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53 こんなときでもご飯は美味しい
しおりを挟むシディア様の自宅は、普通の家じゃなくて大豪邸だった。
寝室の広さが我が家のダイニング兼リビングより広かった時点でそんな気はしていたけど、本当にめちゃくちゃ大きくて豪華なお屋敷だ。
さっきまでいた二階最奥にある寝室から、一階へと繋がる階段に向かう廊下には、他にも扉がいくつもあった。
その一つひとつが寝室と同じくらいの部屋なんだとしたら、シディア様のお屋敷はうちの家の何倍もの広さってことになる。やばすぎる。
――で……結局、告白の返事はもらえなかったんだよなぁ。
寝室を出て、一階のダイニングに案内されたおれは、そこで朝食をごちそうになっていた。
おれの『シディア様が好き』って気持ちはちゃんと伝わっていると思うし、『だめとは言ってない』とは言っていたけど――シディア様からはっきりとした返事はもらえていないままだった。
――それどころか、『朝食にするぞ』ってはぐらかされて、このダイニングまで手を引いて連れてこられたんだけどさ…………広いなぁ、この部屋も。
おれは食事の手を止め、改めて室内をぐるりと見回す。
玄関のエントランスから直接繋がるこのダイニングは、ちょっとしたパーティーができそうな広さがあった。
天井も壁も床も素材は違うけど、色は青みがかった黒で統一されている。
でも、ただ黒いだけじゃなくて品を感じられる部屋だ。
天井には豪奢なシャンデリア、部屋の角には重厚感のあるオブジェ、壁には繊細な装飾の壁掛け燭台がいくつも取りつけられていて、どれもしばらく目を奪われてしまうほどの存在感がある。
部屋の中央には、身体の大きな怪人が十人座ってもまだ余裕があるくらい大きなテーブルが置かれているけど、今そこに座っているのはおれとシディア様の二人だけだった。
しかも、隣り合わせ。
長方形のテーブルの端の部分しか使っていない。
――執務室で食事するときもいつもこの並びだけど、おれの定位置はシディア様の隣ってことでいいのかな? 昨日、うちで食事をしたときもそうだったし。
そんなことを考えながら、朝食にしては豪華すぎる料理をぱくぱくと食べ進める。
――シディア様とあんなえっちなことをして、そのうえ告白の返事ももらえていない生殺し状態だっていうのに、朝食をもりもり食べられちゃうおれって、実はすごいのでは?
鈍感っていうのは、なしの方向で。
「お前は本当によく食べるな。この細い身体のどこに入るんだ?」
「ひゃ……っ」
隣から伸びてきたシディア様の手が、おれのお腹に触れた。指先で軽く撫でられた程度だけど、そんなことされると思っていなかったおれは情けない声を上げてしまう。
シディア様はそんなおれの反応を気にする様子なく、何度も確かめるように指を滑らせる。
――シディア様のそういうとこ!!
気持ちを伝える前からこんなふうに触れてくることはあったけど、なんか前よりも触り方がえっちになった気がする。
おれが意識しすぎなんだろうか。
表情も前より柔らかい気がするし、何より、じっとおれを見つめてくる目が優しい気がする。
――うう……こんなの、もっと好きになっちゃうじゃん。
気持ちを自覚するってやばい。
「あ、の……あんまり触ったら」
「いけないか?」
「というより、その……上着の裾が上がってきちゃってるんで……それは困るというか」
シディア様に触られるのはドキドキするけど嫌じゃない……むしろ、嬉しいって思っちゃう。
けど今の格好でそれをされるのは、ちょっと障りがあるというかなんというか。
「ああ。これが見えてしまうからか」
「……っ!」
おれの言葉を理解して頷いたくせに、シディア様はおれの服の裾を掴むと一瞬も躊躇うことなく、ぺろりと捲り上げた。
「そそる格好だな、バン」
「ちょ……っ、シディア様!」
着替えを持っていなかったおれは、シディア様の服を借りて着ている状態だった。
サイズが合わないから下着はなしで、シャツを一枚羽織っているだけ。だから、裾を捲ると見えちゃいけないものが『こんにちは』しちゃうのだ。
今まさに、見えちゃいけないものが見えてしまっている。
「っ、食事中なんですけど!」
「食事中でなければいいのか?」
「…………うう、それは」
答えに困ってしまう。
シディア様がおれを揶揄っているだけなのはわかっているんだけど、どう返事をするのが正解なのかがわからない。
「誰かに見られたらどうするんですか……」
「別に構わん。そもそも、この屋敷にいるのは俺とお前だけだから、その心配はない」
「え……」
構わないと言われたことにも驚いたけど、それよりも、このお屋敷におれたち以外誰もいないという発言にびっくりしてしまった。
当たり前に、使用人が何人もいるものだと思っていたから。
「……じゃあ、この食事を用意してくれたのって?」
おれと一緒に寝室にいたシディア様にその時間はなかったはずだ。
事前に用意してあった?
いやでも、おれたちがダイニングに来たとき、料理は出来立てだった気がするんだけど。
「それは〈影〉だな」
「〈影〉……?」
「俺が魔力で作り出した小間使いのことだ。身の回りのことは、そいつらにさせている」
おれは、ぱちりと目を瞬かせる。
そんなすごい能力が存在するなんて、初めて聞いた。
「そんなことができるんですか!? すごいですね!」
「大した能力じゃない」
「すごいですって! いいなぁ……おれも触腕を生やす以外に、特別な力があればいいのに」
怪人にはそれぞれ特別な能力がある。
触腕を生やす力もその一つだけど、父さんと違っておれの触腕は一本しかないし、長さもそこまで変えられないから、それを使って戦うこともできない。
今のところはまだまだ役立たずだった。
「何を言っている。お前にも特別な力があるじゃないか」
「……? なんのことですか?」
「俺の魔力を食らったのを忘れたのか? そのあとに起きたことも――お前のその能力は俺の〈影〉なんかより、もっと特殊な力だぞ」
「あれが……特殊な力?」
おれには、そんな実感が全くなかった。
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