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46 親の前では恥ずかしい
しおりを挟む「ん……っ」
痺れは少しずつ、ずくずくとした疼きに変わる。
シディア様の魔力に身体が反応してしまっているのは間違いなかった。
小刻みに震えてしまう身体を自分じゃコントロールできずにいると、シディア様が後ろから支えるように、おれの腰に腕を回してくる。
「あ……だめ」
今シディア様に触れられたら、余計におかしくなってしまう気がする。
ふるふると首を横に振って拒否したけど、シディア様は腕を解いてくれなかった。
――なんでこれ、こんな気持ちいいの……?
父さんと母さんの前でおかしくなりたくはないのに、身体がいうことを聞いてくれない。
身体の震えは強くなる一方だ。
「これは、魔力の共鳴現象……?」
そんな状態のおれを見て、母さんが呟いた言葉はおれの知らない単語だった。でも、それがおれの身体に起きている現象を表しているのはわかる。
魔力って共鳴すると、こんなことになるの?
「そのとおりだ。俺とバンの魔力は恐ろしいほど親和性が高いらしい。触れるだけでこうなるのだから、刺青を刻みたくもなるだろう?」
シディア様が答える声にまで、身体が反応する。
シディア様の腕の中で身悶えていると、制服越しに刺青を指先でなぞられた。
「ん……ンぁっ」
どんなに堪えようと頑張っても、びくっと腹筋が震えて、声が出てしまう。
「シディア様……やめてください」
「なぜだ?」
「恥ずかしいから、です……それ以外の理由なんて、ないと思いますけど」
おれの答えを聞いて、シディア様は口もとを僅かに緩めた。
刺青から手を離して、代わりにおれの頭を撫でる。
「…………少し、よろしいでしょうか」
小さく咳払いしたあと、母さんがシディア様に話しかけた。シディア様が頷いたのを確認してから、慎重な様子で口を開く。
「所有の刺青が一方的に刻めないものだということは理解しています。しかし……その」
「俺がバンを騙したのではないかと疑っているのか?」
「いいえ、そういうわけでは! ただ……バンは、ちゃんとそれがどういうものか理解できているのかが心配で」
母さんの言葉のあと、全員の意識がおれを向いていた。
途中からずっと黙ったままの父さんも、思うところはいろいろあるらしく、何度もシディア様に睨むような視線を向けている。
――これって、おれが何か喋らないといけないやつ?
話出しにくい空気だけど、そんなふうになった原因はたぶんおれだし、ここは心を決めるしかない。
「……この刺青は、おれがシディア様の所有物である証でいいんだよね?」
シディア様は確かそう言っていたはず。
「それから、一生消せないものだっていうのも聞いた」
「バン、あなた……それがわかっていて受け入れたのね?」
「うん」
本当はちょっと違うけど。
説明はどっちも事後報告だったし。
でも、この刺青を消してほしいとは全く思わないし、そういうものだって先に説明されていても、おれはこれを受け入れていたと思う。
「それならいいのよ」
「よくねえだろ!」
「ちょっと、オクトス……」
突然声を荒らげた父さんを、母さんが慌てて止めに入る。でも力の強い父さんに勝てるはずもなく、母さんは簡単に押し退けられてしまった。
大股で二歩ほどあったシディア様との距離を一気に詰めた父さんは、シディア様の肩を掴もうと腕を伸ばす。
「――そこまでの非礼を許すつもりはないぞ、オクトス」
父さんの手は、シディア様に触れる直前で弾かれた。
バチッと激しい音がすぐ近くから聞こえて、おれはぎゅっと身を竦める。
――何、今の音……シディア様が何かしたの?
焦げたような、嫌な臭いがする。
おそるおそる視線を上げると、父さんの手が真っ黒になっているのが見えた。
「父さん……!」
「バン、平気だ。これくらいはすぐに治る」
それは嘘や強がりじゃなかった。
父さんの手についた傷はみるみるうちに治っていく。すぐに元の状態になっていた。
それなのに、父さんの表情は浮かない。
治ったばかりの自分の手とシディア様の顔を交互に見つめて、何か悩んでいるみたいだ。
「オクトス、話はアラネアから聞け」
「――はっ。シディア様」
シディア様に対する父さんの態度が急に変わった。
力の違いを見せつけられたからかな? 怪人同士の上下関係は強さの差でもあるって聞いたことがあるけど、これってそういうことなんだろうか。
――でも、幹部の中でも戦闘力の高い父さんがこんなにすぐに負けを認めるなんて……シディア様はそれだけ強いってこと?
でも、確かにすごかった。
父さんが負けてしまったのは複雑な気分だけど、自分の上司であるシディア様がそんなすごい怪人だっていうことが知れたのは嬉しい。
より一層膨らんだ憧れにきゅんきゅんする胸を押さえながらシディア様を見上げると、ふっと目を細めて笑うシディア様と目が合った。
「お前はぶれないな」
「……?」
「さて、オクトスのことはアラネアに任せて、バンは俺と二人で話そうか。俺はそのために呼ばれたのだしな」
「……え、っと」
「部屋で話してらっしゃい、バン」
大丈夫かと母さんのほうに視線を向けたら、そう言って送り出されてしまった。
おれは自分の部屋へとシディア様を案内する。
着替えに戻ったときにちょっとは片づけておいたけど、それでもシディア様を招くのにふさわしい部屋とはいえないので緊張しかない。
「ここが、おれの部屋です」
部屋に入ったシディア様は、珍しそうに室内を見回していた。
おれは自分の部屋にシディア様がいるという非現実的なこの光景を、後ろから呆然と見つめる。
「どこに座ればいい?」
「あ! 椅子は一つしかないので、そちらに」
「お前はどこに座る気だ?」
「おれは立ったままでもいいですし、なんなら床でも……わっ」
また抱き上げられてしまった。
シディア様はおれのこと、所有物っていうより荷物か何かだと思っている気がしてならない。
「ここなら二人で座れる」
「……っ!」
そう言って下ろされたのは、おれが毎晩眠っているベッドの上だった。
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