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52 賢者になんてなれるわけない
しおりを挟む――えっ、おれってシディア様のこと好きだったの? いや確かに好きだし、尊敬してるし、憧れの人なのは間違いないけど……実は、そういう意味だった?
初めて見たときから、ずっと気になる人だった。
もしかして、あれは一目惚れだったのかな。
この人が自分を選んでくれたらいいなって、そう思っていた。
それが現実になって、シディア様の部下がおれ一人だけっていうのには驚いたけど、同時にすごく嬉しかったのも覚えている。
この人を、おれが独り占めできるんだって。
――これって独占欲だったの?
今まで、恋愛なんて一度もしてこなかった。
ダーヴァロードに入ることだけを目標に頑張ってきたからだ。まあ、それも自分の性癖に忠実に生きるためだったけど。
おれの欲を満たしてくれるのは悪の組織と怪人だ。
シディア様はそれに当てはまっているけど……この感情が個人に対する恋愛感情だったなんて、全く気づいていなかった。
――もしかして……シディア様に自覚がないって言われてたのって、これのこと?
本人に指摘されるってどうなんだろう。
そんなにわかりやすい顔でシディア様を見てしまっていたってことかな。だとしたら、恥ずかしいんだけど。
今だって、ものすごく恥ずかしい。
ここがシーツの中でよかったって思うくらいだ。
まあ……気持ちの自覚もなしに、とんでもないことをしちゃったあとなんだけど。
――そうだ。告白もだけど……おれシディア様の手に粗相を!!
はっとして、シディア様の手を見る。
その綺麗な指におれの出したものが纏わりついているのが見えて、慌てて手首を掴んだ。
「シディア様、手を洗いに行きましょう!」
「……黙って何を考えているのかと思えば、何がどう繋がれば、その言動になるんだ?」
「だっておれので、シディア様の手が汚れて」
「俺が出したものも混ざっているんだが?」
そうだった。シディア様の手についているのは、おれが出したものだけじゃない。
見分けがつくわけないのに、思わずまじまじと手に顔を近づけて見てしまう。
「まずは、シーツの外に出ないか?」
「あ、それは……まだっ」
心の準備をする時間が欲しかったのに、シディア様は上半身を起こしながら肘を使って、器用にシーツを剥いだ。
シーツの中の薄暗さに慣れていた目に、部屋の明るさが刺さる。
手で目元に影を作ろうとしたおれは、自分の手にも白濁がついていることに気づいた。
「わ……っ」
思わず声を上げる。
さっき、シディア様の手首を掴んだときについたんだろうか。もしかしたら、シディア様が出したものかもしれない。
そう思うと鼓動が一気に速くなる。
「バン、お前も身体を起こせ」
「は、はいっ」
まだ寝転がったままだったおれは、シディア様に言われて慌てて身体を起こした。
そこで初めて、自分の下半身の状態を目の当たりにする。
「わ、わぁ……」
手についた白濁を見たときも衝撃だったけど、こっちはもっとすごい。臍の下から脚の付け根にかけて、いろんな体液が飛び散っていた。
どこからどう見ても卑猥そのものだ。
――ってことは……シディア様も。
まだシディア様の顔を見る勇気はないけど……おれは、ちらっと横目でシディア様の下半身を見る。
――やっばぁ……えっち。
おれほどじゃないけど、シディア様の下半身にも体液が付着していた。
よく見ればわかるって程度だけど。
「どうした? まだ足りなかったか?」
「……ち、違いますっ」
視線に気づかれていた。
そうだよね。あんなことしたあとに、そんなとこを凝視してたら、そう思われても仕方ない。
「本当に、違うので……」
「わかっている、揶揄っただけだ。ほら、手を出せ」
シディア様は自分の手を拭ったあと、おれの手も綺麗にしてくれた。
「あとは自分で拭きます」
「動くな」
「は……はい」
やらせてもらえなかった。
ベッドの端に腰をかけた体勢で、シディア様に身体を拭ってもらう。途中しゃがんだシディア様が下から顔を覗き込んできたので、つい目を逸らしてしまった。
「なぜ目を逸らす」
「すみません……その、心の準備が必要で」
「あんな告白をしておいてか?」
「う……それは」
それはそのとおりなんだけど。
でもあのときは熱に浮かされていたから言葉にできただけで、今とは状況が違いすぎる。
「――それとも、先ほどの言葉は嘘か?」
「嘘じゃないです!」
バッ、と顔をシディア様のほうに向けた。
でも、心の準備はまだできていなくて、シディア様の目は見れない。顎のあたりで視線を彷徨わせる。
「ならば、もう一度言えるか? 俺の目を見て、先ほどと同じ言葉を」
「え……」
「これは命令ではない」
シディア様はそう言うと、わずかに口角を上げた。
命令じゃないってことは従わなくてもいいってことだけど……それじゃだめなのはわかる。
これは覚悟を試されているんだ。
――さっき自覚したばっかりの気持ちだけど。
でも、その気持ちをシディア様に疑われたくない。
おれはすくっと立ち上がると、一度大きく深呼吸をする。覚悟を決めて、シディア様の目に視線を向けた。
それでも、すぐに言葉は出てこない。
口を開いては何も言えずに閉じる動作を二度繰り返してから、ようやく三度目に声を出すのに成功した。
「シディア様、好き……です」
途中詰まっちゃったけど、ちゃんと目を見て言えた。
言葉にしたら、まだしっかり形の定まっていなかった気持ちがぎゅっと固まったのか、遅れて全身が熱くなってくる。
震え出した手を強く握っていたら、シディア様がそんなおれの手に触れた。
「好き、か」
「はい……その、だめですか?」
「だめとは言ってない」
シディア様から返事をもらえるとは思っていなかったけど、こんなふうに手を握られたら、少しだけ期待してしまう。
シディア様はそんなおれの気持ちに気づいているはずなのに、黙ったまま、じっと目を見つめてくるだけだった。
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