悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
120 / 143
物語の終わり、創造の始まり

この世界の中心_1

しおりを挟む
「はぁ……最近なにしてんだろ?」

生徒会室を見渡す。マリウスと目が合う。そしてその横のセシルとも目が合う。
実に良い笑顔をしていた。
ずっと見たかったはずの笑顔。2人の胸ポケットには【陽光の薔薇】がそれぞれ輝いている。

「生徒会もずいぶん減ったな」

3人になった部屋を見ながらつぶやく。もともとの人数から考えるとずいぶんと広くなったものだ。

「まぁ、そうだな」
「確かに。最近イグニスも、ガレンも、それにレヴィアナも見てないしね」
「……セシル。レヴィアナは関係ないだろ?」
「そう?僕としてはレヴィアナと最近戦ってないから――――」
「セシル、少し静かにして」
「はいはい、わかったってば」

頭の後ろで腕を交差させて、セシルは椅子に深く腰掛けた。

「セシル、お願いがあるの」
「ん?なんだい?」
「俺、今のでイラっとしたから、罰として校舎の周りを倒れるまで走っててくれない?」
「ん、わかったよ」

この一言でセシルは席から立ち上がり、生徒会室を出る。そしてその表情は実に晴れやかで、嬉しそうだった。

「えへへ、二人きりだ、マリウス」
「あぁ、そうだな」

2人で生徒会室に残り、セシルの出ていったドアを見つめる。

「ねぇ、俺の事抱きしめて」
「言われなくても」

手を広げてマリウスを迎え入れる。

「あは、マリウスの匂いだ」

マリウスの胸に顔をうずめて、大きく息を吸う。
そのままマリウスを抱きしめる手に力を籠めると、俺の背中に回された腕にも力が籠った。
――――俺がそうしてほしいと願ったように。

「……ん、ありがと」

マリウスから一歩離れると、寂しそうな顔をしてこっちを見つめる。

「あは……そんな顔しないでよ」

そうしてほしい、と願ったから?それともそういう設定をされているから?

「ま、どうでもいっか」

もう一度手を広げながらマリウスを呼ぶ。

「ん」

今度は素直に俺を抱きしめてくれた。

「アリシア何か企んでるのか?」
「どうしてそう思うんだ?」
「いや、特に根拠はないけど、なんか変な気がしてな」

マリウスは鋭い。当然だ。だって俺が大好きなマリウスなんだから。

「勘か?すごいね」

俺はマリウスに笑いかける。そしてもう一度、今度は俺の方から手を広げると、マリウスが俺を抱きしめた。

「俺はアリシアの事が好きだ。だからこうしているのは本当に嬉しい」
「うん。俺もマリウスの事好きだよ」
「アリシアが望むことなら、俺はなんだってする」
「ん、じゃあ、もうちょっと強く抱きしめて」
「わかった」

マリウスの抱きしめる力が強くなる。体が密着し、お互いの心音が聞こえるようだった。

「でもな、俺はやっぱりアリシアの事がわからない時がある。それに、本当にこんな事をしていていいのか、という気持ちにもなる」

ぽそっと耳元でマリウスが囁くのがくすぐったい。いや、くすぐったく感じる。

「すまない。変なことを言った。きっと俺が恋愛というものを理解していないからなんだろうな」

マリウスは俺を解放すると、困ったように笑った。
ほかの事を考えず、俺のことだけ考えろ、そんな言葉が口から出そうになった。

「まぁ、一緒に卒業式を迎えよう。それで一緒に卒業するんだ」
「あぁ。そうだな」
「ごめん、マリウス。後でセシルのところに行って許すからゆっくり休んでくれと伝えておいてくれ」
「ああ、わかった」

それだけ言い残して生徒会室を後にした。

***

(柚季はどこに行ったんだろ?)

廊下を一人歩きながらそんな事を考える。
セレスティアル・アカデミーは今日も相変わらず雑音を奏でている。時折顔のない何かが声をかけてくる。よくわからないまま無視して一人で歩き続ける。

(ま、さすがに気付くよな?)

というかずっと合図を出していたのだからそうでないと困る。あの子の事だからもしかして、まだ俺のことに気づいてないのかもしれない。
でも、さすがにイグニス、アルドリックを排除したので「何かが起きている」くらいは気づいているだろう。

(あんまり遅いと、もっとぐちゃぐちゃになっちゃうよ?)

校内にあるナディア像に宝石を近づけると像が動き出し、地下に続く階段が現れる。
その階段を下りると、巨大な空間が広がっていた。

先には空間から現れた鎖に手足を繋がれた人影がある。

「ふぅん……?これがマルドゥク・リヴェラムか。さすがにすごい威圧感だね」

何重にも封印魔法がかけられたその体に、禍々しい魔力を感じる。ところどころ形を保てず、崩れかけているが、それでもこの存在感はすさまじい。

「ディヴィニティ・エンブレイスがあればよかったんだけどな」

流石、この世界の理外の三賢者、アルドリックといったところだろうか。
俺に一切の攻撃は通じないのにあれだけ圧倒して、その上俺の切り札の杖まで焼失させられてしまった。

「ま、時間をかければいいか」

ディヴィニティ・エンブレイスの対になる杖、アストラル・エテルナを構え、封印魔法にぶつける。
流石にアルドリックと同じ三賢者が施した封印魔法ということもあり簡単には破れない。というか別に壊すつもりはなかったし、ただ大きな音、そして魔力が暴走してくれればよかった。

「何をしている!」

背後から声が聞こえる。思ったよりも早い到着で良かった。これで無駄な時間を過ごさないで済む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...