【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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31 美術品には触れちゃだめ

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 息をするのも忘れていた。
 筋肉は父さんので見慣れていたはずなのに、シディア様の身体はそれとは次元が違いすぎた。
 もちろん、単純に鍛えられた筋肉の立派さでいえば父さんのほうが上だけど、シディア様のはそういうんじゃない。
 しなやかで流れるような曲線美っていえば、少しは伝わりやすいかな。肌に浮かぶ筋肉の陰影はものすごく芸術的でいて、さらには色っぽさもある。
 余分なところは一切なく、とにかく完成された造形だった。
 美しい起伏を描く胸筋と腹筋、そこから引き締まった腰へと続くラインを何度も目を追ってしまう。
 理想を遥かに上回る麗しい体躯を目に焼きつけるのに、おれは必死だった。

「いつにも増して、真剣な表情で見てくるじゃないか」
「あ……っ、と」
「ついてこい。滑るなよ」

 注意されると速攻でやらかすのが、おれだ。
 今回も例に漏れず、頷いて歩き出した瞬間、つるっと滑ってしまう。転んでしまうほどじゃないけど、軽くバランスを崩してしまった。
 横からシディア様に腕を掴まれる。

「お前のそういうところにも慣れてきた」
「……すみません」

 おれって、こんなにも鈍くさかったっけ。
 シディア様に腕を支えられたまま、濡れた石床の上を慎重に進む。

 ――……これって被膜越しなんだよね? 素肌に直接触れられてるのと、感覚は全然変わらないんだけど。

 つい、シディア様に触れられているところに意識を向けてしまった。
 シディア様もおれと同じで被膜を纏っている状態のはずだ。服に似せた外皮も、鎧の役割をする外殻も、今はどちらもない状態で、パッと見た感じは全裸だけど。

 ――本当に……すごく綺麗な身体だなぁ。

 腕を掴む大きな手から辿るように腕を見る。
 その向こう側に、さっきも惹かれてやまなかった魅力あふれる肉体が見えて、おれはまたしても見惚れていた。

「余所見ばかりだな」

 ちらりともこちらを見ていないのに、見ていたことは速攻でバレてしまった。
 呆れている口調ではない。ただの感想って感じだ。

「やはり、こうするか」
「わ――ッ、ちょっと、シディア様!」

 また抱き上げられてしまった。
 前回と違って今日はお互い裸だから、シディア様の体温が触れた場所からダイレクトに伝わってくる。湯気でうっすら湿った肌同士が触れ合う感覚って、なんかすごく……えっちなんだけど!!

 ――しかも、そのまま運ぶ気!?

 シディア様は、おれ一人分の重さなんて気にする様子なく歩き始めた。濡れた石床は滑りやすくて歩きにくかったのに、シディア様は危なげない足取りだ。

「首に腕を回せ」
「それは……」
「バン――命令だ」

 そんなふうに言われたら従うしかない。
 シディア様の首に腕を回すと、身体はさらに密着した。

 ――う……胸筋と腹筋の境目に、当たっちゃいけないものが当たりそうなんだけど。

 一応おれの面目を保つために言っておくけど、反応はしていない。ただ、ふにゃっとした状態だったとしても、それを上司の身体に押し当てるって絶対だめだと思う。
 っていうか、おれがシディア様の身体を汚したくないっていうのが一番なんだけど。

「お前は賑やかで退屈しないな」

 心の声は漏れていないはずなのに、シディア様はいつもより機嫌のよさそうな声でそう言うと、おれを抱き上げたまま、浴槽へと入っていく。

 ――掛け湯とかしないんだ……うう。前世の記憶のせいで、そういうとこが気になっちゃう。

「ん……はぁ」

 でも、お湯に全身を包まれる心地よさで、そんな些細な考えはすぐに押し流されていった。

 ――やっばい……お風呂、最高かも。

 こんなに広い浴槽は、今世で初めてな気がする。
 そもそも、浴槽にお湯を張るっていう文化じゃないからだ。父さんと一緒に水浴びに行ったりはしたけど、あたたかいお湯にこんなにゆったり浸かるのは前世ぶりだった。

「……気持ちいい」
「それは何よりだな」
「っ、あ!」

 自分がまだシディア様の抱かれた体勢だったことを、すっかり忘れていた。
 浴槽で腰を下ろしたシディア様の太腿に横座りするような格好になっているのに気づいて、慌てて首の後ろに回していた腕を解く。

「あの……そろそろ下ろしてもらえませんか?」

 そうシディア様におそるおそる申し入れた。
 シディア様は目を細めておれを見つめてきたものの、特に何か言うこともなく、おれを隣に下ろしてくれる。
 浴槽の中は割と深さがあるけど、縁すぐのところに座れる段差があった。そこに腰を下ろすと、ちょうどお湯に肩まで浸かった状態になる。

「はぁぁぁ……」

 身体から一気に力が抜ける気持ちよさに、おれは湯気にくもる天井を見上げながら、大きく息を吐き出した。
 ちゃぷん、とお湯が揺れる。
 シディア様が腕を動かしたせいだ。

「緊張は解けたようだな」

 おれの肩に、シディア様が腕を回した。
 脱力していたおれは引き寄せられるまま、シディア様の腕の中にすっぽりと収まってしまう。

 ――ちょっと……また密着しちゃってるんだけど!?

 せっかく下ろしてもらったのに。
 触れている範囲はさっきまでほどじゃないけど、それでもおれの右腕とシディア様の身体はぴったりと密着している。シディア様の鼓動を肌で感じていた。

「まあ、違う意味で緊張を強いてしまっているようだが」
「……気づいてて、されてたんですか?」
「お前の反応がよすぎるせいだ」

 おれの問いにそう答えると、シディア様は口元を手で押さえ、ふっと吐息を漏らす。

 ――もしかして、笑ってる?

 シディア様の顔に、ここまではっきりと感情が出るのは珍しかった。
 じっ、と見ていたらまたすぐに気づかれる。
 逆に見つめ返されてしまった。
 シディア様のオーロラのように色が揺らめく瞳が、おれを捕らえて逃がさない。

「っ!!」

 揶揄うように、ちろりと見せつけられた赤い舌先に、息が鼓動が一緒に乱れた。
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