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第35話 児童福祉施設設立に向けて
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春の終わり、桜の花びらが風に乗って舞う季節。
紗英と航平は、「悠愛園」設立に向けて、本格的に地域とのつながりを深めていく準備を進めていた。
図書室の壁には、「未来の施設『悠愛園』を一緒に育ててくれる仲間を募集中です!」という手作りのポスターが貼られていた。航平が作り、紗英がイラストを添えたそのポスターは、訪れる親子の目に留まり、少しずつ反響を呼んでいた。
日曜の午前中、読み聞かせイベントのあと、あるお母さんがそっと声をかけてきた。
「紗英さん、もしよかったら……うちの子、発達障がいがあるんです。でも、この図書室は安心できる場所って言ってくれて。悠愛園、私も応援したいです」
紗英は思わず胸が熱くなった。
「ありがとうございます。まだ始まったばかりなんですけど……一緒に育てていただけたら、心強いです」
その日から、地域のママさんたちやボランティア希望者が少しずつ集まり始め、悠愛園の設立準備は、具体的な形になっていった。
寄付を募るため、クラウドファンディングも始めた。航平は資金計画や手続き関係を担当し、紗英は動画のナレーションと絵本キャラクターたちを描いたイラストで、想いを届けた。
動画の中で、紗英は語りかけた。
> 「ひとりぼっちだと思っていた私が、今では“居場所”を作りたいと思っています。
子どもたちが、どんな個性も否定されることなく、のびのびと育てる場所――それが、悠愛園です」
クラウドファンディングの支援者から届いた応援メッセージの中には、こんな言葉もあった。
> 「昔の私に、こんな場所があったらよかった。応援しています」
> 「自閉症の息子がいます。未来が少し明るく見えました」
紗英は、画面に映るそのメッセージのひとつひとつを読みながら、涙をぬぐった。
ある日曜日の午後、地域の公民館で「悠愛園設立説明会兼、ふれあい読み聞かせイベント」が開催された。航平の働きかけで、自治会や地域の小児科の先生も協力してくれた。
会場には、発達障がいや知的障がいを持つ子どもたち、グレーゾーンの子を育てる親、そして教育や福祉に関心のある地域住民など、思っていた以上の参加者が集まった。
紗英は、緊張しながらも、マイクを握り語った。
「私自身、心に障がいを抱えていたような時期がありました。そんな私が変われたのは、誰かに“理解してもらえた”からです。今度は私たちが、その手を差しのべる番だと思っています」
会場の空気が、少しずつ温かくなっていくのを、紗英は肌で感じた。
そして読み聞かせの時間。
「くまくんのとおいみち」
「くまくんの帰りみち」
……子どもたちは、目をキラキラさせながら、紗英の声に耳を傾けていた。
小さな手が、紗英の手をそっと握った。
「くまくん、すき……」
その一言で、すべてが報われる気がした。
イベントの最後、航平が言った。
「“悠愛園”は、まだ生まれていないけれど、今日、みなさんとこうして出会えたことで、その第一歩を踏み出せたと思っています。どうか、これからも見守ってください」
拍手が自然と起こり、その音の中で、紗英と航平は顔を見合わせ、微笑んだ。
未来はまだ未完成で、不安もある。
けれど、ふたりの中には確かな希望が芽吹いていた。
紗英と航平は、「悠愛園」設立に向けて、本格的に地域とのつながりを深めていく準備を進めていた。
図書室の壁には、「未来の施設『悠愛園』を一緒に育ててくれる仲間を募集中です!」という手作りのポスターが貼られていた。航平が作り、紗英がイラストを添えたそのポスターは、訪れる親子の目に留まり、少しずつ反響を呼んでいた。
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紗英は思わず胸が熱くなった。
「ありがとうございます。まだ始まったばかりなんですけど……一緒に育てていただけたら、心強いです」
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動画の中で、紗英は語りかけた。
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> 「昔の私に、こんな場所があったらよかった。応援しています」
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紗英は、画面に映るそのメッセージのひとつひとつを読みながら、涙をぬぐった。
ある日曜日の午後、地域の公民館で「悠愛園設立説明会兼、ふれあい読み聞かせイベント」が開催された。航平の働きかけで、自治会や地域の小児科の先生も協力してくれた。
会場には、発達障がいや知的障がいを持つ子どもたち、グレーゾーンの子を育てる親、そして教育や福祉に関心のある地域住民など、思っていた以上の参加者が集まった。
紗英は、緊張しながらも、マイクを握り語った。
「私自身、心に障がいを抱えていたような時期がありました。そんな私が変われたのは、誰かに“理解してもらえた”からです。今度は私たちが、その手を差しのべる番だと思っています」
会場の空気が、少しずつ温かくなっていくのを、紗英は肌で感じた。
そして読み聞かせの時間。
「くまくんのとおいみち」
「くまくんの帰りみち」
……子どもたちは、目をキラキラさせながら、紗英の声に耳を傾けていた。
小さな手が、紗英の手をそっと握った。
「くまくん、すき……」
その一言で、すべてが報われる気がした。
イベントの最後、航平が言った。
「“悠愛園”は、まだ生まれていないけれど、今日、みなさんとこうして出会えたことで、その第一歩を踏み出せたと思っています。どうか、これからも見守ってください」
拍手が自然と起こり、その音の中で、紗英と航平は顔を見合わせ、微笑んだ。
未来はまだ未完成で、不安もある。
けれど、ふたりの中には確かな希望が芽吹いていた。
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