彼女はこのあと、僕がおいしく頂きました

なしひと

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15.マリカです

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「何をしてらして?」

 背中にそう尋ねられて、画面から目を離し振り返ってみれば、浮月さん(母)が僕の横に鎮座するひらひらの黒塊を訝しげに眺めていた。

 改めて、隣で臥せって肩を揺らしている浮月さんと目の前の2P勝利画面を眺め渡し、どう説明したものかと悩んだ。

「……マリカです」
「はぁ、」と行きかけたのを思い直したように戻ってきて。「……ごゆっくり」

 そう残して玄関方向へと消えていってしまう。出かける途中だったらしい。

「……」

 ゲームで連敗した程度でマジ泣きする女子高生なんて初めてだから、負かした主犯な僕の方だってそこそこに戸惑ってしまう。普段テンプレ遵守を押し付けてくる浮月さんが横紙破りの張本人というのだから、なおさらどうすれば良いのかわからない。

「な、……泣いてませ、ん」

 訂正。泣いていないらしい。

「も、もう一回やりましょう。星田くん」

 そう言って目元を拭い、コントローラーを手に取った浮月さんに「えっと、」僕は何と告げたものか迷った。

「もうそろそろ放課の時間だし、ここらで切り上げようよ」

 絶望しきったような視線をこちらに向けた彼女は、実のところ、十数戦に渡って黒星を並べ続けている。しかし浮月さんにとっては不幸なことに、理性では優先事項を心得てしまっているらしく、悔しそうかつ納得してなさ気にコントローラーを置いた。

「うぅ……」

 涙目混じりの表情の方は、なおさら不承不承だった。

「今度また来るから、その時」
「……絶対ですよ」

 それで踏ん切りが付いたらしく、浮月さんは立ち上がった。

「あ、待って」

 慌てて追いかけようとした僕は、長時間の正座で足が痺れていたことも忘れて。

 視界暗転。重力には逆らえず、畳に顔をつくこととなる。

「……何してるんですか、星田くん」

 僕の無様な格好に、浮月さんは少し機嫌を直したみたいだった。

 これでも道化を演じることにはさして抵抗のない僕である。

 わざと転んだ甲斐も「ばーか」

「……」

 ないな。やっぱり。

   ※

 そして放課後の学校。下の学年は時限数が一個少なかったらしく、すでに多くの生徒が校内を闊歩していて、僕らが授業をサボって徘徊していても特別不審がられるようなことはなかった。とは言え、多少は周囲の視線に気を使う。もちろん私服から制服へと着替えてはいたけれど、それでもなお、浮月さんの容姿はひどく目立つ。

 人目を避けながら部室へとたどり着き、中を一目見るなり浮月さんは。

「特に踏み荒らされた形跡はないですね」、と。

 その言葉に僕は首を傾げる。

「想定していたの?」
「ここを見に来るくらいはしたのかなと。でももしかしたら、あまりの狭さに入ることを躊躇ったのかもしれません」

 自虐気味に微笑む浮月さん。

 僕はと言えば改めて、昨日と変わりなさそうな室内の様子を一通り眺めてみた。
 確かに考えるまでもなく、こんな狭い空間に人が隠れられるはずもないし、武器のたぐいもしまえそうにはない。何かを探すだけ無駄な努力に思える。

「甘いですよね」

 少し嬉しそうに、白地さんはガムテープで貼り付けていた天板を長机から剥がす。

 二重天板。内側には白地さん愛用のチタンナイフ各種が並べて固定されている。

 そんな光景を眺めながらの僕はといえば、別段向こうの認識が甘いわけではなく単に浮月さんが規格外過ぎるだけ、なんてことを口に出さずに思う。

「星田くん、後ろを向いていてください」

 との言葉に従った僕の背後で、セーラー服の内側にナイフを隠す音がした。

 もう振り返っても良いですよ、と。そう僕へと呼びかける浮月さんの声はやはり、疑いようもなく楽しそうだった。

 微笑みを隠しきれないままに。

「さて、戦争をしましょうか」、と。

 まだ偵察段階なんじゃ、という僕の呟きは黙殺される。

 相変わらず凶器のたぐいを持つと好戦的になってしまう浮月さんだった。

 ゲームコントローラーでも同様の効果を得られることが知られている。
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