堕ちていく

菊池まりな

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第36話 芽生え

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秋の風が、図書室の掲示板をそっと揺らした。そこには、「子どもたちと未来をつなぐ場──“悠愛園”プロジェクト始動」の大きなポスターが貼られていた。

紗英と航平は、図書室で地域住民を対象にした説明会を開いていた。まだ施設は形になっていなかったが、夢に向けた一歩を、確かなものにしたいと思っていた。

「……地域の皆さんのご理解とご協力がなければ、悠愛園は成り立ちません。どうか、この街の子どもたちの未来のために、力を貸してください」

紗英の言葉に、会場が静まり返った。そのあと、ぽつりと一人の年配女性が手を挙げた。

「私は以前、保育士をしていました。もう引退したけれど、少しでも力になれればと思って……。子どもたちの声がまた聞けるなんて、うれしいです」

そのひと声がきっかけになったのか、ぽつぽつと周囲から声が上がり始めた。

「わたし、調理ボランティアなら手伝えるよ」 
「畑を貸してもいい。自然の中で育つ喜びも、子どもたちに教えてやってくれ」 
「木工が得意だから、園のベンチや棚くらいなら作れる」

紗英はその場で涙を堪えきれなかった。ずっと一人で背負ってきたような気がしていたけれど、こんなにも多くの手が、自分たちの夢を支えようとしてくれていたのだ。

航平がそっと紗英の背中に手を当てる。

「大丈夫。みんな、仲間になってくれるよ。ひとりじゃないって、思い出して」

その夜、ふたりは図書室の片隅で、手作りのコーヒーを分け合いながら誓い合った。

「夢じゃないね、もう」 
「うん。始まってるんだ、現実が」

そして、悠愛園は地域の温かな支えとともに、ゆっくりと芽を出し始めていた。
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