52 / 103
第52話 開かれた真実
しおりを挟む
「……これが、LAPISの裏側──“Project MIRAGE”の全貌……?」
モニターに表示された文書の冒頭を読んだ瞬間、美佳の喉が乾いた。
それは単なる研究報告書ではなかった。都市全体を舞台にした、認知・心理操作の実験記録。そしてその中心にあったのが、「アンケート」による心理誘導システムだった。
画面には、各期の被験者データ、成功率、心理応答のトリガー条件、そして「鍵」による記憶操作のログが細かく記されていた。
「これ、全部……人の感情と記憶を、操作してたってこと……?」
純が目を見開き、マウスをスクロールさせていく。そこには個人コード、対象者の心理傾向、行動パターン、トリガーワード──。
一見匿名化されたデータだったが、解析された人物プロファイルの中には、明らかに美佳自身を指していると思われる記述も含まれていた。
> 被験者No.1427:サエグサ・ミカ。
特筆事項:現実受容傾向弱。情動記憶による反応が高く、誘導成功率87%。
推定キートリガー:「信頼」「後悔」「赦し」
「ふざけないで……これ、人の心を……!」
美佳の手が、震えていた。彼女はこれまで、自分の選択で生きているつもりだった。しかし、その選択はあらかじめ設計され、測定され、誘導されたものだったかもしれないのだ。
「つまり、彩音ちゃんは……自分がその被験者でもあり、協力者でもあった……?」
純が、口を開く。
画面の下部、アクセスログの中に『NANAMI_A-87』というIDが何度も出現していた。そこには、特定ファイルへのアクセス記録、編集履歴、そして警告コード。
何かに気づいた彩音が、記録を書き換えたり、データを隠した可能性が浮かび上がってきた。
「彩音ちゃんは、気づいたんだ……この実験の危険性に。そして、止めようとした」
「だけど、止められなかった。だから、“鍵”を残した」
美佳は鍵を握りしめた。
記録の最後、ファイルの末尾に添えられていた、未送信のメッセージ。それは、保存者による遺書のようにも見えた。
> 『もし、これを見ている誰かがいるなら──私はもう、ここにはいないかもしれない。
だけど、どうか忘れないで。人の心は、操作されるものじゃない。
自分で考えて、選んで、生きるもの。
私はその証明になりたかった。間に合わなかったけど、あなたなら、きっと……。』
「彩音ちゃん……」
画面の光が、ふたりの顔を照らしていた。外は夜のまま、都市の喧騒から切り離された静寂の中で、二人は黙ってその言葉を読んでいた。
やがて、純が画面を閉じる。
「これを公にすれば、LAPISも、藍都学園都市も、ただじゃ済まない。でも……このまま隠していいのか?」
美佳は、もう迷っていなかった。
「私は知ってしまった。だから……知ろうとしない人たちに、届くようにしたい」
それは、誰かに託された想いへの返答であり、美佳自身の“選択”だった。
遠くでサイレンの音が鳴る。時間がない。だが、それでも二人はゆっくりと歩き出した。次なる扉を開くために──。
モニターに表示された文書の冒頭を読んだ瞬間、美佳の喉が乾いた。
それは単なる研究報告書ではなかった。都市全体を舞台にした、認知・心理操作の実験記録。そしてその中心にあったのが、「アンケート」による心理誘導システムだった。
画面には、各期の被験者データ、成功率、心理応答のトリガー条件、そして「鍵」による記憶操作のログが細かく記されていた。
「これ、全部……人の感情と記憶を、操作してたってこと……?」
純が目を見開き、マウスをスクロールさせていく。そこには個人コード、対象者の心理傾向、行動パターン、トリガーワード──。
一見匿名化されたデータだったが、解析された人物プロファイルの中には、明らかに美佳自身を指していると思われる記述も含まれていた。
> 被験者No.1427:サエグサ・ミカ。
特筆事項:現実受容傾向弱。情動記憶による反応が高く、誘導成功率87%。
推定キートリガー:「信頼」「後悔」「赦し」
「ふざけないで……これ、人の心を……!」
美佳の手が、震えていた。彼女はこれまで、自分の選択で生きているつもりだった。しかし、その選択はあらかじめ設計され、測定され、誘導されたものだったかもしれないのだ。
「つまり、彩音ちゃんは……自分がその被験者でもあり、協力者でもあった……?」
純が、口を開く。
画面の下部、アクセスログの中に『NANAMI_A-87』というIDが何度も出現していた。そこには、特定ファイルへのアクセス記録、編集履歴、そして警告コード。
何かに気づいた彩音が、記録を書き換えたり、データを隠した可能性が浮かび上がってきた。
「彩音ちゃんは、気づいたんだ……この実験の危険性に。そして、止めようとした」
「だけど、止められなかった。だから、“鍵”を残した」
美佳は鍵を握りしめた。
記録の最後、ファイルの末尾に添えられていた、未送信のメッセージ。それは、保存者による遺書のようにも見えた。
> 『もし、これを見ている誰かがいるなら──私はもう、ここにはいないかもしれない。
だけど、どうか忘れないで。人の心は、操作されるものじゃない。
自分で考えて、選んで、生きるもの。
私はその証明になりたかった。間に合わなかったけど、あなたなら、きっと……。』
「彩音ちゃん……」
画面の光が、ふたりの顔を照らしていた。外は夜のまま、都市の喧騒から切り離された静寂の中で、二人は黙ってその言葉を読んでいた。
やがて、純が画面を閉じる。
「これを公にすれば、LAPISも、藍都学園都市も、ただじゃ済まない。でも……このまま隠していいのか?」
美佳は、もう迷っていなかった。
「私は知ってしまった。だから……知ろうとしない人たちに、届くようにしたい」
それは、誰かに託された想いへの返答であり、美佳自身の“選択”だった。
遠くでサイレンの音が鳴る。時間がない。だが、それでも二人はゆっくりと歩き出した。次なる扉を開くために──。
0
あなたにおすすめの小説
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
あの素晴らしい愛をもう一度
仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは
33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。
家同士のつながりで婚約した2人だが
婚約期間にはお互いに惹かれあい
好きだ!
私も大好き〜!
僕はもっと大好きだ!
私だって〜!
と人前でいちゃつく姿は有名であった
そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった
はず・・・
このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。
あしからず!
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる