堕ちていく

菊池まりな

文字の大きさ
35 / 38

第35話 児童福祉施設設立に向けて

しおりを挟む
春の終わり、桜の花びらが風に乗って舞う季節。
紗英と航平は、「悠愛園」設立に向けて、本格的に地域とのつながりを深めていく準備を進めていた。

図書室の壁には、「未来の施設『悠愛園』を一緒に育ててくれる仲間を募集中です!」という手作りのポスターが貼られていた。航平が作り、紗英がイラストを添えたそのポスターは、訪れる親子の目に留まり、少しずつ反響を呼んでいた。

日曜の午前中、読み聞かせイベントのあと、あるお母さんがそっと声をかけてきた。

「紗英さん、もしよかったら……うちの子、発達障がいがあるんです。でも、この図書室は安心できる場所って言ってくれて。悠愛園、私も応援したいです」

紗英は思わず胸が熱くなった。
「ありがとうございます。まだ始まったばかりなんですけど……一緒に育てていただけたら、心強いです」

その日から、地域のママさんたちやボランティア希望者が少しずつ集まり始め、悠愛園の設立準備は、具体的な形になっていった。

寄付を募るため、クラウドファンディングも始めた。航平は資金計画や手続き関係を担当し、紗英は動画のナレーションと絵本キャラクターたちを描いたイラストで、想いを届けた。

動画の中で、紗英は語りかけた。

> 「ひとりぼっちだと思っていた私が、今では“居場所”を作りたいと思っています。
子どもたちが、どんな個性も否定されることなく、のびのびと育てる場所――それが、悠愛園です」



クラウドファンディングの支援者から届いた応援メッセージの中には、こんな言葉もあった。

> 「昔の私に、こんな場所があったらよかった。応援しています」



> 「自閉症の息子がいます。未来が少し明るく見えました」



紗英は、画面に映るそのメッセージのひとつひとつを読みながら、涙をぬぐった。

ある日曜日の午後、地域の公民館で「悠愛園設立説明会兼、ふれあい読み聞かせイベント」が開催された。航平の働きかけで、自治会や地域の小児科の先生も協力してくれた。

会場には、発達障がいや知的障がいを持つ子どもたち、グレーゾーンの子を育てる親、そして教育や福祉に関心のある地域住民など、思っていた以上の参加者が集まった。

紗英は、緊張しながらも、マイクを握り語った。

「私自身、心に障がいを抱えていたような時期がありました。そんな私が変われたのは、誰かに“理解してもらえた”からです。今度は私たちが、その手を差しのべる番だと思っています」

会場の空気が、少しずつ温かくなっていくのを、紗英は肌で感じた。

そして読み聞かせの時間。
「くまくんのとおいみち」
「くまくんの帰りみち」
……子どもたちは、目をキラキラさせながら、紗英の声に耳を傾けていた。

小さな手が、紗英の手をそっと握った。
「くまくん、すき……」

その一言で、すべてが報われる気がした。

イベントの最後、航平が言った。
「“悠愛園”は、まだ生まれていないけれど、今日、みなさんとこうして出会えたことで、その第一歩を踏み出せたと思っています。どうか、これからも見守ってください」

拍手が自然と起こり、その音の中で、紗英と航平は顔を見合わせ、微笑んだ。

未来はまだ未完成で、不安もある。
けれど、ふたりの中には確かな希望が芽吹いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...