちが大好きなミーナのお話」
ナタリーとマリウスに、いつも笑顔で笑って物知りでムードメーカーだったミーナの事を話した。
ミーナのことを覚えていないナタリーを見るのが怖くて先延ばしにしてしまった結果がこれだ。あんなにたくさんの思い出を言葉で伝えるなんてできなかったけど、それでもきっとほんの少しは伝わったと思う。
「今まで黙っていて本当にごめんなさい」
私は頭を下げて謝る。
やがて最初に口を開いたのはマリウスだった。
「なるほどな……。確かに言われてみれば思い当たる節があるな。だがまさかそんな事になっていたとは……」
「……ごめんね、二人とも。私もなんていったらいいかわからなくて」
私が謝ると、マリウスは気にするなと言って首を横に振った。
「私……本当に……その子と……?」
やっぱりナタリーは混乱しているようだった。
学校に入って一番仲が良かった、自分の親友を忘れていると言われて誰が信じるだろうか?
「うん。本当。それに今ナタリーが握りしめてるリボンもミーナが気に入ってつけていたものよ。そしてさっき話した通りこのイヤリングも」
それを聞いて彼女の手の中にあるリボンを見つめるナタリー。
「私……やっぱり思い出せない……なにも……なんにも……」
「でも、作り話じゃない、本当の話よ」
ナタリーは1分ほど目をつむり、そして何かを決心したようにゆっくりと目を開けて、リボンをぎゅっと握った。
「不思議だったことがたくさんあったんですけど、ようやく納得いきました。ありがとうございます。ミーナさん」
それはまるで自分自身に言い聞かせるかのように、一言一言を噛みしめるように、そして大切にするようにナタリーははっきりと言った。
「それに、ナディア先生はナタリーの身代わりになって死んだわけじゃないわ。あの夜ちゃんと伝えなくて、変な心配をさせてごめんなさい」
「いえ、私もちゃんと確認しませんでしたから、そんなに謝らないでください」
ナタリーは笑顔を浮かべる。
「でも……どうしてレヴィアナだけそのミーナという子の事を覚えているんだ?」
回答する答えは持っていたが、その答えを口にすることはできなかった。
もしそれを説明するとしたらきっと「あなたたちはゲームの中のキャラクター」という事を伝えないといけない。
私の口からそんな事を伝えることは出来なかった。
「……これはあくまで私の予想だけど、私の魔力量が多いから私だけミーナに関する記憶を失わずに済んだのかもしれない」
私の答えを聞いて考え込む二人だったが、ナタリーが口を開いた。
「私ももっと師匠みたいに強かったら、そのミーナさんの事もずっと忘れないでいられたのでしょうか……」
「ち、ちがっ、そんなつもりで言ったわけじゃ」
「ふふっ。冗談ですよ」
そう言ってナタリーは笑った。無理していることは明らかだったけど、きっと私たちのことを思ってのことだろう。
「ま、なんにせよ、今度はこんな無茶をしないでくれよ」
「本当ですわよ?マリウスってばわたくしに会うなり『ナタリーが危ないかもしれない!』って真っ青な顔で言うんですもの」
「お、おい!そんな真っ青な顔なんてしていないだろう!」
「いーえ、わたくしも初めて見た顔でしたわよ?」
「も、もういいだろう!その話は!」
恥ずかしそうにそっぽを向くマリウス。そんな様子を見てナタリーが笑う。
「……私……、本当にこの学園に来てよかったです」
ナタリーが空を見上げて言った。
「師匠以外の人と、それも同年代の人とこんな風にずっと話したことがなかったから、本当は入学するのも怖かったんですけど、今は本当に来てよかったって思ってます」
そう言って彼女は手の中のリボンを月明かりに照らして眺める。
「私……決めました」
ナタリーのその声はしっかりとしていた。
「何をですの?」
「私、ナタリー・グレイシャルソングは、今からナタリー・スカイメロディーになります」
突然の宣言に呆気にとられる私たち。しかしナタリーの顔はとても晴れやかだった。
「前に師匠から名前をもらったって言っていませんでしたの?よいのですか?」
「はい。きっと私がこうして今、マリウスさんやレヴィアナさんたちと仲良くできているのもミーナさんのおかげですし、こうすればもう絶対に忘れないと思いますから」
そう言って彼女は笑って見せる。きっとナタリーなりに考えて、結論を出した答えなんだろう。
「うん……いいと思う」
「そうだな、俺もそれがいいと思う」
「じゃあ、改めてよろしくお願いしますね!レヴィアナさん……マリウスさん!」
ナタリーがそう言って手を差し出してきた。
「もちろんよ!よろしく」
すぐに手を取った私と対照的に、マリウスは少しだけ考え、ナタリーの目をまっすぐに見つめて口を開いた。
「その代わり条件がある」
「条件……ですか?」
「あぁ。何か困ったら必ず俺に伝えてくれ。何があっても、何を差し置いてでも力になるから」
マリウスの言葉を聞いてナタリーは顔を赤らめる。
「マリウス?それさっきも聞きましたわよ?」
「いや、ナタリーには何度も言わないとだめだ」
そう言い切り、手をナタリーに差し伸べたままのマリウス。
「どんな面倒なことでも……いいんですか?」
「あぁ、俺は君のためなら『何でもできる天才』になろう」
ナタリーはそんなマリウスを数秒見つめたあと、嬉しそうな顔で彼の手を取った。
「はい!よろしくお願いしますね!」
「……でも……逆に俺に何かあってもナタリーが助けてくれるか?」
「もちろんですよ!」
ナタリーはまるでミーナのような満面の笑顔を浮かべて即答する。マリウスも同じように嬉しそうに笑顔を浮かべるのだった。
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