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はじまり
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聞きなれた目覚ましのアラーム音
窓から差し込む朝の光
いつもどうりの朝だ。
僕、大和 柚斗は朝の目覚めは良いほうで、速やかに身支度を整える。
母の用意する朝食を完食するためにも、朝の準備は早く済ませなければならない。慌てる朝なんてナンセンスだ。
母の優しい笑顔を崩すことは絶対にしないと心に決めている。これがマザコンとでもいうのならそれでも構わない。期待に応えられない自分になることの方が苦痛なのだ。
いつもどうりの朝食。
高校2年生の健全で健康な男子の食事量を過信している母の過剰な用意も僕は決して残すことなくたいらげ、いつもどうり感謝し、家を出る。
実に良い天気である。朝の日差しはなんと心地よいものか。高カロリー朝食を消費するようにしっかりと2駅分は歩いて登校するのが日課だ。
駅前に着くと、今日はなんか不思議な視線を感じる。誰かに見られているような…。
辺りを見渡してみるが特に変わりはないようだが…。トラブルはなるべく避けたいと個人的な付き合いは最小限にしているものの、何かと声をかけられやすいタイプのようで、何かしら見知らぬ人に交流を求められるのだが。今日はそのような人もいないようだ。視線は気のせいか?
駅と道路を挟んで反対側にあるマンションの前に、幼稚園の送迎バスを待つ親子が何組かいる。その中の一人が「桃太郎」の絵本を持っているのが視界に入ってきた。
「桃太郎ねぇ」
思わず声が出てしまった。
慌てて口を塞いだが、園児の親たちが気づいてしまったようでこちらを見る。
しまった!と思いつつ、当たり障りがないように優しく微笑んで会釈して通り過ぎる。
「おはようございます!!」
と、園児たちが答えてくれるのを遮るようにママたちが「おはようございます!!!」と声を荒げたのを感じた。
気持ち悪がられなくて良かった。
むしろママたちは何故かにこにこしている。
何が良かったのかわからないが、ま、トラブルにならなければ何でも良い。
いつもどうりの電車に乗り込む。
朝の電車が混むのは当たり前だ。この時間をイライラしないでに過ごすには、満員の中無理やり本を読もうとしたり、スマホを見て時間を過ごすより、静かに目を閉じ、瞑想タイムが有意義だ。
今日は、さっき目に入った「桃太郎」の絵本が気になっていつものような静かな瞑想ができない。
僕は、物心ついた時から、母に「柚斗は桃太郎なのよ」と言われ続けていた。
桃太郎の物語はもちろん、桃太郎としての心得だとか、桃太郎として習得しなければならない作法だとか。
一人っ子で母と二人っきりの生活だったので、それに疑問はなかった。
自分は将来鬼退治に出かけるのだ。それを信じていたのだ。
なんて健気で可愛い僕。
思わず電車の中だというのに笑いたくなってしまったではないか。
幼稚園に入ってからもそれは変わらず、いつか対峙するであろう鬼のために鍛練が必要だと思っていた。
そんな僕を打ち負かしたのが、生活発表会での劇だった。
みんなで「桃太郎」をやるというのだ。
そんなの僕がやらなくて誰がやるというのだ?
「桃太郎をやりたい人は挙手」と先生が問うた時、何故かクラス中の男子が手を挙げた。
いや、僕以外は桃太郎できないだろう?
普段、目立つような発言をしてこなかったがここは言わせてほしい!と
「僕は桃太郎なので、桃太郎は僕がやります」
そう発言した瞬間、一瞬の間と、どっと笑い声がクラス中に響き渡った。先生まで笑っている。何故だ?何がおかしいのだ??
何言ってんだよ~!柚斗くんどうしちゃったんだよ~!と口々に馬鹿にしたような笑いと発言に背筋が冷たくなっていくのを感じた。
5歳にして知ったのだ。
桃太郎は物語であって、僕は桃太郎ではないのだと。
なんて純粋な僕。
電車の中だというのに涙が出そうだ。
母の妄想だったなんて。父も鬼退治に出かけて忙しいだなんて、ただの単身赴任だったなんて。
はぁ
今度は電車の中でため息がこぼれてしまった。もう今日は不審な視線なんて気にしてられない。桃太郎事件を思い出してしまったのだ。今日くらい不審な行動も許してほしい。
電車での静かなる瞑想タイムはいつものようにいかなかったが、登校する学校は特に変化はなくいつもどうり。挨拶してくれる生徒に挨拶を返し、いつもどうり教室に入る。
そしていつもどうり学校での一日が始まる…はずだったのだが
教室に入ってくるはずの担任の先生が今日は違っていた。
ベテランで少し薄くなった頭頂部を隠すような分け目をした中年の先生ではなく、色素の薄い茶色の長髪で長身の若い男の人が入ってきたのだ。
誰だ?
光に当たっている部分は金色にも見える薄い茶色の長髪は天然なのかクルクルと緩やかなカールがかかっていて、その髪の下には、彫刻のような端正な顔立ち。蒼なのか灰色なのか薄い色の瞳。色素の薄い髪や瞳とは裏腹に、日焼けしたような小麦色の肌。鍛え上げられたような胸板にすらりと伸びた手足。
女子だけでなく、男子もその造形の美しさに息を飲んだ。
生徒たちの視線や動揺、ざわめきをよそに、真っ直ぐ僕の方を向いて彼は言った。
「今日から担任になった鬼龍島 豪だ!さっそくホームルームが終わったら大和柚斗、職員室にこい」
な、なんで?というか誰?
窓から差し込む朝の光
いつもどうりの朝だ。
僕、大和 柚斗は朝の目覚めは良いほうで、速やかに身支度を整える。
母の用意する朝食を完食するためにも、朝の準備は早く済ませなければならない。慌てる朝なんてナンセンスだ。
母の優しい笑顔を崩すことは絶対にしないと心に決めている。これがマザコンとでもいうのならそれでも構わない。期待に応えられない自分になることの方が苦痛なのだ。
いつもどうりの朝食。
高校2年生の健全で健康な男子の食事量を過信している母の過剰な用意も僕は決して残すことなくたいらげ、いつもどうり感謝し、家を出る。
実に良い天気である。朝の日差しはなんと心地よいものか。高カロリー朝食を消費するようにしっかりと2駅分は歩いて登校するのが日課だ。
駅前に着くと、今日はなんか不思議な視線を感じる。誰かに見られているような…。
辺りを見渡してみるが特に変わりはないようだが…。トラブルはなるべく避けたいと個人的な付き合いは最小限にしているものの、何かと声をかけられやすいタイプのようで、何かしら見知らぬ人に交流を求められるのだが。今日はそのような人もいないようだ。視線は気のせいか?
駅と道路を挟んで反対側にあるマンションの前に、幼稚園の送迎バスを待つ親子が何組かいる。その中の一人が「桃太郎」の絵本を持っているのが視界に入ってきた。
「桃太郎ねぇ」
思わず声が出てしまった。
慌てて口を塞いだが、園児の親たちが気づいてしまったようでこちらを見る。
しまった!と思いつつ、当たり障りがないように優しく微笑んで会釈して通り過ぎる。
「おはようございます!!」
と、園児たちが答えてくれるのを遮るようにママたちが「おはようございます!!!」と声を荒げたのを感じた。
気持ち悪がられなくて良かった。
むしろママたちは何故かにこにこしている。
何が良かったのかわからないが、ま、トラブルにならなければ何でも良い。
いつもどうりの電車に乗り込む。
朝の電車が混むのは当たり前だ。この時間をイライラしないでに過ごすには、満員の中無理やり本を読もうとしたり、スマホを見て時間を過ごすより、静かに目を閉じ、瞑想タイムが有意義だ。
今日は、さっき目に入った「桃太郎」の絵本が気になっていつものような静かな瞑想ができない。
僕は、物心ついた時から、母に「柚斗は桃太郎なのよ」と言われ続けていた。
桃太郎の物語はもちろん、桃太郎としての心得だとか、桃太郎として習得しなければならない作法だとか。
一人っ子で母と二人っきりの生活だったので、それに疑問はなかった。
自分は将来鬼退治に出かけるのだ。それを信じていたのだ。
なんて健気で可愛い僕。
思わず電車の中だというのに笑いたくなってしまったではないか。
幼稚園に入ってからもそれは変わらず、いつか対峙するであろう鬼のために鍛練が必要だと思っていた。
そんな僕を打ち負かしたのが、生活発表会での劇だった。
みんなで「桃太郎」をやるというのだ。
そんなの僕がやらなくて誰がやるというのだ?
「桃太郎をやりたい人は挙手」と先生が問うた時、何故かクラス中の男子が手を挙げた。
いや、僕以外は桃太郎できないだろう?
普段、目立つような発言をしてこなかったがここは言わせてほしい!と
「僕は桃太郎なので、桃太郎は僕がやります」
そう発言した瞬間、一瞬の間と、どっと笑い声がクラス中に響き渡った。先生まで笑っている。何故だ?何がおかしいのだ??
何言ってんだよ~!柚斗くんどうしちゃったんだよ~!と口々に馬鹿にしたような笑いと発言に背筋が冷たくなっていくのを感じた。
5歳にして知ったのだ。
桃太郎は物語であって、僕は桃太郎ではないのだと。
なんて純粋な僕。
電車の中だというのに涙が出そうだ。
母の妄想だったなんて。父も鬼退治に出かけて忙しいだなんて、ただの単身赴任だったなんて。
はぁ
今度は電車の中でため息がこぼれてしまった。もう今日は不審な視線なんて気にしてられない。桃太郎事件を思い出してしまったのだ。今日くらい不審な行動も許してほしい。
電車での静かなる瞑想タイムはいつものようにいかなかったが、登校する学校は特に変化はなくいつもどうり。挨拶してくれる生徒に挨拶を返し、いつもどうり教室に入る。
そしていつもどうり学校での一日が始まる…はずだったのだが
教室に入ってくるはずの担任の先生が今日は違っていた。
ベテランで少し薄くなった頭頂部を隠すような分け目をした中年の先生ではなく、色素の薄い茶色の長髪で長身の若い男の人が入ってきたのだ。
誰だ?
光に当たっている部分は金色にも見える薄い茶色の長髪は天然なのかクルクルと緩やかなカールがかかっていて、その髪の下には、彫刻のような端正な顔立ち。蒼なのか灰色なのか薄い色の瞳。色素の薄い髪や瞳とは裏腹に、日焼けしたような小麦色の肌。鍛え上げられたような胸板にすらりと伸びた手足。
女子だけでなく、男子もその造形の美しさに息を飲んだ。
生徒たちの視線や動揺、ざわめきをよそに、真っ直ぐ僕の方を向いて彼は言った。
「今日から担任になった鬼龍島 豪だ!さっそくホームルームが終わったら大和柚斗、職員室にこい」
な、なんで?というか誰?
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