彼女はこのあと、僕がおいしく頂きました

なしひと

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34.誰か人影がこちらへと手を振っていた

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 複数ある校舎玄関口のうち、ひとつだけが予め施錠を外されていて、僕らはそこから入り、上履きへと履き替えた。

 暗闇に浸りきった校舎は馴染んだ光景を見失わせて、他人行儀とも呼べる冷ややかさだけがそこには置かれていた。

「本命、つまり勾玉を持っている誰か以外は結構適当な場所に隠れているんじゃないかと思うのです」
「逆に言えば、僕らは適当な場所以外を探せば良いと」

 しかし言ってみただけで、適当でない隠れ場所なんて僕には想像もつかず、呆れた浮月さんの横顔をそっと盗み見ることと相成る。

 そして結局。

「心理戦を挑んでもドツボにはまりそうですし、とりあえず一階を回ってみましょうか」、と。

 浮月さんのそんな言葉に端を発して、僕らは職員室や事務室を回っていった。

 僕らに縁のない保健室のみならず、滅多に開かれないだろう用具室や配電盤の収められた隙間なども確認してみたけれど。

「いませんね」

 彼女が思わずといったように呟いた通り、夜の校舎内には人っ子一人見当たらなかった。

「一階には隠れない取り決めなのかな」
「あるいは私たちの探し方が悪いのかも知れません」
「けど、流石に一人も見つからないっていうのは」

 探し方以前。この階に隠れている母数の問題のように思える。

 こうして二人が黙り込んでみても、廊下には人の気配そのものが微塵もないのだから、ここには誰も隠れていないと考えて良いような気がした。

「もしかしたら、どこかに固まって一人を守るという作戦なのかもしれません」
「八十人で?」
「八十人で」、と頷く浮月さん。

 そんな人数が一箇所に集まれる場所となると、かなり限られるはずだから、と僕は脳裏に校舎の地図を広げた。

「どうせ二階三階と上がっていくんですから、大きな教室だけでも回ってみましょう」

 しかし浮月さんは僕がせっかく広げた地図をくしゃくしゃに丸める。

 まぁ、その方が手っ取り早いのは確かだしと米つきが得意な僕は、丸められてしまった地図を廊下の隅に捨てる。

 という具合に行動の方針が決まったので、僕らはそれに沿うよう行動する。

 手近な階段を二階へ。視聴覚室を確認し、三階。美術室と図書室を確認後、渡り廊下を渡って教室棟。二階へと降りる。そちらの各教室を四階まで調べて、再び特別棟へ。こちらの四階の音楽室やPC室までを調べたところで少し拍子抜けしたように、浮月さんが呟いた。

「いないみたい、ですね」
「ルール上だと、残るは体育館くらいかな」

 そちらは校舎に隣接していないため、一度一階まで降りて駐輪場に挟まれた渡り廊下を渡らないといけなくて、少し手間だった。

「……いえ、その必要はないかと」

 唐突に挟まれた浮月さんの確信が滲む口調に、思わず振り返る。

 彼女は窓の向こうを見上げていて、視線の先を追ってみれば、向かい校舎の屋上から誰か人影がこちらへと手を振っていた。

「たぶん妹さんですね」
「他も全員いるっぽいね」

 なるほど。二クラス分の人が簡単に収まる場所といえば、下手な教室などよりも屋上の方が広々としたものだろう。

「あからさまに罠ですけど」と、浮月さんが微笑む。「飛び込んでみましょうか」
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