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第42話 それぞれの色
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描きかけのキャンバスの前に立っていると、ドアが二度目に開いた。
入ってきたのは陸と澪だった。陸はジャージ姿で、練習帰りらしい。澪はスケッチブックを抱えていて、少し落ち着かない表情を浮かべていた。
「やっぱり蒼はここか。サッカー部の練習終わってから探したんだぞ」
陸が笑って言うと、澪も小さくうなずく。
「……私も、ちょっと見てみたくて」
私は少し頬が熱くなるのを感じながら、キャンバスを見せることにした。
「まだ途中なんだけど」
群青をベースに、淡い白や光のような色が重ねられた絵。未完成のままのその絵を見て、三人はそれぞれ違う反応を示した。
「なんか……不思議だな」
陸が言った。
「海みたいなのに、ただの海じゃない。走ってるときの空気に似てるっていうか……俺にとっての“自由”みたいな感じ」
「自由の色、か」私は小さくつぶやく。
「私は……」
澪が言葉を探すようにスケッチブックを抱きしめる。
「静かな朝みたいな感じ。人のいない教室とか、ページをめくる音しか聞こえない図書室……。落ち着くけど、ちょっと寂しい。そんな色」
その言葉を聞いて、私の胸の奥が少し温かくなる。澪が自分の感じたことを口にしたのは、これが初めてだったから。
「澪は、優しい色を持ってるんだね」
私が微笑むと、澪は驚いたように目を見開き、すぐに視線を逸らした。
「私は……」
千尋が腕を組んだまま、静かに言葉を紡ぐ。「インクの匂いがするような、深い黒。そこから物語が立ち上がっていく。無から有を生み出す色だね」
千尋らしい表現に、陸が「さすが文芸部」と笑い、澪も少しだけ表情を和らげた。
私は三人の言葉を胸に刻む。
──私の色は、まだ名前のない色。でも、こうしてみんなの色と重なったら、きっとひとつの絵になる。
そう思えたとき、キャンバスに向かう心が少し軽くなった。
入ってきたのは陸と澪だった。陸はジャージ姿で、練習帰りらしい。澪はスケッチブックを抱えていて、少し落ち着かない表情を浮かべていた。
「やっぱり蒼はここか。サッカー部の練習終わってから探したんだぞ」
陸が笑って言うと、澪も小さくうなずく。
「……私も、ちょっと見てみたくて」
私は少し頬が熱くなるのを感じながら、キャンバスを見せることにした。
「まだ途中なんだけど」
群青をベースに、淡い白や光のような色が重ねられた絵。未完成のままのその絵を見て、三人はそれぞれ違う反応を示した。
「なんか……不思議だな」
陸が言った。
「海みたいなのに、ただの海じゃない。走ってるときの空気に似てるっていうか……俺にとっての“自由”みたいな感じ」
「自由の色、か」私は小さくつぶやく。
「私は……」
澪が言葉を探すようにスケッチブックを抱きしめる。
「静かな朝みたいな感じ。人のいない教室とか、ページをめくる音しか聞こえない図書室……。落ち着くけど、ちょっと寂しい。そんな色」
その言葉を聞いて、私の胸の奥が少し温かくなる。澪が自分の感じたことを口にしたのは、これが初めてだったから。
「澪は、優しい色を持ってるんだね」
私が微笑むと、澪は驚いたように目を見開き、すぐに視線を逸らした。
「私は……」
千尋が腕を組んだまま、静かに言葉を紡ぐ。「インクの匂いがするような、深い黒。そこから物語が立ち上がっていく。無から有を生み出す色だね」
千尋らしい表現に、陸が「さすが文芸部」と笑い、澪も少しだけ表情を和らげた。
私は三人の言葉を胸に刻む。
──私の色は、まだ名前のない色。でも、こうしてみんなの色と重なったら、きっとひとつの絵になる。
そう思えたとき、キャンバスに向かう心が少し軽くなった。
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