悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

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舞踏会

舞踏会前日_1

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「んーっ!」

窓から差し込むまぶしい太陽に思わず目を細める。
大きく伸びをすると、体中の関節という関節がポキポキと鳴った。

まだ待ち合わせ時間には早いけど、このままもう一度寝たらなんだかお昼まで寝てしまいそうだからのそのそ起き上がり湯船にお湯を張りに行く。

「ねむ……」

欠伸を嚙み殺しながらお風呂場でパジャマを脱ぐ。
昨夜眠い目をこすりながら、現時点でわかっていることを書き出してみたけど、やっぱり新しいことは何一つわからなかった。
この世界に来てから「わからない」ことが多すぎて、もう何がわかってて、何がわからないのかすらわからなくなってきた。

「まぁ……でも……」

湯船につかると自慢の長い髪がお湯に広がっていき、そしてゆらゆらと揺れる。ふわふわとゆらゆらと、そして時に沈み、時にうねりながら。

「何とかするしかないわよね」

一度湯船に頭まで潜り、そして勢いよくお湯から飛び出す。

「よし!今日も頑張りますか!」

パンッと自分の頬を叩いて気合を入れる。今日はいろいろ楽しみなイベントも目白押しだった。

***

「おはようございます」

いつもの時間にいつもと同じノック。
久しぶりのいつもはとてもうれしい。

「おはようございますわ、ナタリー。あら、イヤリング」
「はい、レヴィアナさんとおそろいですね」

ナタリーの両耳にはミーナとの思い出のイヤリングがついていた。

「それで?マリウスとは手くらいはつないだんですの?」
「ひゃえっ!?へ?何のことですか!?」

急に変な声を上げたかと思うと、きょろきょろと挙動不審になりながらナタリーの顔が真っ赤に染まっていく。

「ほら、一緒に寮に戻ったわけじゃありませんか?2人きりの夜の森だったし、何かあったのかな?とおもいまして」
「み、見てたんですか!?」
「あはは、そんなことしませんわ。でもそうですか、手は繋いだのですか。あのナタリーが」
「うぅ……見事な誘導ですね……っ」

ナタリーが真っ赤な顔で恨めしそうにこちらを見ている。

「もしかして、一緒のベッドでお休みになられたとか?」
「そ、そんなことしません!そ、それにマリウスさんもお疲れでしたし、私もすぐ部屋に戻って寝ました!」
「えぇ本当ですの?」
「ほんとです!」

顔を真っ赤にしながら反論するナタリー。まったくからかいがいがあって楽しい親友だこと。

「そっか、じゃあまだわたくしにもチャンスはありますわね!」
「ちょ、……へ?レヴィアナさん?」
「なんといってもわたくしはマリウスとは幼馴染ですからね!」
「そ、そうですけど、そうですけど!」
「何度もわたくしの家にも遊びに来ていますし、お父様だってマリウスの事よく知っておりますしー……」
「で、でも、でも、ほら、そしたらイグニスさんやガレンさんだって……!」

震える声でナタリーが必死に反論してくる。動揺からか、くるくると表情をかえながら、忙しなく両手を振る。

「ぷっ……あはは、申し訳ありませんわ」

あまりの狼狽ぶりに思わず吹き出してしまった。ナタリーの頭をポンポンと撫でながらなだめる。

「ナタリーがかわいいのでつい」
「……もー!怒りますよ!」

耳まで真っ赤なナタリーがバシバシと私を叩く。

「ごめんなさい、ほら、ねぇ?」
「もう知りません!」

そう言ってそっぽを向いてしまう。

「ごめんってば、ね?機嫌直してよ?」
「知りません!」

ナタリーの機嫌は結局、一緒に教室につくまで続いた。
教室につくとナタリーはこちらを振り向き、下を向いたままぽそっとつぶやいた。

「反省してますか?」
「反省してますわよ」

そしてナタリーは満面の笑みを浮かべた。

「じゃ、今日の放課後、一緒に買い物に行きましょう?」

***

「みんなが頑張ってくれたおかげで今年は例年より盛大に舞踏会ができそうだ」

教室でセオドア先生が嬉しそうにそう話す。

「前から伝えていた通り、明日は夕方からボール・ルームで舞踏会を行う。正装は準備できているか? もしまだなら、今日中にドレスルームから選んでおくか、シルフィード広場で探してくるんだぞ」

クラス中が浮ついた空気に包まれ、ざわざわと騒ぎだす。

「じゃあ今日はこれで終わりだ。明日からは授業も休みだから羽を伸ばすのはいいが、羽目を外しすぎない様にな」

そう言ってセオドア先生は教室から出て行った。

「いやー、お前たちはいいよなぁ」
「何がだ?」
「昔から正装なんて着慣れてるんだろ?俺なんて心配でさ」
「まぁ貴族間のパーティも結構出てるからな。慣れていると言えば慣れてるな」
「だよなぁ……!俺は心配だよ。結局テンペトゥス・ノクテムとの準備でろくにダンスの練習もできなかったしな」

ノーランとイグニスがそんな会話を交わしていた。

「で?レヴィアナはどうなんだよ?」
「何がですの?」
「ダンス。お前踊れんのか?」

ノーランがにやにやしながら聞いてくる。

「知らないかもしんねーけど、レヴィアナのダンスと言えばちょっとしたもんだぞ?」

イグニスがそう続ける。

「ふーん?そうなんだ?」
「何よ」
「じゃあ舞踏会のダンスは期待していいな!」

ノーランがわざとらしくそんな反応を返す。

「も、もちろんですわ!楽しみにしていてくださいませ」

そう言って胸を張って見せる。別にこの二人に言われるまで自分が踊れないことを忘れていたわけではない。
忘れてたわけではないし、舞踏会なんだから当然踊ることも覚えていたけど、え、本当にどうしよう。そういえば踊ったことなんてないじゃない。

「あ、あの、生徒会の皆さん!」

ほかのクラスの子が教室に入ってきた。

「あ、あの!ちょっといいですか?手伝ってほしいことがありまして」
「あら、何かしら、いいわよ」

ちょうど逃げる口実、いや、どうするか考える時間が欲しかったところだったから渡りに船だった。

「ありがとうございます!実はですね……」

そそくさと席から立ちあがりその子と2人で教室を出ようとした。

「あ、俺も行くよ」

そういいながらノーランも後をついてきた。

「何しについてくるのよ」
「ま、いーからいーから」
「わたくしがいれば十分よ」
「いや、ほら!俺もこう見えて生徒会の端くれだぜ?何か手伝えることがあるかもしれないじゃん?」

そうしてバタバタと3人で教室を出ていくことになった。


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