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第43話 重なり合う色
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みんなが口にした「それぞれの色」が、私の心に残っていた。
自由の色。静かな朝の色。物語の黒。
そして、まだ名前のない、私の色。
美術室の窓から差し込む午後の光が、キャンバスの群青に柔らかく反射している。その光景を見ていると、まるで色たちが混ざり合って、ひとつの大きな絵になろうとしているように思えた。
「蒼」
陸が声をかける。
「なんか、今のお前、すごく楽しそうだな」
私は驚いて、思わず笑ってしまった。
「そう見える?」
「うん。前よりずっと」
陸の真剣な瞳に、少しだけ胸が熱くなる。
「……私、次の絵には、みんなの色を重ねたい」
自分でも驚くほど、はっきりとそう言えた。
澪が目を丸くして、少し照れくさそうにうなずく。
「それなら……私も手伝っていい?」
その一言が、とても嬉しかった。今まで自分の殻に閉じこもっていた澪が、こうして自分から歩み寄ってくれるなんて。
「もちろん」
そう答えると、千尋がにやりと笑う。
「じゃあ私も文章で参加しよう。蒼の絵に添える詩とか、いいでしょう?」
「いいね、それ」
陸が声を上げる。
「だったら俺はモデルになってやるよ! 走ってる姿でも描いてみれば?」
「えっ、それは……」
私は慌てて否定しかけたけれど、心の奥で少しわくわくしている自分に気づく。
ひとりで描いていた頃にはなかった感覚。
絵が、私だけのものじゃなくなっていく。
色が重なり合い、響き合い、広がっていく。
──そうか。私の“まだ名前のない色”は、きっと誰かと出会って初めて形になる色なんだ。
そう気づいた瞬間、群青のキャンバスが少しだけ新しい輝きを帯びたように見えた。
自由の色。静かな朝の色。物語の黒。
そして、まだ名前のない、私の色。
美術室の窓から差し込む午後の光が、キャンバスの群青に柔らかく反射している。その光景を見ていると、まるで色たちが混ざり合って、ひとつの大きな絵になろうとしているように思えた。
「蒼」
陸が声をかける。
「なんか、今のお前、すごく楽しそうだな」
私は驚いて、思わず笑ってしまった。
「そう見える?」
「うん。前よりずっと」
陸の真剣な瞳に、少しだけ胸が熱くなる。
「……私、次の絵には、みんなの色を重ねたい」
自分でも驚くほど、はっきりとそう言えた。
澪が目を丸くして、少し照れくさそうにうなずく。
「それなら……私も手伝っていい?」
その一言が、とても嬉しかった。今まで自分の殻に閉じこもっていた澪が、こうして自分から歩み寄ってくれるなんて。
「もちろん」
そう答えると、千尋がにやりと笑う。
「じゃあ私も文章で参加しよう。蒼の絵に添える詩とか、いいでしょう?」
「いいね、それ」
陸が声を上げる。
「だったら俺はモデルになってやるよ! 走ってる姿でも描いてみれば?」
「えっ、それは……」
私は慌てて否定しかけたけれど、心の奥で少しわくわくしている自分に気づく。
ひとりで描いていた頃にはなかった感覚。
絵が、私だけのものじゃなくなっていく。
色が重なり合い、響き合い、広がっていく。
──そうか。私の“まだ名前のない色”は、きっと誰かと出会って初めて形になる色なんだ。
そう気づいた瞬間、群青のキャンバスが少しだけ新しい輝きを帯びたように見えた。
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