103 / 143
舞踏会
約束された敗北
しおりを挟む
(うん、この様子だと鉢合わせないで済みそうだね)
アルドリックはレヴィアナが去っていったほうをしばらくじっと見つめていた。
ちゃんと寮に向かって歩いて行っている。もしかしたら行動力のある彼女がまた何かしないか不安ではあったが杞憂に終わったようで一安心だ。
「そういえばこれをするのも久しぶりだね」
指先に魔力を圧縮した球を作り出すと、それを両の掌で転がしながら、先ほど去っていった彼女の事を思い出す。
「もう少しちゃんと話してみたかったけど、あんまり鬱陶しい父親っぽくなってもあれだしね」
徐々に球は大きくなっていき、初めは爪の先ほどだった大きさの玉も掌に収まりきらないほどのサイズまで大きくなる。
大きく息を吐くと、アルドリックは魔力の球を空高く放り投げた。
「うん、久しぶりでこれなら上出来かな」
自由落下するように舞い降りてきた魔力の球をそっと手に取ると、アルドリックは満足そうに微笑んだ。
「さて、そろそろ出てきたらどうだい?」
暗闇に声をかけると、ローブで全身を包んだ人物が姿を現した。
「なぜ俺がいることが分かった?」
「いやぁ、ほら、私、探知とか得意なんだよね。ほら、もうちょっとあっちに行こうか」
アルドリックはそのまま寮と反対側の森の奥へと歩き始める。
「ほら、君もおいでよ。この場所が焼け野原になってしまうのは心苦しくてね」
「……」
少し離れたところにいたもう一人のローブの人物は、無言でアルドリックの後ろをついて歩く。
「どうしてここに、とか聞かないのか?」
「君は変なことを聞くんだね。君は私のことを殺しに来たんだろう?」
「……。それを知っていて何故?」
「何故って?」
「何故逃げなかった?」
「君がそれを聞くのかい?結構残酷なんだね、君も。それとも、優しさからだったりするのかな?」
アルドリックはおかしそうにくすくすと笑いながら森を奥へと進む。
「あの屋敷はあの子が一生懸命守った家だからね、きれいな状態のまま次のステージに渡したいんだ」
「ステージ……だと……?」
「そう。それに君もセレスティアル・アカデミーは”まだ”壊したくないはずだ」
「お前……本当にどこまで……?……お前は登場人物の分際で知りすぎたようだ」
もう一人のローブの人物は怒りをあらわにしながらそうつぶやく。
だがアルドリックはそんな様子を気にも留めずに話を続ける。
「んー、もう少し離れようか。きっとあの子には祈る場所、悲しむためのこの場所が必要だろうから」
「何を言って……きゃっ!?」
アルドリックが風のように舞い、ローブの人物に襲い掛かる。高威力で圧縮した魔力の塊をそのままぶつけ、思い切り弾き飛ばす。
ローブの人物は宙を舞い、そのまま地面にたたきつけられたようだった。
「うん、でもきっと君は無事なんだろうね」
アルドリックも同じように宙を舞い、ローブの人物の前にふわりと舞い降りる。
「……当たり前だ。俺のことを知ってると思ったがまだそこまで理解していないのか?」
あれほど高所から地面にたたきつけられたのに、何事もなかったように立ち上がるとローブの人物はそう答えた。
「ははは、一応知っているつもりだよ。それよりもそんな質問をするなんて、君のほうこそ【三賢者】という言葉の意味するところを知らないようだね?」
「……」
「いや、むしろ知らないふりをしたがっているのかな?ま、いいか。私も今までずっと諦めてきたんだけど、あの子のおかげで少しだけあがいてみようかなと思ったんだ」
アルドリックは少しずつローブの人物との距離を詰めていく。それに伴って何かの気圧されたかのようにローブの人物も一歩ずつ後ずさった。
「例えばこういったのはどうだろう?天空に渦巻く雷雲よ、我が力に応えて轟け!稲妻の竜巻、サンダーストーム!!」
アルドリックが掌をローブの人物に向けると、その手から巨大な魔力がうねりを上げながら放たれた。
「くっ……!」
ローブの人物はそのまぶしさから顔を隠し、アルドリックの魔法を受ける。
しかしその途方もない雷魔法も、ローブの人物に触れた瞬間きれいに四散して消えていく。
「いくらお前が強力な魔法を使う三賢者だとしても、俺にはお前たちの攻撃は通用しない」
「まぁ、そうみたいだね。でも今目を覆ったってことは私が発した光くらいは見えるらしい」
そういうと今度は無詠唱のサンダーボルトをローブの人物の顔めがけて放つ。
「くっ!小癪な真似を……っ!」
「これはどうだい?」
アルドリックは目くらましをしている間に、高速で回り込み足払いを仕掛けた。
「なるほどなるほど。強力な結界が張ってある感じかな?」
アルドリックの足払いはローブの人物までもう少しというところで止まっていた。
ローブの人物はすかさず剣を抜き、アルドリックに向かって切り付ける。しかし、その剣筋が見えていたかのように軽々とそれをよけるとアルドリックはそのまま距離をとった。
すかさず追撃のヒートスパイクが飛んでくるが、アルドリックは躱し、時に相殺しながらいとも簡単にやり過ごした。
「本当に攻撃が無効化されているんじゃなくてよかったよかった」
「それがどうした。俺に攻撃が届かないことには何も変わりはないだろう」
「無効と結界じゃ大違いさ。結界を張るってことはそこには何かしらの弱点があるってことだからね」
「いくらお前の攻撃が強くても、俺の結界は破れない!一方的に俺が攻撃するだけだ!フレアバーストっ!!」
ローブの人物はそういうと、魔力が凝縮された球体をアルドリックの足元に打ち込んだ。その衝撃で地面が爆ぜ、あたりに炎が舞い上がる。
「それに君の魔法は私の防御魔法でも守れるみたいだ。これならむかーし戦ったテンペトゥス・ノクテムの変異体のほうが幾分戦い辛かったかな」
アルドリックは舞う炎など気にも留めず、ローブの人物と会話を続ける。
「弾き飛ばすことはできるみたいだし、このまま遥か遠方まで弾き飛ばし続けるというのも一興かもしれないね」
「……」
「なーんて。ライトニングチェイン!」
アルドリックがそう唱えると地面が一気に爆ぜた。巻き上がった土砂が一斉にローブの人物に襲い掛かり、そのままローブの人物を押しつぶした。
「一応これくらい準備はしておいたけど、どうなったかな?」
アルドリックは土ぼこりの中をじっと見つめる。ただアルドリックも当然警戒は緩めない。それどころか次の詠唱の準備もしているようだった。
「あらら、まぁそうだよねぇ」
目の前の地面がカッっと光を放ち、一瞬で消失した。中央には土埃一つついていないローブの人物が立っていた。
手には黄金に輝く巨大な杖が握られている。
「なるほど、それがディヴィニティ・エンブレイスかい?」
「……もう今更驚かんと思っていたが、この【創造主の杖】も知っているなんて、本当に何者なんだ?」
「君と同じだったりして」
「そういう冗談は嫌いだ。そして、さようなら」
ローブの人物はそう言うと、持っていた杖を天に掲げた。杖から目にもとまらぬ速さで幾重もの光線がアルドリックに襲い掛かる。
―――そして、その攻撃をアルドリックは躱した。
「なっ……!?」
「まぁ確かに速いけど、それでも戦場を縦横無尽に駆け回り【魔王】とだけ呼ばれた私に当てるには、まだまだ足りないかな?」
アルドリックはそういうとローブの人物に掌を向け魔法を唱えた。
「私もささやかながら【雷の極光】と呼ばれたことがあるんでね、君の障壁を破れないか試してみよう」
そういうとアルドリックは手のひらから魔法陣を展開し、ローブの人物に向かって魔力を放出した。
「星々の嵐よ、我が力と共鳴し、雷鳴を轟かせろ!稲妻と嵐の融合、ヴォルテックテンペスト!!!」
「くっ……!!」
アルドリックが詠唱を終えた瞬間、あたり一帯に嵐が巻き起こり、まるで雷の竜のごとくうなりをあげながらローブの人物に向かって襲い掛かった。
地面はえぐれ木々は吹き飛び、森を一瞬にして荒野へと変貌させるほどだった。しかしそんな強力な魔法を受けてもなおローブの人物はその場に立っていた。
「はっ……ははっ……すごい、すごいよ!」
「ありがとう。じゃあもう一発だ!星々の嵐よ、我が力と共鳴し、雷鳴を轟かせろ!稲妻と嵐の融合、ヴォルテックテンペスト!!!」
「だから何度やっても……!」
「星々の嵐よ、我が力と共鳴し、雷鳴を轟かせろ!稲妻と嵐の融合、ヴォルテックテンペスト!!」
「っ!?どうしてこんな……!?」
ローブの人物は何度もヴォルテックテンペストを受け、膝をつく。攻撃自体は結界で防ぐことができたものの、あまりの衝撃に立っているのもやっとだった。
「くっ!ディヴィニティ・エンブレイス!!!」
次々に迫りくるヴォルテックテンペストに合わせて、ローブの人物は杖を天に掲げて再び光線をアルドリックの魔法に向けて放つ。
光はアルドリックの魔法を飲み込み、そのままアルドリックに向かって真っすぐ襲い掛かった。
「なるほど、なるほど。このくらいじゃ破れない……けど……、まぁ予想は当たってたかな?」
「何が予想だ!!この世界では俺が全てなんだ!!お前らごとき登場人物が邪魔をするな!」
「じゃあこれはどうだい?ヴォルテックテンペスト!!」
「それはもう見切った!」
今度はアルドリックが魔法を発動すると同時にローブの人物がディヴィニティ・エンブレイスを発動し相殺した。
「その強大な雷魔法は相手に直撃させるためにストリーマが発生する。タイミングがわかれば詠唱はもちろん無詠唱だろうが怖くない」
「ふっ」
「何がおかしい!!」
「いや、本当に申し訳ない。本当は君にもそうやってもっとこの世界を楽しんでほしかったんだけど」
「何を言っている……?」
「これは三賢者でもない、レヴィアナの父親としてでもない、ただの私の意見だよ」
「なんだ、いきなり……」
「私はね、思うんだ。強大な力は人を孤独にさせる。その力ゆえに恐れられ、恨まれ、疎まれる」
そのままアルドリックは独白に似た言葉を続けていく。
「そして、それならまだマシだね。何をしても恐れられず、恨まれず、疎まれない、そんな絶対的な力と恐怖を君はどう思う?」
「だから何を言って……」
「でも、それでももし、人はどんどん君から遠ざかっていかなかったら?怖いかい?それとも、もう怖くないかな?」
「そ、それは……」
ローブの人物はアルドリックの言葉を受け、怯えたような表情を浮かべた。そして次第に顔を歪ませていく。
「うるさい……!うるさい!うるさい!!」
ローブの人物はそう言うと再び杖を天に掲げた。
「この行為はレヴィアナに嫌がらせをするためだけの、ただの俺の憂さ晴らしだ。お前はそんな理由で消え去るような存在なんだよ!」
「そうかい。でもそれでいいんだ。私はそのために君と対峙しているんだから」
アルドリックはそういうと、天に掲げられた杖を見つめる。ローブの人物の周りに光が集まってくるのが視認できる。
「負け惜しみか!この最大出力のディヴィニティ・エンブレイスで塵も残さず消してやる!」
「雷の王座に君臨する嵐よ、我が命令を聞き入れよ!地の果てまで鳴り響け―――――」
(私ができるのはこの程度かな。あとは……)
「消え去れ!!!」」
「テラ・ボルティック・エクスプロージョン!!!!」
ローブの人物が放った光は一直線にアルドリックを貫いた。そして、アルドリックの放った魔法は、ローブの人物が持っているディヴィニティ・エンブレイスを的確に弾き飛ばし、彼方の空へと消えていった。
「はは……これでもうお前は終わりだ」
「うん、そうみたいだね。でも、これでいいんだよ」
貫かれたところからぱちぱちと音を立て、アルドリックの体は少しずつ消滅していっていた。
「強がりを……。いい気味だ、俺を怒らせるからだ」
ローブの人物は勝ち誇ったような笑みを浮かべそう言い放った。しかしアルドリックは何もなかったかのように話を続ける。
「大丈夫だよ。君はまだ誰も殺していないし、ただの登場人物がいなくなるだけだ」
「な……っ」
アルドリックがそういうと、ローブの人物は面食らったように口を開けたまま言葉を失う。
その様子を見たアルドリックはふっと笑うと空を見上げた。
「頑張っても、頑張らなくてもいいからね。ぜひこの世界を楽しんで―――レヴィ」
そう言い残して、アルドリックはローブの人物の前から、そしてこの世界から姿を消した。
アルドリックはレヴィアナが去っていったほうをしばらくじっと見つめていた。
ちゃんと寮に向かって歩いて行っている。もしかしたら行動力のある彼女がまた何かしないか不安ではあったが杞憂に終わったようで一安心だ。
「そういえばこれをするのも久しぶりだね」
指先に魔力を圧縮した球を作り出すと、それを両の掌で転がしながら、先ほど去っていった彼女の事を思い出す。
「もう少しちゃんと話してみたかったけど、あんまり鬱陶しい父親っぽくなってもあれだしね」
徐々に球は大きくなっていき、初めは爪の先ほどだった大きさの玉も掌に収まりきらないほどのサイズまで大きくなる。
大きく息を吐くと、アルドリックは魔力の球を空高く放り投げた。
「うん、久しぶりでこれなら上出来かな」
自由落下するように舞い降りてきた魔力の球をそっと手に取ると、アルドリックは満足そうに微笑んだ。
「さて、そろそろ出てきたらどうだい?」
暗闇に声をかけると、ローブで全身を包んだ人物が姿を現した。
「なぜ俺がいることが分かった?」
「いやぁ、ほら、私、探知とか得意なんだよね。ほら、もうちょっとあっちに行こうか」
アルドリックはそのまま寮と反対側の森の奥へと歩き始める。
「ほら、君もおいでよ。この場所が焼け野原になってしまうのは心苦しくてね」
「……」
少し離れたところにいたもう一人のローブの人物は、無言でアルドリックの後ろをついて歩く。
「どうしてここに、とか聞かないのか?」
「君は変なことを聞くんだね。君は私のことを殺しに来たんだろう?」
「……。それを知っていて何故?」
「何故って?」
「何故逃げなかった?」
「君がそれを聞くのかい?結構残酷なんだね、君も。それとも、優しさからだったりするのかな?」
アルドリックはおかしそうにくすくすと笑いながら森を奥へと進む。
「あの屋敷はあの子が一生懸命守った家だからね、きれいな状態のまま次のステージに渡したいんだ」
「ステージ……だと……?」
「そう。それに君もセレスティアル・アカデミーは”まだ”壊したくないはずだ」
「お前……本当にどこまで……?……お前は登場人物の分際で知りすぎたようだ」
もう一人のローブの人物は怒りをあらわにしながらそうつぶやく。
だがアルドリックはそんな様子を気にも留めずに話を続ける。
「んー、もう少し離れようか。きっとあの子には祈る場所、悲しむためのこの場所が必要だろうから」
「何を言って……きゃっ!?」
アルドリックが風のように舞い、ローブの人物に襲い掛かる。高威力で圧縮した魔力の塊をそのままぶつけ、思い切り弾き飛ばす。
ローブの人物は宙を舞い、そのまま地面にたたきつけられたようだった。
「うん、でもきっと君は無事なんだろうね」
アルドリックも同じように宙を舞い、ローブの人物の前にふわりと舞い降りる。
「……当たり前だ。俺のことを知ってると思ったがまだそこまで理解していないのか?」
あれほど高所から地面にたたきつけられたのに、何事もなかったように立ち上がるとローブの人物はそう答えた。
「ははは、一応知っているつもりだよ。それよりもそんな質問をするなんて、君のほうこそ【三賢者】という言葉の意味するところを知らないようだね?」
「……」
「いや、むしろ知らないふりをしたがっているのかな?ま、いいか。私も今までずっと諦めてきたんだけど、あの子のおかげで少しだけあがいてみようかなと思ったんだ」
アルドリックは少しずつローブの人物との距離を詰めていく。それに伴って何かの気圧されたかのようにローブの人物も一歩ずつ後ずさった。
「例えばこういったのはどうだろう?天空に渦巻く雷雲よ、我が力に応えて轟け!稲妻の竜巻、サンダーストーム!!」
アルドリックが掌をローブの人物に向けると、その手から巨大な魔力がうねりを上げながら放たれた。
「くっ……!」
ローブの人物はそのまぶしさから顔を隠し、アルドリックの魔法を受ける。
しかしその途方もない雷魔法も、ローブの人物に触れた瞬間きれいに四散して消えていく。
「いくらお前が強力な魔法を使う三賢者だとしても、俺にはお前たちの攻撃は通用しない」
「まぁ、そうみたいだね。でも今目を覆ったってことは私が発した光くらいは見えるらしい」
そういうと今度は無詠唱のサンダーボルトをローブの人物の顔めがけて放つ。
「くっ!小癪な真似を……っ!」
「これはどうだい?」
アルドリックは目くらましをしている間に、高速で回り込み足払いを仕掛けた。
「なるほどなるほど。強力な結界が張ってある感じかな?」
アルドリックの足払いはローブの人物までもう少しというところで止まっていた。
ローブの人物はすかさず剣を抜き、アルドリックに向かって切り付ける。しかし、その剣筋が見えていたかのように軽々とそれをよけるとアルドリックはそのまま距離をとった。
すかさず追撃のヒートスパイクが飛んでくるが、アルドリックは躱し、時に相殺しながらいとも簡単にやり過ごした。
「本当に攻撃が無効化されているんじゃなくてよかったよかった」
「それがどうした。俺に攻撃が届かないことには何も変わりはないだろう」
「無効と結界じゃ大違いさ。結界を張るってことはそこには何かしらの弱点があるってことだからね」
「いくらお前の攻撃が強くても、俺の結界は破れない!一方的に俺が攻撃するだけだ!フレアバーストっ!!」
ローブの人物はそういうと、魔力が凝縮された球体をアルドリックの足元に打ち込んだ。その衝撃で地面が爆ぜ、あたりに炎が舞い上がる。
「それに君の魔法は私の防御魔法でも守れるみたいだ。これならむかーし戦ったテンペトゥス・ノクテムの変異体のほうが幾分戦い辛かったかな」
アルドリックは舞う炎など気にも留めず、ローブの人物と会話を続ける。
「弾き飛ばすことはできるみたいだし、このまま遥か遠方まで弾き飛ばし続けるというのも一興かもしれないね」
「……」
「なーんて。ライトニングチェイン!」
アルドリックがそう唱えると地面が一気に爆ぜた。巻き上がった土砂が一斉にローブの人物に襲い掛かり、そのままローブの人物を押しつぶした。
「一応これくらい準備はしておいたけど、どうなったかな?」
アルドリックは土ぼこりの中をじっと見つめる。ただアルドリックも当然警戒は緩めない。それどころか次の詠唱の準備もしているようだった。
「あらら、まぁそうだよねぇ」
目の前の地面がカッっと光を放ち、一瞬で消失した。中央には土埃一つついていないローブの人物が立っていた。
手には黄金に輝く巨大な杖が握られている。
「なるほど、それがディヴィニティ・エンブレイスかい?」
「……もう今更驚かんと思っていたが、この【創造主の杖】も知っているなんて、本当に何者なんだ?」
「君と同じだったりして」
「そういう冗談は嫌いだ。そして、さようなら」
ローブの人物はそう言うと、持っていた杖を天に掲げた。杖から目にもとまらぬ速さで幾重もの光線がアルドリックに襲い掛かる。
―――そして、その攻撃をアルドリックは躱した。
「なっ……!?」
「まぁ確かに速いけど、それでも戦場を縦横無尽に駆け回り【魔王】とだけ呼ばれた私に当てるには、まだまだ足りないかな?」
アルドリックはそういうとローブの人物に掌を向け魔法を唱えた。
「私もささやかながら【雷の極光】と呼ばれたことがあるんでね、君の障壁を破れないか試してみよう」
そういうとアルドリックは手のひらから魔法陣を展開し、ローブの人物に向かって魔力を放出した。
「星々の嵐よ、我が力と共鳴し、雷鳴を轟かせろ!稲妻と嵐の融合、ヴォルテックテンペスト!!!」
「くっ……!!」
アルドリックが詠唱を終えた瞬間、あたり一帯に嵐が巻き起こり、まるで雷の竜のごとくうなりをあげながらローブの人物に向かって襲い掛かった。
地面はえぐれ木々は吹き飛び、森を一瞬にして荒野へと変貌させるほどだった。しかしそんな強力な魔法を受けてもなおローブの人物はその場に立っていた。
「はっ……ははっ……すごい、すごいよ!」
「ありがとう。じゃあもう一発だ!星々の嵐よ、我が力と共鳴し、雷鳴を轟かせろ!稲妻と嵐の融合、ヴォルテックテンペスト!!!」
「だから何度やっても……!」
「星々の嵐よ、我が力と共鳴し、雷鳴を轟かせろ!稲妻と嵐の融合、ヴォルテックテンペスト!!」
「っ!?どうしてこんな……!?」
ローブの人物は何度もヴォルテックテンペストを受け、膝をつく。攻撃自体は結界で防ぐことができたものの、あまりの衝撃に立っているのもやっとだった。
「くっ!ディヴィニティ・エンブレイス!!!」
次々に迫りくるヴォルテックテンペストに合わせて、ローブの人物は杖を天に掲げて再び光線をアルドリックの魔法に向けて放つ。
光はアルドリックの魔法を飲み込み、そのままアルドリックに向かって真っすぐ襲い掛かった。
「なるほど、なるほど。このくらいじゃ破れない……けど……、まぁ予想は当たってたかな?」
「何が予想だ!!この世界では俺が全てなんだ!!お前らごとき登場人物が邪魔をするな!」
「じゃあこれはどうだい?ヴォルテックテンペスト!!」
「それはもう見切った!」
今度はアルドリックが魔法を発動すると同時にローブの人物がディヴィニティ・エンブレイスを発動し相殺した。
「その強大な雷魔法は相手に直撃させるためにストリーマが発生する。タイミングがわかれば詠唱はもちろん無詠唱だろうが怖くない」
「ふっ」
「何がおかしい!!」
「いや、本当に申し訳ない。本当は君にもそうやってもっとこの世界を楽しんでほしかったんだけど」
「何を言っている……?」
「これは三賢者でもない、レヴィアナの父親としてでもない、ただの私の意見だよ」
「なんだ、いきなり……」
「私はね、思うんだ。強大な力は人を孤独にさせる。その力ゆえに恐れられ、恨まれ、疎まれる」
そのままアルドリックは独白に似た言葉を続けていく。
「そして、それならまだマシだね。何をしても恐れられず、恨まれず、疎まれない、そんな絶対的な力と恐怖を君はどう思う?」
「だから何を言って……」
「でも、それでももし、人はどんどん君から遠ざかっていかなかったら?怖いかい?それとも、もう怖くないかな?」
「そ、それは……」
ローブの人物はアルドリックの言葉を受け、怯えたような表情を浮かべた。そして次第に顔を歪ませていく。
「うるさい……!うるさい!うるさい!!」
ローブの人物はそう言うと再び杖を天に掲げた。
「この行為はレヴィアナに嫌がらせをするためだけの、ただの俺の憂さ晴らしだ。お前はそんな理由で消え去るような存在なんだよ!」
「そうかい。でもそれでいいんだ。私はそのために君と対峙しているんだから」
アルドリックはそういうと、天に掲げられた杖を見つめる。ローブの人物の周りに光が集まってくるのが視認できる。
「負け惜しみか!この最大出力のディヴィニティ・エンブレイスで塵も残さず消してやる!」
「雷の王座に君臨する嵐よ、我が命令を聞き入れよ!地の果てまで鳴り響け―――――」
(私ができるのはこの程度かな。あとは……)
「消え去れ!!!」」
「テラ・ボルティック・エクスプロージョン!!!!」
ローブの人物が放った光は一直線にアルドリックを貫いた。そして、アルドリックの放った魔法は、ローブの人物が持っているディヴィニティ・エンブレイスを的確に弾き飛ばし、彼方の空へと消えていった。
「はは……これでもうお前は終わりだ」
「うん、そうみたいだね。でも、これでいいんだよ」
貫かれたところからぱちぱちと音を立て、アルドリックの体は少しずつ消滅していっていた。
「強がりを……。いい気味だ、俺を怒らせるからだ」
ローブの人物は勝ち誇ったような笑みを浮かべそう言い放った。しかしアルドリックは何もなかったかのように話を続ける。
「大丈夫だよ。君はまだ誰も殺していないし、ただの登場人物がいなくなるだけだ」
「な……っ」
アルドリックがそういうと、ローブの人物は面食らったように口を開けたまま言葉を失う。
その様子を見たアルドリックはふっと笑うと空を見上げた。
「頑張っても、頑張らなくてもいいからね。ぜひこの世界を楽しんで―――レヴィ」
そう言い残して、アルドリックはローブの人物の前から、そしてこの世界から姿を消した。
2
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる