悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
130 / 143
物語の終わり、創造の始まり

ナタリー vs マリウス

しおりを挟む
「マリウスさん、私怒ってるんですよ」

マリウスとナタリーが対峙したまま、ナタリーが口を開く。

「マリウスさんは私の事攻撃してこないんですか?」

ナタリーが先ほどから聞こえる轟音のほうに視線を送る。土煙が巻き上がり、ガレンとセシルの戦闘の激しさが伝わってくる。
ナタリーはその戦闘をただじっと見ていた。

「俺は……、君と戦うつもりはない」
「じゃあなんでアリシアさんの事守るみたいなこと言ったんですか?このまま何もしてこないなら私、アリシアさんを攻撃しに行きますよ」
「それは……それは止めてくれ」
「そうですか。アリシア様、ですもんね」

ナタリーがにっこりとほほ笑む。その笑顔に底知れぬ恐怖を感じたのか、マリウスはごくりと唾を飲み込んだ。

「なんで私が怒ってるか分かりますか?」
「いや、それは……。こうしてレヴィアナの邪魔をしているから?」

その言葉にナタリーは首を振る。

「……イグニスを、その、イグニスを……」

ナタリーはマリウスが言い終わる前に同じように首を振った。

「その……アリシアに……」
「全部違います」
「……」

ナタリーが、はぁーと大きく息を吐く。

「マリウスさんが誰を守ろうと、何をしようとマリウスさんの自由です」
「あ、あぁ」
「前に、いつでも俺の事を頼ってくれって言いましたよね」
「魔法訓練場で……だよな。あぁ、言った」
「その時に『俺に何かあってもナタリーが助けてくれるか』と言いましたよね?」
「あぁ、それも言った」
「マリウスさん、こうなる事予想していたんじゃないですか?」
「……」

マリウスがここで初めて視線をそらした。

「マリウスさんは私なんかよりもずっと頭がいい人です。私が気づくようなことはとっくに気づいてたはずですよね。きっと、ミーナさん、ミールエンナ・スカイメロディーさんの事も」

ナタリーはその名前を口にして、一瞬だけ苦しそうに顔を歪ませた。だがすぐに表情を戻した。
その表情には様々な感情が入り乱れているようにマリウスは感じたが、その感情の正体を推し量ることはできなかった。

「私が読んだ【解体新書】なんて知らなくても、きっとレヴィアナさんの家の襲撃事件の事も何かに気づいていたんじゃないんですか?」
「……」

ナタリーの問いにマリウスは何も答えられなかった。
その沈黙を肯定と受け取ったのか、ふぅーと大きく息を吐いてナタリーはにっこりとほほ笑んだ。

「本当に……。そんなに私、信用無いですか?」
「違うっ!そういう事じゃない!!」

マリウスが慌てて反論する。

「では、どうして何も言ってくれなかったんですか?」
「それは……」

ナタリーと視線を合わせられないまま、何とか言葉を探す。そして意を決したように口を開いた。

「……君を、ナタリーを巻き込みたくなかった」

マリウスが絞り出すような声で、ナタリーの目をしっかりと見つめながら言う。

「ナタリーには何も知らずに楽しく笑っていて欲しかったんだ」
「……」

ナタリーは何も言わなかった。そしてマリウスもこれ以上言葉を重ねることができなかった。
森の中に沈黙が流れる。遠くから魔法の衝突音だけが聞こえてくる。
先に口を開いたのはナタリーだった。

「それで、結果がそれですか」

ナタリーがマリウスの胸の【陽光の薔薇】を指さす。

「あぁ、油断、していたつもりはなかったんだが、まさか先生も取り込まれているとは思っていなかった」
「そうですか。それで?これからどうするつもりですか?私がアリシアさんと敵対しに戻ろうとしたら?」
「俺はナタリーを攻撃するだろう。そうしなければならないと思わされている」
「……そうですか、わかりました」

ナタリーはマリウスの目をしっかりと見つめ、そしてにっこりと笑った。

「では、私もそんなに弱くないというところをお見せしましょう。私が勝ったら今度は私の事頼ってくださいね?」
「あぁ、もちろんだ」

2人の会話はここで終わった。
マリウスの攻撃が迫る前に、ナタリーは辺り一面に展開したグレイシャルスライドで躱していく。
マリウスはアクアショットを次々に放っていく。ナタリーは防御魔法でその攻撃を防ぎながら、マリウスの隙を窺っていた。

「はぁっ!!」

一瞬で魔力を練ったウェイブクラッシュがマリウスから放たれる。その攻撃をナタリーが躱しきれなかった。

「きゃっ!!」

ウェイブクラッシュが直撃して大きく後ろに吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ転がりながらも何とか体勢を立て直すとすぐにまた攻撃に備えた。

「くっ!!」

マリウスが追撃するために迫ってくるが、設置式の魔法陣から次々放たれるアイシクルランスに防御を強いられる。

「氷河の奔流、我が意志に従い押し寄せよ!冷たき波動、グレイシャルウェーブ!」

その間にナタリーは魔法を完成させ、マリウスの足元から凍てつくような冷気が吹き出していく。

「くっ!!」

マリウスはすぐさま後ろに飛び退きその攻撃を避けるがナタリーは間髪入れずに次の詠唱に入っていた。

「轟く雪崩の如き力にて蹂躙せよ!氷雪の轟音、アバランチブラスト!」

ナタリーの目の前に巨大な氷の塊が現れマリウスに向かって飛んで行く。

「渦巻く水の力、我が身を包み込み、薙ぎ倒せ!激流の舞踏、ウォーターホイール!」

即座に自身の周りに水を展開し、その渦がナタリーのアバランチブラストを受け止め砕いていく。

「さすが……ですね」
「ナタリーも、本当に強くなった」
「みんなのおかげです」

お互い魔力を右腕に集中させていく。ナタリーの周りには氷の花が、マリウスの周りには水の花が、それぞれ詠唱とともに展開されていく。
そして両者から同時に魔法が放たれた。

「凍てつく氷の輝き、我が手に集結せよ!結晶の煌めき、アイスプリズム!」
「水の輝きを纏いし結晶、我が手に集結せよ!滴る煌めき、アクアプリズム!」

2つの魔力がぶつかり合うと、その中央で爆発を起こした。辺りに冷気が広がり、霧が発生する。

「極寒の渦を巻き起こし、捕らえ滅ぼせ!氷の螺旋、フリーズヴォルテックス!」

ナタリーが続けざまに魔法を放つ。放たれた極寒の渦がそのままマリウスを飲み込み、凍てつくような寒さが辺りを襲う。
そのあとには静寂が訪れていた。

「ふっ、負けてしまったな」

胸元にあった【陽光の薔薇】は氷漬けになり、ぽろぽろと崩れ落ちていた。
辺りの木々も同じように崩れていく。その中で防御魔法に体を包んだマリウスが微笑んでいた。

「ほら、マリウスさんは優しいんですから……」

ナタリーはそのまま歩み寄り、そっとマリウスの事を抱きしめた。

「次は、ちゃんと私の事頼って下さいね」

マリウスもそっとナタリーの事を抱きしめる。

「あぁ……わかった。今度こそ本当に約束する」
「本当ですよ?今度約束破ったら……」
「あぁ、覚悟しておく」

ナタリーは抱きしめていた手をそっと放し、マリウスの顔を見つめた。その目には涙が浮かんでおり、必死に泣くのを堪えているかのようだった。

「絶対ですよ」
「絶対だ」

マリウスはもう一度ナタリーの事を抱きしめた。今度は強く、しっかりと抱きしめる。
2人はそのまましばらくお互いの体温を感じていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!

桜咲ちはる
ファンタジー
「セイヴァン様!私のどこが劣ってると言うのです!セイヴァン様にふさわしいのは私しかいないわ!」  涙を堪えて訴えかける。「黙れ」と低く冷たい声がする。私は言葉を失い、彼女が床に座り込むのをじっと見つめる。そんな行動を取るなんて、プライドが高い彼女からは到底考えられない。本当に、彼女はセイヴァンを愛していた。 「レイン・アルバドール。貴様との婚約は、この場をもって破棄とする!」  拍手喝采が起こる。レイン・アルバドールは誰からも嫌われる悪女だった。だが、この数ヶ月彼女を誰よりも見てきた私は、レインの気持ちもわかるような気がした。 「カット」  声がかかり、息を吐く。周りにいる共演者の顔を見てホッとした。 「レイン・アルバドール役、茅野麻衣さん。クランクアップです!」  拍手と共に花束を渡される。レインのイメージカラーである赤色の花束を、そっと抱きしめる。次のシーズンがあったとしても、悪女レインはもう呼ばれないだろう。私は深々とお辞儀をした。 「レインに出会えて幸せでした」 【氷の公爵のお姫様】100万部を突破し、アニメ化された大人気の異世界転生ファンタジー。悪役令嬢レイン・アルバドール役の声優が家に帰ると異世界転生してしまった。処刑を回避したい、けどヒロインと公爵をくっつけなければ世界は滅んでしまう。 そんな世界で茅野麻衣はどう生きるのか? 小説家になろう様にも同じ作品を投稿しています。

【第一部完結】転生99回目のエルフと転生1回目の少女は、のんびり暮らしたい!

DAI
ファンタジー
【第一部完結!】 99回のさよならを越えた、究極の『ただいま』 99回転生した最強エルフは、のんびり暮らしたいだけなのに――なぜか家族が増えていく。 99回も転生したエルフの魔法使いフィーネは、 もう世界を救うことにも、英雄になることにも飽きていた。 今世の望みはただひとつ。 ――森の奥の丸太小屋で、静かにのんびり暮らすこと。 しかしその願いは、 **前世が日本人の少女・リリィ(12歳)**を拾ったことで、あっさり崩れ去る。 女神の力を秘めた転生少女、 水竜の神・ハク、 精霊神アイリス、 訳ありの戦士たち、 さらには―― 猫だと思って連れ帰ったら王女だった少女まで加わり、 丸太小屋はいつの間にか“大所帯”に!? 一方その裏で、 魔神教は「女神の魂」と「特別な血」を狙い、 世界を揺るがす陰謀を進めていた。 のんびり暮らしたいだけなのに、 なぜか神々と魔王と魔神教に囲まれていくエルフ。 「……面倒くさい」 そう呟きながらも、 大切な家族を守るためなら―― 99回分の経験と最強の魔法で、容赦はしない。 これは、 最強だけど戦いたくないエルフと、 転生1回目の少女、 そして増え続ける“家族”が紡ぐ、 癒しと激闘の異世界スローライフファンタジー。 ◽️第二部はこちらから https://www.alphapolis.co.jp/novel/664600893/865028992

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

処理中です...