悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
93 / 143
舞踏会

舞踏会前日_1

しおりを挟む
「んーっ!」

窓から差し込むまぶしい太陽に思わず目を細める。
大きく伸びをすると、体中の関節という関節がポキポキと鳴った。

まだ待ち合わせ時間には早いけど、このままもう一度寝たらなんだかお昼まで寝てしまいそうだからのそのそ起き上がり湯船にお湯を張りに行く。

「ねむ……」

欠伸を嚙み殺しながらお風呂場でパジャマを脱ぐ。
昨夜眠い目をこすりながら、現時点でわかっていることを書き出してみたけど、やっぱり新しいことは何一つわからなかった。
この世界に来てから「わからない」ことが多すぎて、もう何がわかってて、何がわからないのかすらわからなくなってきた。

「まぁ……でも……」

湯船につかると自慢の長い髪がお湯に広がっていき、そしてゆらゆらと揺れる。ふわふわとゆらゆらと、そして時に沈み、時にうねりながら。

「何とかするしかないわよね」

一度湯船に頭まで潜り、そして勢いよくお湯から飛び出す。

「よし!今日も頑張りますか!」

パンッと自分の頬を叩いて気合を入れる。今日はいろいろ楽しみなイベントも目白押しだった。

***

「おはようございます」

いつもの時間にいつもと同じノック。
久しぶりのいつもはとてもうれしい。

「おはようございますわ、ナタリー。あら、イヤリング」
「はい、レヴィアナさんとおそろいですね」

ナタリーの両耳にはミーナとの思い出のイヤリングがついていた。

「それで?マリウスとは手くらいはつないだんですの?」
「ひゃえっ!?へ?何のことですか!?」

急に変な声を上げたかと思うと、きょろきょろと挙動不審になりながらナタリーの顔が真っ赤に染まっていく。

「ほら、一緒に寮に戻ったわけじゃありませんか?2人きりの夜の森だったし、何かあったのかな?とおもいまして」
「み、見てたんですか!?」
「あはは、そんなことしませんわ。でもそうですか、手は繋いだのですか。あのナタリーが」
「うぅ……見事な誘導ですね……っ」

ナタリーが真っ赤な顔で恨めしそうにこちらを見ている。

「もしかして、一緒のベッドでお休みになられたとか?」
「そ、そんなことしません!そ、それにマリウスさんもお疲れでしたし、私もすぐ部屋に戻って寝ました!」
「えぇ本当ですの?」
「ほんとです!」

顔を真っ赤にしながら反論するナタリー。まったくからかいがいがあって楽しい親友だこと。

「そっか、じゃあまだわたくしにもチャンスはありますわね!」
「ちょ、……へ?レヴィアナさん?」
「なんといってもわたくしはマリウスとは幼馴染ですからね!」
「そ、そうですけど、そうですけど!」
「何度もわたくしの家にも遊びに来ていますし、お父様だってマリウスの事よく知っておりますしー……」
「で、でも、でも、ほら、そしたらイグニスさんやガレンさんだって……!」

震える声でナタリーが必死に反論してくる。動揺からか、くるくると表情をかえながら、忙しなく両手を振る。

「ぷっ……あはは、申し訳ありませんわ」

あまりの狼狽ぶりに思わず吹き出してしまった。ナタリーの頭をポンポンと撫でながらなだめる。

「ナタリーがかわいいのでつい」
「……もー!怒りますよ!」

耳まで真っ赤なナタリーがバシバシと私を叩く。

「ごめんなさい、ほら、ねぇ?」
「もう知りません!」

そう言ってそっぽを向いてしまう。

「ごめんってば、ね?機嫌直してよ?」
「知りません!」

ナタリーの機嫌は結局、一緒に教室につくまで続いた。
教室につくとナタリーはこちらを振り向き、下を向いたままぽそっとつぶやいた。

「反省してますか?」
「反省してますわよ」

そしてナタリーは満面の笑みを浮かべた。

「じゃ、今日の放課後、一緒に買い物に行きましょう?」

***

「みんなが頑張ってくれたおかげで今年は例年より盛大に舞踏会ができそうだ」

教室でセオドア先生が嬉しそうにそう話す。

「前から伝えていた通り、明日は夕方からボール・ルームで舞踏会を行う。正装は準備できているか? もしまだなら、今日中にドレスルームから選んでおくか、シルフィード広場で探してくるんだぞ」

クラス中が浮ついた空気に包まれ、ざわざわと騒ぎだす。

「じゃあ今日はこれで終わりだ。明日からは授業も休みだから羽を伸ばすのはいいが、羽目を外しすぎない様にな」

そう言ってセオドア先生は教室から出て行った。

「いやー、お前たちはいいよなぁ」
「何がだ?」
「昔から正装なんて着慣れてるんだろ?俺なんて心配でさ」
「まぁ貴族間のパーティも結構出てるからな。慣れていると言えば慣れてるな」
「だよなぁ……!俺は心配だよ。結局テンペトゥス・ノクテムとの準備でろくにダンスの練習もできなかったしな」

ノーランとイグニスがそんな会話を交わしていた。

「で?レヴィアナはどうなんだよ?」
「何がですの?」
「ダンス。お前踊れんのか?」

ノーランがにやにやしながら聞いてくる。

「知らないかもしんねーけど、レヴィアナのダンスと言えばちょっとしたもんだぞ?」

イグニスがそう続ける。

「ふーん?そうなんだ?」
「何よ」
「じゃあ舞踏会のダンスは期待していいな!」

ノーランがわざとらしくそんな反応を返す。

「も、もちろんですわ!楽しみにしていてくださいませ」

そう言って胸を張って見せる。別にこの二人に言われるまで自分が踊れないことを忘れていたわけではない。
忘れてたわけではないし、舞踏会なんだから当然踊ることも覚えていたけど、え、本当にどうしよう。そういえば踊ったことなんてないじゃない。

「あ、あの、生徒会の皆さん!」

ほかのクラスの子が教室に入ってきた。

「あ、あの!ちょっといいですか?手伝ってほしいことがありまして」
「あら、何かしら、いいわよ」

ちょうど逃げる口実、いや、どうするか考える時間が欲しかったところだったから渡りに船だった。

「ありがとうございます!実はですね……」

そそくさと席から立ちあがりその子と2人で教室を出ようとした。

「あ、俺も行くよ」

そういいながらノーランも後をついてきた。

「何しについてくるのよ」
「ま、いーからいーから」
「わたくしがいれば十分よ」
「いや、ほら!俺もこう見えて生徒会の端くれだぜ?何か手伝えることがあるかもしれないじゃん?」

そうしてバタバタと3人で教室を出ていくことになった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...