悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

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物語の終わり、創造の始まり

この世界の中心_2

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「カスパー先生、それにセオドア先生」

俺がかろうじて顔の分かる2人、カスパーとセオドアに声をかける。

「アリシア……?どうしてここに……?」
「どうして、ってみての通り、封印を解こうとしてるんだ」
「な……!?アリシア!お前は何を言っているんだ!」

セオドアが声を荒げる。

「それはナディアが封印したマルドゥク・リヴェラムだ!何が起こるかわからん、危険だから早くやめろ!」
「危険だからいいんだよ。最後は派手なほうがいい」
「お前……本当にアリシアなのか?」
「あぁ、もちろん」
「ーーーっ!まさか、お前操られて……!」

セオドアは顔色を変えている。まぁそれもそうか、急に雰囲気も変わって喋り方も違うんだから。

「んんっ、違いますよ。私はアリシアですって。操られてなんていませんってば」

軽く咳ばらいをして今までのようににこやかに話しかける。

「セオドア先生、まずはあの封印魔法の破壊を止めねば。すまんのアリシア君、もし操られているのなら手荒な真似になるが許してくれ」

カスパーが杖を構える。

「潮騒をまといし流れる矢、撃ち貫き、灼熱の刻印を刻め!激流の射撃、アクアショット!」

まがいになりも魔法教師という役割を与えられているカスパーは、その実力も本物だ。
初級魔法にも拘わらず生徒たちが使うものとは比べ物にならないほどの威力を持った水の矢が俺に向かって飛んでくる。

ーーーーーーズガン!!!

しかし俺にあたることはなく、そのまま俺の後ろの封印魔法に直撃した。

「あれ?カスパー先生も封印破壊に協力してくれるんですか?私ひとりじゃ時間がかかりそうで困ってたんですよ」

カスパーが杖を見つめ、そして今度は移動をし射線を変え再度アクアショットを放つ。今度は一つではなく、数発同時に。
先ほどよりも威力のある水の矢が何重にも重なって飛んでくる。
ーーーーズガン!!!ズガン!!!!ズガン!!!!!

しかし、どのアクアショットも俺にあたることなく、今度は後ろの壁に傷をつけていく。

「ど……どういうことじゃ……?」
「あぁ、もう。生徒である私の事が大切なのはわかりますけどちゃんと狙ってくださいよ。そんなことしていると封印解いてしまいますよ?」
「カスパー先生……?」
「ちがう、セオドア先生。潮騒の音を轟かせ、蹂躙せよ!波濤の破壊、ウェイブクラッシュ!!」

今度は点ではなく面での衝撃。しかし俺に直撃する前に魔法がうねり、勝手に俺の体を避けていく。

「無駄ですよ」
「無駄……?」
「この世界のヒロイン、アリシアに対して攻撃できるわけないじゃないですか。先生の攻撃は勝手に逸れていきます」
「な……!?」
「まぁ、アルドリックくらいの魔力があれば直撃させることはできますが、カスパー先生程度では無理みたいですね」
「アリシア!お前本当にどうしたというんだ!!」

セオドアも同じように魔力の詠唱をはじめ叫ぶ。

「セオドア先生には相談があるので、少しだけ待っててください。まずはそのカスパー先生には退場してもらいます」
「退場……じゃと?」
「えぇ、退場です。先日のお使いでもう役割は果たしてもらいましたから」
「吾輩の魔法が届かないとしても、同様におぬしの威力の魔法では吾輩に傷一つつけられまいて!当たらないだけでバランスは崩すことがはできる、おぬしのブレイズワークスは使わせん、それに、直撃しないとしてもこの空間を……」

いい加減耳障りになってきた

「ーーーーところで」

話を遮って声をかける。

「さっき、俺の事を操られてるって言ってましたよね?」
「そうじゃが?」

眉を顰めながらカスパーが答える。

「実は操られているのはカスパー先生なんですよ」
「何を……?」
「それに俺はカスパー先生ごときにブレイズワークスなんて使いません。これは大切な魔法です。ヒートスパイクで十分です」
「ヒートスパイク、じゃと?おぬし、吾輩を愚弄するか!!」

俺の四方をハイドロバリアが包み込む。

「これで……これでどうじゃ!ヒートスパイクなど、吾輩のハイドロバリアに傷一つつけられまいて!!」
「そうでしょうね。では、カスパー先生、この魔法を解除してください」

そう口にした次の瞬間、パシャリという音とともに、四方を包んでいたバリアが消失する。

「な……なにっ!?」

カスパーの驚いた表情が実に滑稽だ。

「ありがとうございます」
「なっ……なっ!?」
「だから言ったでしょう?カスパー先生はすでに俺が操ってるんです。先日はマリウスとセシルへのお届け物、ありがとうございました」
「おぬし、一体何者なんじゃ!?」
「まぁ、それは俺も知りたいとこですけど、というわけです」
「流れる水の盾よ、我らをーーーー」
「魔法を使うのをやめてください」

カスパーが詠唱を唱え始めると同時に、そう命令する。カスパーは口をパクパクとさせながら、詠唱をやめた。

「ひっ……!?」

恐怖に駆られてか、背中を向けて逃げ出そうとする。

「ダメですよ。そのまま止まってください」
「あっ……あうっ……」

カスパーが足を震わせてその場に立ち尽くしてしまう。

「はい、何も話さないでそのままじっとしててください」

そのまま、無防備な背中にヒートスパイクを数発撃ちこむ。

「ーーーーーー!!」

悲鳴すら上げることもできずそのままカスパーが倒れ、動かなくなった。
うん、どうでもいいキャラクターの退場は静かなほうがいい。

「さて、と」

セオドアの方を向く。

「セオドア先生に相談があるんですよ」
「相談、だと?」
「ええ。そんなに警戒しないでくださいよ。俺、セオドア先生には同情、いや、尊敬してるんですから」

アストラル・エテルナを地面に固定し、正面からセオドアに向き合う。

「大好きな、大好きな人がいなくなった気持ち。俺にはよくわかります。もし俺もそうなったらきっと生きていけない」
「何を言っている……?」

セオドアが後ずさる。俺は一歩ずつ、ゆっくりと距離を詰めていく。

「そんなセオドア先生の事を操るなんてしたくありません。なので協力してください」

右手を差し出した。セオドアはその手を見つめるだけで、微動だにしない。

「もし、俺に協力してくれたら、ナディア先生の事を蘇らせてあげます」
「なっ!?」

セオドアが目を大きく見開き、俺の顔を見た。

「嘘……だ」
「嘘じゃありません。ナディア先生が目の前でナタリーを復活させているところ、セオドア先生も見ましたよね?」
「いや、そんな……」
「今のカスパー先生の事も見たでしょう?俺はこの世界の絶対的存在です。蘇らせることくらい造作もありません」
「そんな、そんなことが……」

セオドアの膝が震える。

「さぁ、どうしますか?協力してくれますか?」
「あ……あぁ……」
「あ、もし協力してくれるならこの封印も、ナディア先生が命をとして完成させたこの封印も壊さずに置いておいてあげます」

もとよりマルドゥク・リヴェラムを復活させるつもりなんてなかった。
改めて対峙してわかる。三賢者のように、いや、三賢者以上にこの世界の外の存在のように感じる。俺もあまり手を出していいものではないだろう。
でも、セオドアの籠絡には絶対に効く。
好きな人が生き返る可能性があるのだ。そして、きっともう想像してしまった。

「何も、ずっととは言いません。卒業式までで構いません。もし協力したら卒業式の日の壇上にナディア先生を立たせることをお約束しましょう」

生きていくことに希望をなくしたセオドアの目の前に垂らされた唯一の救い。もうこの手を拒むことはできないだろう。
それきり何も言わないセオドアを、俺は黙って待ち続けた。

「わかった……協力しよう」

震える手で、俺の手を握る。
その目から一筋の涙が零れたのを見て、思わず笑ってしまった。


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